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番外編3 猫の呟き1-10(おぬこさま視点)

Twitterで公開していた発売記念名刺SSのテキスト版です。


【これは単なる気の迷い】


 最近、オレの縄張りの空中庭園にアリアがやってくる。彼女は王太子の婚約者であり、完全無比の公爵令嬢なのだが、「おぬこさまぁ」などとオレの姿を見かけるとだらしない顔で鼻の下を伸ばす。

 オレの様子をうかがいつつ撫でたそうな顔をするから、ツンとそっぽを向けば、ガッカリと肩を落とす姿が可愛い。……可愛い? 馬鹿な。可愛くはない。けっして可愛くなんかない!



【評価は公正なのだ】


 アリアは空中庭園に来ると、まずオレに挨拶し、そそくさと垣根の間から下を覗く。グフグフだとか、トウトイだとか意味不明な喉を鳴らして気味が悪い。そうやって一通り気がすめば、ベンチに座って読み書きを始める。

 古い辞書で古い絵本を訳しているようだ。言葉なんて変わるから新しいものを使えよと内心思う。……まぁ、べつにどうでもいいけど! 別にどうでもいいけれど、勉強熱心だな、くらいには思ってやる。



【花の匂いは曲者】


 今日も空中庭園の花々を揺らしながらアリアがやって来た。アリアの定位置オレが昼寝を決め込んで無視をしていれば、アリアは黙って違うベンチに座った。こっちに来ないのが何だかムカつく。

 イヌハッカの香りがアリアから漂ってくる。オレは思わず顔をあげ鼻を引くつかせた。別にアリアの側に行きたいわけじゃない。イヌハッカの匂いが猫を誘っているだけだ。別に、その膝に抱かれたいとか、思っているわけじゃないからな!


【おじゃまむしは嫌い】


 アリアは猫が好きなようだが、むやみにベタベタ触れることもないから感心だ。オレの気持ちをよく心得ている。

 アリアの膝は気持ちが良い。温かくて柔らかい。だから、オレ様専用のソファーにしてやってもいい。機嫌よくまどろんでいれば、この国の王太子がやってきた。アリアの婚約者だというけれど、どうせ政略結婚だ。その癖アリアに馴れ馴れしいのがムカツク。腹が立って庭を出た。



【ニャアしか言えない】


アリアが布包みをとくと、中から羊皮紙ばりの豪華な辞書が現れた。

「内緒よ? ジークから貰ったの」

 嬉しそうに自慢する。ムカついて手を出してみれば、慌ててオレから辞書を守る。手の甲に猫の爪痕。白い肌がピンクに染まる。傷付けるつもりはなかった。アリアは怒らず困ったふうに笑った。

「紙は元に戻せないから、悪戯したらダメよ?」

 壊れたらもっといいものをやる、呟きは「ニャア」と響いた。


【こっちを見ろよ】

 

 今日もアリアは空中庭園で木々の間から学園の様子をうかがっていた。オレも隣で様子を見る。アリアの目線の先には、王太子とピンクの髪の少女がいた。その女は動物と話しができるようなのでオレもたまに会う。そこそこ可愛い女だ。

 オレに気づきもしないアリア。婚約者と美少女の仲睦まじい様子を見るのはどんな気分なんだろう。何だか気に入らないから鳴いてみる。彼女はオレに気がついて静かに笑った。



【恋を知らない】


 政略結婚というわりに、アリアはよく王太子を見ている。それが本当にムシャクシャする。別にアリアが気になるんじゃない。親に言われた通りに、生きるアイツらがムカつく。

 愛のない婚約の癖に、恋人ごっこをしているアイツらに虫唾が走るのだ。政略ならそれらしく距離を保てばいいのだ。それとも奴らはガキなのか? いつか愛が芽生えるとでも思っているのだろうか。バカバカしい。そんなこと、あってたまるか。



【らしくないだろ?】


テスト勉強で最近来なかったアリアが久々に空中庭園に来た。今日は覗き見もせず、ため息をつきながら本を開く。学園内では肩ひじ張っていたのを知っているから仕方がない。オレ様がご褒美をやろう。

 脛に頭を摺り寄せれば、アリアは寂し気な顔でオレを抱き上げた。彼女の胸で大人しくしてやれば彼女は遠慮なくオレの額の匂いを嗅ぎ、幸せそうにヘニャリと笑った。

 ……まぁ、今日だけはその無礼、許してやる。



【ムカツクムカツク】


 学園内を歩いていれば、王太子とピンク髪の少女がベンチで二人話しているのを見かけた。特異な彼女の面倒を王太子の責務として見ているらしい。知ってはいたが少しムカつく。アイツはアリアの婚約者の癖に! 

 視線を感じて振り向けば、柱の陰にアリアの影。ニヤニヤした顔で二人を見ている。なんだ、あの女。この間はあんなに落ち込んでいたくせに。オレはムシャクシャしたまま王太子の足を踏みつけその場を去った。



【気の迷いじゃない】


 今日も今日とてアリアは木の茂みで双眼鏡を覗いている。覗きが趣味のヘンタイ令嬢だなとため息をつく。何かに手を合わせ『テンゴク』などと呟いた。たどたどしいが、オレの国の言葉でビックリして顔をあげる。アリアはオレを見て悪戯っぽく『ナイショ、よ』と笑った。

 久々に聞く国の言葉。潮風を思い出した。アリアを連れて帰りたい。あの海を見せたい。オレだったらコイツをもっと自由に……そう考えて苦く笑った。



電子書籍版発売中です!

電子版の特典SSは『ラルゴとアリア 焦がしキャラメル仕立て』ラルゴ視点のお話となっております。

よろしくお願いします。

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