#050 Lugen
ふう。投稿しては途切れ、途切れ……。夏の暑さは耐えきれないです。へにゃりとぐでぐだの中間を行く状態で書いたり書かなかったりインターネットしたり。冬のほうが足し算で何とかできるから好きです。冷房器具が環境破壊につながるとかいう、足し算を押し付けた相手に報復される怖さ。
早く冬にならないかなあ。夏生まれの人は夏が好きとか聞いたような気がするけど……。
どうぞ。
歩きながら他愛もない話をすると思っていたのだが、何にも話さないままに俺たちはいかにも港町っぽいところまで来ていた。夏ならば砂浜やらで観光に来るやつもいるだろうし、港町ならば魚が美味そうにも思う。
通りがかったおばあさんが、にこにこしながら小海に話しかけていた。
「おっ、利世ちゃん。カレシかい?」
「ふふ、秘密です」
こいつ余計なことを、とは思いながらも「伊吹です」と適当にあいさつをしておく。このときは笑顔と言うものが肝要で、これがないと愛想のない人間だということが一瞬で分かってしまうのだ。円滑なコミュニケーションをしようと思うなら、聞いている姿勢を見せるだとか付き合いやすそうな雰囲気を醸し出すとか、そういうことをしなくてはならない。まさか気配を感じる人もいないだろう、つまり見た目をそうすればいいのだ。
見た目に騙されるやつは多い。文字通り人付き合いにも老練なおじいさんやおばあさんであれば見抜く人もいるが、若者は騙されるのが普通だ。
「ふーん、いい人みたいだね。あんた、伊吹くん、街のみんな敵に回さないようにね」
「大丈夫ですよ。こいつとは何の関係もないんで」
ふーん、うんうんと意味深にうなずかれてしまった。
「それじゃあね、利世ちゃん」
「ええ、また。干し柿ありがとうございました」
「いいんだよ。体、大事にね」
会話を円滑に終わらせるのには、前のことを言うのがいいのか。ふむふむ。
「バカですね伊吹くん。こいつなんて言ったら仲がいいと思われちゃうでしょう?」
「ああ、そうか……。悪い」
「ある程度まではいいんですよ。でもそこから先は踏み込んじゃダメです」
「ややこしいな」
振り向くと、黒いロングスカートがふわりと流れた。
「あっ、いいですよその顔。なんだかどぎまぎしてますね」
「からかうなよ」
小海が並外れた美人なのは最初に見たときに分かっていたが、振り向いた顔もとてもきれいだ。それを素直に口にするのは何だか負けたような気がして嫌だった。
「わたしってそんなに見返り醜女でした?」
「いや美人だぜ。かわいげがねえな」
可愛らしい顔立ちだし上品な所作や言葉遣いは美しさを演出する材料になる。だが、言動の端々にゲスさが見えているだけだ。
「可愛いのに惜しい」
「いやですねー可愛いだなんて」
ちょっとにやけているので、だいたい素直に受け取ってくれているようだ。
そんな感じで、俺たちはずっと歩いて行った。
どこまで歩くんだよと言うととっておきのところまでですと小海は言う。とっておきのところとは言われても、一月の最初くらい、寒い今の時期に、寂れてはいないが港町のどこかにそんなに素晴らしい場所があると言うのだろうか。
古色蒼然とした納屋らしき建物を見ても小海は立ち止まらないし、立派な家みたいなところも前を通り過ぎる。防風林のような場所もそのまま過ぎていく。
「どこに行くんだ?」
「着きました。海が見えるところです」
高い防波堤のような、とは言いつつも土手のような生活になじんだ愛らしさを残している場所だった。階段があり、小海はそこに座った。女の子はハンカチを敷くとかいうのは幻想だったのか、と思ったが、よく考えるとコートを着ている。汚れるのはもっぱらコートで服ではない、という理屈だろう。
小海がこっちを向きながら自分の横に手を出した。それに従って、俺も横に座る。海の方から風が吹いていて、コートの裾もロングスカートの裾もばたばた揺れる。茫漠たる灰緑の海は、ざあ、ざん、と静かだった。島も見えず船もない。
「分かってもらえました?」
漠然とした問いかけだったが、なんとなく察することはできた。
どういう状況に置かれているのか、何をしてほしいのか。
分かりましたか、ということなんだろう。
「まだだな。小海がちょっとした人気者だってことは分かったけど、それ以外のことはあんまりよく分からねえ。どうすんだ?」
「そうですねー、もう少し一緒にいてください」
