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Aurum Online [Shooter]  作者: 亜空間会話(以下略)
第三章 Weiswald
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#044 Beleuchtete im mondlicht

 ドイツ語難しい! というか時制も何も分からん誰かー!


 失礼。お目汚し申し訳ありません。


 どうぞ。

 バラエティー番組も変わったものを取り上げることがあるようで、検索エンジンに「ネトゲ廃人」と打ち込むと一日に二十時間ほどゲームをやっている恐ろしく太った人の画像などが出てくる。どこの世界にもおかしなやつはいるということだろう。


 基本的にオンラインゲームでキャラクターを削除できるのは運営くらいのものなので、ずいぶん昔にやっていたゲームにもう一度ログインしたら…… なんてこともできないことではない。まあ俺はやるつもりもない。


 バーチャルリアリティーの中に慣れてしまったら、もうただのバーチャルには戻れるわけもないのだ。肌がちりちりするような緊張や細密に再現された木の表面、そんなバカなものすらもいとおしく思えるほどにバーチャルリアリティーはすごい。だから俺はもう一度アウルムオンラインにログインしたくてうずうずしていた。


(そのときどうすればいいか、それを考えて)


 美沙の言葉を思い出して、俺はまた死にたいような気分になっている。別に自殺願望なんてない。そんなくだらないことを考えるくらいならネットでエロ画像でもあさっている方がよっぽど高級だろう。あれだってほとんどがプロの仕業なのだ。


 死にたいような、というのは無力感のことだった。


 正直なところ、投げ武器で攻撃するという以外の俺のプレイヤースキルは皆無だ。回復についても支援についてもまともにはできないし、阻害効果もきちんと与えられるわけではない。ソロでなければ迷惑かけ通しでとんでもないことになっているだろう。どうやってもソロでやらざるを得ない。


 どうすればいいかなんて決まっている。


 どっかのパーティーに入れてもらって、どこに出しても恥ずかしくないレベルまで自分を鍛えるのだ。数字でいうレベルではなくて、強さの水準として。


 一日や二日ではとても前線に出られるようなプレイヤーとして務まらない。最低でも一週間、欲を言えばひと月ほど欲しい。それがまともな俺をくれるのなら、何時間だってくれてやると思った。


 考えつつも少ない宿題を終え、やっと夕飯だ。


「トシ、最近元気ないわね」

「うん、ちょっと」


 それ以上答えられない自分が嫌だったが、それでもやっぱり答えることはできない。


 ゲームで失敗した。それが何だというのだ、と人は答えるだろう。リセットできないゲームだとしても、それは遊びだし、やり直せない現実の失敗に比べてみれば何と言うこともない。


 灰色の青春を送った、というのと、このゲーム二度と遊べなくなった、どっちが重大に聞こえるだろう?


「トシ、大丈夫だ。別に突っ込んだりしない」

「あ、うん。父さん、ゲームって重大かな」


 うーん、と父さんはしばらく悩んだ。


「そうだなあ、昔は一回失敗したら二度とプレイできないデスゲームもどきがあったりしたし、暇つぶしって言えばまずゲームだったからなあ。親に怒られてもやってたもんだ」


 父さんにもそんな時代あったんだ、というとあるに決まってるだろと言われてしまう。


「女の子よりゲームってときもある。それに現実から逃げたいなんて、分かるだろ? テストで悪い点を取ったときなんかゲームし通しだったぞ。それでも落とさなかったがな」


「今はわたしがいるから♪」


「だよな。すごく重大なときと、あんまり重大じゃないときがあるかなあ…… 俺にとって、今はゲームが重大なときじゃない。でもトシ、お前には重大だろ?」


 そうかな、と答えてから、心の中では重大に決まってるだろと反抗的なことを言ってしまっていた。


 ゲームは重大だ。人とのつながりもあるし、バーチャルリアリティーだということを考えるともっと重大な問題もあるはずだ。ただ単に一人でやっていればいいそれとは違ってこのジャンルはあまりに重い意味を持ちすぎている。


 このゲームを利用して人の命を奪うことも、もちろん可能だ。それは決して痛覚によるショックで身体の任意の部分を停止させるような甘いものではない。もっと陰惨で劣悪な手口を用いた、悪魔のような手口なのだ。


