まぁ、かなでがどんな道に進もうとボクは応援するよ、いまさらだしね
目の前に広がるシェアハウスの露天風呂。
見慣れた場所に心が落ち着いた。
すこし疲れたかな。
初めての異世界だったからなぁ。
自分でも気づかないうちに緊張していたのかもしれない。
でもいいところだった。
落ち着いたら、ここのみんなを連れていきたいな。
そう思いながら、私は露天風呂をでた。
みんなもう寝てるかな、今って何時なんだろう?
廊下を進んでいくと、リビングに明かりがついていた。
みんなまだ起きてるんだ。
今の時間も状況もわからないので、
なんと言えばいいか思いつかず、無言でリビングに入った。
みんなの反応を見て対応しよう。
「あ、かなで、お風呂長かったね~」
リビングでまず声をかけてきたのはユウキだった。
と言っても、顔はスマートフォンにむいたままだったけど。
なんで私ってわかったんだろう……。
「あ、かなでさん、出てきました?」
ユウキの声で私が入ってきたのがわかったのか、いろはちゃんが階段を下りてくる。
どうやら二階の廊下にいたらしい。
マロンちゃんの姿も見える。
そしていろはちゃんは私の姿を見ると、目を丸くし立ち止まった。
「ん? どうしたの、いろはちゃん?」
「え、あ、いえ何も」
そう言いながらも、目をそらすいろはちゃん。
何だろうと思っていると、ユウキが驚いたような声を出した。
「うわっ! かなで、世界の平和を守るために何かと戦ってたのか?」
「何言ってるの、ユウキ……」
「いや、だって、ようやくパーカー以外を着たと思ったらそれだよ?」
そこまで言われてようやく気付く。
あ、私の服ってそういえば……。
「魔法少女かなでだよ~!」
マロンちゃんが嬉しそうにはしゃぐ。
しまった。
モカさんにタオルを持って行かれたことに気を取られて、自分の姿がどう見えるかなんて気にしてなかった。
まあでも、みんなの前でよかった。
アニメ好きだし、まだコスプレしてるくらいで済む。
街に繰り出してたら……。
そういえばお姉ちゃんはまったく反応しなかったなぁ。
違和感なかったとか?
「まぁ、かなでがどんな道に進もうとボクは応援するよ、いまさらだしね」
「いまさらってどういうこと!?」
「覚えてないのか? ちょっと前にも……」
と、そこまで言いかけてユウキは言葉をとめる
「まぁ、せっかく忘れてるならいいか」
「ええ!? ちょっと気になるんだけど!」
なにかあったっけ?
「思い出さない方がいいですよ」
「いろはちゃんまで!?」
本当に何があった?
思い出さない方がいいか……。
「じゃあかなでも戻ってきたし、ボクは寝るよ」
「あ、おやすみ」
「おやすみ」
ユウキがゆっくりと階段を上って、自分の部屋へむかった。
私のこと待ってたのかな?
「じゃ、かなで、私も寝るね」
「マロンちゃんもおやすみ」
「うん」
マロンちゃんも手を振って自室へ戻っていった。
残るはいろはちゃんだけだった。
「ふたりとも、心配してたんですよ」
「え?」
私はいろはちゃんの方を振り向く。
いろはちゃんは少し困ったような微笑みを浮かべていた。
むこうの世界へ行ったの、わかってたのか……。
私が戻ってくるのを待っててくれたってことだよね。
それでも何も言わずにいてくれるのか。
みんなやさしいな。
「いっつも勝手に無茶するんですから……」
「ご、ごめんね」
「本当に反省してるんですか?」
いろはちゃんがジト目をむけてくる。
「その表情、かわいいね」
「な!?」
私の言葉に驚いて赤くなる。
「もう、かなでさんのことなんか知りません!」
そう言って階段をかけあがるいろはちゃん。
その時ちらっと見えた表情は笑顔だった。
「私も寝るとしますか」
みんなのやさしさに温かい気持ちになりながら、私は自分の部屋にむかった。