意図が読めない。
「正直なところ心は揺らぎまくりですよ。でも伊吹くん、あなたはちょっと正直すぎるのでナシですね。もうちょっとオブラートに包んでくれそうな人がいいです」
「悪い、血を吐きそうなんだが」
肺に傷が入ったわけではないので血を吐いたりはしないが、女の子からナシですと言われてしまうと、これ、なかなかにショックだ。
「冗談ですよ」
「どっちだよ!」
本気で怒りそうになったぞおい。
「初めて出会ったところの人にそんな評価を下すわけないでしょう? もうちょっと付き合いが長くなってから判断するものですよね?」
「考えてみりゃそうだが、俺だって疑い深くも純朴な一男子だぜ。女子に付き合いたくないとか言われてみろ、傷付くよ」
「んー、どうですかね。傷付くかもしれないですけど」
びゅうびゅうと風がうるさい。
「あ、小海さんだ」
誰かがやってきた。
「やっほー。どうしたの日野さん」
「そっちの人、だれなの?」
「んー……」
にやにやしていることから勝手に察してくれたようだ。おいなにやってんだよとは言わずに黙礼する。
目線と目線は恐ろしいぶつかり合いを見せていた。日野とかいう可愛い感じの女子が怖い顔で小海をにらみ、小海は平然と、無表情に等しい顔でそれを受け流している。俺が見ていることに気付いていないわけはないのだが、それでも、ということだ。
「どうしたんだよ、小海」
「なんでもありませんよ」
日野という女子は「それじゃね」と去っていき、小海はため息をついた。
「バカは扱いやすくて助かりますよね」
「やっぱりか。見せつけてやったみたいな感じか?」
「そーです」
小海のいうことには、こういうことらしい。
クリスマスも間近なある時期、俺たちがちょうどアウルムオンラインにログインしてるくらいの時間、つまり深夜にクラスのSNSでちょっとしたもめごとが起きた。それが原因でそこそこリア充のはずだった日野は彼氏と別れることになってしまう。そういうわけで、日野は最近の時間をカップル潰しに費やしているんだそうだ。
「まあ、女子同士の集まりやら繋がりを増やすってことです。監視されてるんだから男子と連絡も取れませんし、いっしょにもいられませんよね。何より自分がそうしたいんだから、他人がそうしてると腹が立って仕方ない。彼女がジョギングに来るのはだいたい夕方なんですけど、この季節はこの時間帯なんですよ」
鬼畜すぎないか。
「なるほど、今まで見たこともないやつと一緒にいるんだし、付き合いもこなしてるから責めようがないわけか。やるな、小海」
「いえいえ……。私はリア充のグループじゃないですから」
そうなのか。
「まあ、日野さんの企みを潰したくなるのは当然のことですよ。出費もかさみますし。百合でもないのに女同士の集まりしか許されないとか地獄ですから。気楽だけど、いつもいつもだとうざったいんです」
同性の付き合いがそんなにめんどくさいとは思わない、といおうと思ったが、そもそも俺にはほぼ友達がいない。
「おっぱいさらけ出したコスプレ、女は最初に顔を見る、男は最初に胸を見る…… なんて言いますけど、対抗意識強いのは嘘じゃないですよ」
「お前、いじめられたりしないのかよ」
「臆病者のふりをしてればいいので」
ひどい話だが、間違いない。
「で、あとはどうするんだよ」
「金堀の方にお邪魔しましょうか?」
「邪魔じゃねえぞ。まあ、悪くねえな」
まだ夕方ではない。
「あっちでお茶するのもいいですね」
「おお、なるほど。俺がアルバイトしてるとこ行くか?」
小海はふざけて、俺のしかめっ面を真似して「わるくねえな」と言った。声がぜんぜん真似できていないのが可愛らしい。そんなこんなで、駅へと歩いて戻った。
駅へと戻ってもそこまで都会っぽい感じはしないが、金堀町が都会もどきだというだけでこの辺はドーナツ化現象の食べる部分だ。そもそも比べようと言う考えがあさましい。切符を買って駅のホームに上がると、こっちも風が強かった。
「ロングスカートで正解でしたね。めくれたらとんでもないですし」
「確かにな。でも座ったら一緒だろ」
ロングスカートなのに無防備に座り込んでパンツが丸見えなんていうのもある。気を付けるべきは長さではない、状況だ。周りに人がいないのなら逆立ちしても問題ないし、風が吹いているならめくれ具合を確認しつつ押さえればいい。
「プロですね。見る方の」