「重大だから、アルバイトまでして十万も貯めたんだろう?」

「そう、だ。そうじゃなきゃだめだ」


 ずっと黙りこくっていた美沙も「そうだよ」と同調した。


「私のぶんまで買ったんだよ、やめたら二十万円損だよ?」

「そうだな、そんな額の損失出したら殴られるぜ」


 ゲームの中でも手にしたことのない金額だ。現実に握って手が震えたのをよく覚えているし、銀行の人にも怪訝な顔をされて、懇切丁寧に説明したものだった。


「なんか、ゲームと現実が近付いてる感じだ」


「そりゃそうに決まってるだろ。現実世界の人間がゲーム機を操作して、そんでゲームのプログラムがそれを操作にするんだから。現実の人間がいなきゃゲームなんてのはない。ゲームを作るやつがいてやるやつがいる。楽しめよ」


「そんじゃ楽しんでくるよ、父さん」






 まあ、楽しいことをするわけじゃない。それは確かだ。


「今日は何するの?」


 いつの間にか隣にいたミサは、昨日のいろいろのせいか剣も盾もしまっていた。


「今日は…… そうだな、まずスキルを取る」


 スキルホルダーは二つ余っている。そこに「調合」と「錬金」を入れるのだ。Jにはまた器用貧乏がどうのこうの言われるのだろうが、これにはれっきとした目的がある。


「あ、もしかして毒塗り投げナイフ?」

「そうそう。なんで今まで思いつかなかったのかって、今さらだけどな」


 現実世界だと、投げナイフは効果を持つ武器として扱われにくい。


 もちろん回避されやすいこと、またたくさんは持ち歩けないことがあるが、一つは刺さったとしても適切な治療をすぐに施せば傷も残さず完治する、してしまうためだ。自力で加速する投げ武器があるのなら話は違うが、どうしても投げた本人の力に頼らざるを得ない投げ武器は、どちらかというと弱い部類に属する。


 では「当たれば致命傷になる」武器とはどんなものだろうか。


 それを考えたとき真っ先に浮かび上がる選択肢は「巨大なもの」だが、それは撃ち出すために巨大な砲台が必要になってしまう。並みの人間に扱うことは絶対にできなくなってしまうだろう。


 そしてもう一つの選択肢「刃に毒が塗ってある」武器を選ぶことになる。経口摂取とは違って血液中に直接入った毒は通常より少ない量で有効になるうえ、解毒手段がない。口で吸って出すことも不可能ではないが、確実ではない以上手段として認められない。


 バーチャルの場合の毒は「呼吸を止める」ものではなく「HPをある値削る」ものだ。ということは一本が命中してしまえば〈ポイズンアーム〉や〈ポイズンシュート〉を使うことなく毒の状態異常を生み出せる。


 その節約した分のMPはとある可能性を生むだろう。


 つまり、他のことに費やせる可能性だ。その日に生産できるものが一つ増えるかもしれないし、その日にもう一度呪文を唱えられるかもしれない。それがだんだん良くなっていく何かを生むかもしれないと思うと、俺は捕らぬ狸の皮算用ではあってもわくわくした。


 そもそも毎日が夜だから大きなことをしようとするのは難しい。月を眺めるのは悪くないが、時間が足りないのが実情だ。二時間や三時間の猶予を毎日追加できるとしたら、俺はもっともっと、もっと。


 採取する場合は鑑定スキルみたいな「取ったあとのアイテムを細かく鑑定できる」ことじゃなくて「アイテム名が分かる」ことが重要だ。もちろん水のようなアイテムは解析スキルに写らないのでビンに取ったり買う必要もあるかもしれないが、新しいチャレンジの前にはできるだけ不安を抱かない方がいいだろう。


 そういうわけで俺は街の北側からフィールドへ出た。




 街の北側は畑だが、許可されていないものは摘むことができない。


「ミサ、なんで付いてきてるんだ?」

「だめだった?」


 いやだめじゃないけど、とは言ってみたものの薬草を摘むのは意外に難しかった。道端には石ころが大量に落ちているが、薬草がある場所はヒントがあるわけでも何でもなく、唐突に一本くらいちょこんとあるだけだ。たまにつながるように生えていることもあるがその関連はまったく意味不明だった。


