ああ、やっぱり来ちゃったね……
さくらさんは、にやけた笑顔で申し訳なさそうに話す。
「いろはちゃんのおっぱいに一目惚れして、なんとか再現できないかと……」
「そんな……、ということは私の胸はいろはちゃんのとほぼ同一……」
「うん、本人よりさらに小さいけどね」
なんということでしょう。
つまり、自分の胸を揉んだら、いろはちゃんの胸を揉んだことになるのか。
あとで試してみよう。
「あれ? なんか嬉しそう?」
「そ、そんなことないですよ、あ~あ、さくらさんのせいで~」
「ごめんね~」
その時、さくらさんの胸が揺れる。
……何だこれは。
今まで出会ったすべての果実より大きい。
「ごめんね、色々隠してて……」
さくらさんが何か言ってるが、耳に入ってこなかった。
私は2つの果実を凝視していた。
それがどんどん近づいてくる。
「え?」
気付けば、私の顔がその果実に包まれていた。
私が突っ込んだんじゃない。
さくらさんが私を抱き寄せていた。
「私の都合で辛い思いをさせたよね、ごめん」
「さくらさん……」
「こんなこと言える資格ないかもしれないけど……」
そこまで言うと、私を一旦解放する。
不思議なことに、他の人に抱くようなやましい気持ちは湧いてこなかった。
ただやさしかった、とても。
「私、かなでちゃんのことも本当の娘だと思ってるから」
今度は軽く抱き寄せられ、頭をなでてもらった。
これがお母さんっていうものなのかな?
今までとは違う恥ずかしさのようなものがこみあげてきた。
その時、私の頭をなでる手が止まった。
「ああ、やっぱり来ちゃったね……」
「え?」
さくらさんが私を背後にかばうようにして海の方をむいた。
私も後ろから覗き込んでみた。
そこには恐ろしい光景があった。
「空が……」
なんと空が割れていっている。
アニメとかで見るような、そんな光景だった。
それが異世界ではなく、こっちの世界で起きている。
割れたところから何かが降ってくる。
黒いモヤモヤみたいな玉のように見える。
それが砂浜に着地すると、そこから黒い霧が吹き出した。
霧が大きくなり、その中から巨大な灰色の天使が現れた。
「これ……、あの時の……」
灰色の天使は、遊園地のゲームに出てきた堕天使と似ていた。
なんでこんなところに……。
何が起きてるの?
「かなでちゃん、下がっててね」
さくらさんは片手を空にむかってかざす。
まわりの空気が少し変わった気がした。
「ごめんね、結界張ったから今は出られなくなっちゃってる」
「結界?」
私が驚いていると、さくらさんがちょっと大きめの銃のようなものを取り出した。
それを何もないところにむかって撃つ。
青い光の玉が放たれる。
光の玉はしばらくして、まるで壁に当たったかのように弾けた。
その場所は空間が歪んだように、蜃気楼のように揺れていた。
「これが結界?」
「この世界を壊すわけにはいかないからね」
「さくらさん?」
「大丈夫だよ、私、結構強いから」
さくらさんは銃を堕天使にむけて発砲した。
直撃を受けた堕天使は、まるで化物のような唸り声をあげる。
相当なダメージをうけているように見える。
しかし6枚の灰色の羽根が不気味に光ると、傷がどんどん癒えていった。
どこかで見たような光景に背中が冷たくなった。
私やいろはちゃんと似ているような気がしたからだ。
さくらさんは何度も光の玉を打ち込んでいく。
それでも相手の回復スピードはなかなかに早い。
「こっちの世界じゃパワーが足りないか……」
さくらさんの想定以上に苦戦しているみたいだ。
私にできることはないのかな……。
そう思っていた時、堕天使の羽根のあたりで閃光のようなものがみえた。
そして羽根が1枚、堕天使から切り離されていった。
痛みがあるのか、大きな唸り声をあげている。
堕天使は大きく腕をふるいあげ、魔法で作り出した槍を投げてくる。
それはまっすぐ私にむかって飛んできた。
「きゃ~!?」
「かなでちゃん!?」
思わず目を閉じ、後ろをむいてしまった。
「はぁっ!」
誰かの声とともに、何かがぶつかりあう音がした。
私は無事だった。
恐る恐る前を見ると、そこにいたのは。
「モカさん……」
「間に合ってよかったわ……」
モカさんが槍を弾き飛ばしてくれていた。
いつもいつも本当にありがとう……。
「大丈夫よ、かなでさんは私が守ってみせるから!」
モカさんは堕天使にむかって突っ込んでいった。
それはあのゲームの時と同じ、死神の姿だった。