「自慢じゃないがラッキースケベの数はそれなりにあるんだよ」
まあ、ほとんどミサが演出したやつだが。
駅には人があまりいない。これなら二人で向かい合った席に座ることも可能だろうと思っていたのだが、どうやら違った。
『間もなく1番ホームに14時29分発、二分ゆき普通電車が参ります。危ないですので黄色い点字ブロックの内側までお下がりください。1番ホームに――』
「電車の中、すし詰めですね」
「大変そうだな」
満員電車は嫌だ。というか大嫌いだ。なぜ今になってこうまで満員なのか、なんて誰に聞いても個人的には判断のしようもないことだろう。
アナウンスが流れ、電車がやってきて、人が降りていく、でも乗る人の方が多い。金堀駅に止まる普通電車に乗ると、立つ場所がないんじゃないかと思うくらい混んでいた。当然のこと、小海と密着する形になるわけで、当たるか当たらないかと言う定印もどきのギリギリだ。
『発車直後は左右に揺れますので、手すりなどにお掴まりください』
「ひゃっ!?」
「おい!」
小海がこけそうになったので、慌てて腰に手を回して支えた。
……なんだこの姿勢。
「バレエみたいですね。ありがとうございます」
「いいのか悪いのか分からねえよ」
マジな方でこれはどうなんだろう。支えているからお礼を言われるのはいいのだが、小海のやつが早く自分の足で立ってほしいところだ。と思っていたら、小海が勢いを付けて俺の胸に思いっきり飛び込む。泣くためにすがりついているような感じだ。
「こうしたら恋人っぽく見えますかね」
「満員電車の中でか?」
事故にしか見えないよなそうだよな。誰かそうだと言え。
周りの視線を気にするのは愚行ってものだが、やってみたら嫌なことに気付くだろうということはすでに分かっている。自意識過剰だろうなんて言うやつは、周りの人間を人間だと思っていないのに違いない。もてたいだのなんだの、いちゃつきやがってテメエだの思うのが人情ってものなのだ。俺だってそうだ。
不意に空いた人と人の隙間に、サラリーマンのような、しかしそれとも異質の雰囲気を持つ男がいた。その男はこちらを見て少し目を見開き、そしてにこりと笑う。整った顔立ちが放つ雰囲気は、冷たく暗い、夜のナイフのようだった。今までに見た何者とも違うそれが、俺を硬直させる。
「どうしたんですか?」
「い、いや…… なんでもねえよ」
気が付くとサラリーマンは真逆を向いていた。幻覚だったかと思ったのだが、トンネルに入った瞬間に窓に映って見えた顔は、さっきと変わっていない。まるでトンネルの暗闇の奥に故郷が広がっているかのような、どうしようもない虚無が目の奥にあった。あんなに恐ろしい表情があるだろうか。
「変ですよ? どうしたんですか」
「なあ、怖い顔ってどういう顔だと思う?」
うーん、と小海は考え込む。返事がないままに時間が過ぎて、トンネルの中の音が変わり、いつもの見慣れた街が見えてきた。
「その人の怖い部分が出た顔ですかね。誰にでも暗黒面はありますから。さっきの日野さんの顔、怖かったでしょう? あれでも笑顔を絶やさない人なんですよ」
にこりと笑ったその顔は、なぜか、得体の知れない暗闇を連想させた。
偏見のある父や母に「田中くんはいつもけだるげ」や「坂本ですが?」を見せ、良いアニメがあることを知ってもらいました。あ、もちろん「サイコパス2」やら「鋼鉄城のカバネリ」なんて血みどろのアニメを見ているときはあからさまに嫌そうな顔をされましたけど。まあ、サイコパス2の動物人間(詳しくは本編9話あたり)はほんとに無理でした。最近見た「季節は次々死んでいく」のMVもきつかったなあ。
ごほん。
スキルノート
「長柄武器」
いわゆる「木製、または金属製の持ち手の先に穂が付いたもの」。穂と呼ばれる部分には武器の種類によってさまざまなものが付いており、貫通、打撃などさまざまな効果を生み出す。近接武器としてはかなりの長さを誇るため、モンスターが怖いという人にはおすすめできる武器である。
要するに「棒の先になにかくっついたもの」という、どのような文化圏でも普遍に生まれうるもの。そのためさまざまな種類がありすぎ、ここではあえて挙げないこととする。
特殊な扱いを必要とする武器が多く、特技に頼らないと動かすのは難しい。使うなら、†世界の中心†セントラルさんと同じ「薙刀」カテゴリの武器から始めるのがいいだろう。