「めんどくさいの?」


 まあ、はたから見ればそうなんだろう。実際面倒だ。


 だが、ちょっとばかりの好奇心を満たしてくれる冒険でもあった。


「若干楽しい」

「よくわかんないけど」


 俺もそう思うだろう。他人の思ってることなんて顔だけじゃ分からないもんだ。美沙が母さんに料理を習ってるときに、美沙はむちゃくちゃ難しい顔をしていた。大丈夫か、と俺は聞いたんだが美沙は「楽しいよ」と言ったのだ。他人なんぞしょせん理解不能だというのが俺のポリシー。自分が自分でも理解不能なときがある。


(のど)(えぐ)りに(くら)(いく)さ、んで(あし)()()…… えげつないやつばっかりだな」


 順番に特技を封じる「沈黙」、視界が暗くなる「視力低下」、動きにくくなる「移動速度低下」を発生するのだが、ネーミングセンスが怖い。全部カタカナなので推測だ。でも説明文だけ読んでいるとそういう漢字がしてくる。


「全部役に立ちそうなんだけど、阻害魔法にはこういうの、ないの?」

「ちょっとはあるけど、視力低下はなかったかな」


 アシタチバは〈スピードダウン〉、ノドエグリは〈シーリングスペル〉の効果の代替品が務まるわけだが、つまりそれらの消費するMPは節約する余地があるということになる。これだけ節約できるなら、投げ武器をもっとたくさん作れるようになるのかもしれないし他のものをたくさん作って金儲けもできるかもしれない。


 それだけじゃない。


 毒を重ね塗りすることができれば、極論、一本の投げナイフで戦闘を終えることができるようになるかもしれないのだ。それが夢のまた夢だとしても、一歩だけ近付いたことになる。そして恐らく、調合すること自体にはMPは必要ない。ここまでの要素が揃ってしまえば、俺はかなり強くなる…… 可能性がある。


 とりあえず一人で何でもできるやつになる必要はないが、それに近付くことは必要だ。ソロでじゅうぶんやっていけるようになるためには敵がリンクしても負けないようにならないといけない。いざってときは誰かに助けを求めるのも仕方ないかもしれないが、こちらが助けに呼ばれるようなものになりたいところだ。


「こっちにも薬草っぽいのあるよー」

「おう」


 いつの間にかミサはずっとあっちの方まで行って薬草を見つけていた。


「なんで解析持ってないミサの方が先に見つけるんだろうなあ……」


 はなはだ疑問だ。すごく疑問だ。確かにスキルなしでも見つけられるようになってはいるし、摘み取ったあと確認すれば鑑定いらずで使えるアイテム、それが薬草ではあるのだが、摘みに摘んで片っ端から確かめなければそうそう見つかるものでもないように思う。見た目に分かる特徴自体はあるし、それはそれで手がかりになりはするが、何らかの効果を持つ草はいくらでもある。


 HP回復、疲労度回復、MP回復微量加速、時限付きステータスアップ、食材、魔法効果は持たないものの噛むとおいしい味の付いた草。面白いものもあるし、もちろん使えば毒を現すものはモンスターにだけ有効なのではなく、プレイヤーにも危害をもたらす。


 で、そんな中でも分かりやすい特徴を持った草は意外に珍しい。それに薬草や毒草ばかりが固まって生えているとことは少ない。ジャングルかよと言いたくもなるが、セイタカアワダチソウのようなものだと考えればそれなりに納得も行こうというものだ。毒草ばかりが生えていると土地まで毒化してしまうんだろう。


 まあ、ジャングルみたいに1ヘクタール内に一本も同じ草がないなんてことはない。数を集めるのは面倒だが、部位ごとに集めることで特に効果の高い部分だけを選別して、これからも何度か取れるようにした。根っこから取らなければ滅びないのが雑草だ。


「そいじゃ戻るか」

「実験だね」


 月光に照らされた何者かがそう言って、俺はひどく不安な気分になった。風が吹き抜けてザアと音を立てると、そこにはもうミサしかいない。


 どういう不安を感じているのか自分で分からないまま、俺は街に戻った。

 エイプリルフールに、一度も嘘をつきませんでした。これまでもちっともネタが思いつかな…… ごほん、正直さのあまり四月だとて嘘をつくようなことをしたのは数回です。


 実際に人をだまし続けて生きているのは少しばかり心苦しいところがありますが、というか今にも死にたい気分ですが、すべてが無駄だったと両親を絶望させるにはまだ早い。まずは今週入学する大学を出て、家を出て行方不明にならねば安心して死ねませんね。


 あかん、生きることを考えないと。

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