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Aurum Online [Shooter]  作者: 亜空間会話(以下略)
第三章 Weiswald
43/120

#043 Flucht

 親やら兄弟やらパソコンやらに邪魔されてまともに更新できません……。純粋な目でモニタをのぞきこまないでくれ兄弟たちよ、私の濁った心を伝染させるわけにはいかないのだ。痛い文書をのぞきこまれたら同じ反応を取るだろそうだろう違うか。


 ちょっと更新速度を落として桃の方も書くことにします。気が進まなければ永遠に更新されない今のサイクルを正さねば。あといくつかアイデアが浮かんできたので趣味で書くものが増えます。あ、どこかのレーベルに送るやつ忘れてたな……。


 どうぞ。

 エイルンの東に2キロは意外に長いものだったが、〈スピードアップ〉の魔法がかかった状態だと歩いても早くなっている。そういうわけで三十分ほどで到着した俺たちは、そこに控えているモンスターをとりあえず見た。解析スキルを使っていることは特殊な敵相手でないとばれることはない。



 ガーディアン    推奨人数:二百人~

 エニグマ種


 街を守ることを使命とする「名もなき者」の一人。



 守護者が一体、そしてその周りに「騎士」や「歩兵」が十体ほど控えている。こちらのことが視界に入ったようでまず馬鹿でかい歩兵がこちらに槍を突き出しながら走ってくる。


「行くぞミサ」

「うん」


 解析を使うまでもないスピードだ。避けるのに解析がいるのは特技を使ったときだけだろう、そう思って俺は槍の上に乗ってジャンプし、歩兵の兜の下にある皮膚らしき場所に投げナイフをどかどか刺しまくった。推奨人数が30人クラスの通常モンスターなんて聞いたこともないが、攻撃はそれなりに効いている。


 これなら、そう思った瞬間だった。


「後ろ!」


 着地してすぐ反応しようと、まずしゃがんでから飛び上がろうとした矢先に俺はまるごと吹っ飛ばされる。俺の身長をも超える丸太みたいなものを振り回さないとこうはならないはずだ。何を投げる隙もなく俺の体はごろごろと地面を転がる。解析スキルが発動したままで薬草が何度も目に入るが、ミサがどうなのか見えない。


「ミサ、大丈夫か!?」

「ちょっとやばい!」


 並みの攻撃ならシールドバッシュなんかで相殺できるはずだ。それでもなお大変だというのなら、相当に……。


「なんだこいつ……?」


 今までに戦ったモンスターの中で一番大きかったのは、ザグラム・マディーア以外に考え付かない。ところが迫力だけはそれに勝っている、こんなに大きな怪物がいたとは。


 スライムよりもなお凶悪で、解析の派生機能「魔力視覚化」を行うと藍色に見える。虹の七色のうちもっとも危険なものを紫だとすると、二番目に危険だということだ。


「ミサ、逃げられるか!?」

「なんとか…… っ」


 水が一条、ミサを破壊した。


「くそッ、こいつら……!!」


 剣と槍と水が同時に








 目を開けるとミサがのぞき込んでいた。


「……こんなムチャ、いつぶりだろ。アリの巣のとき?」

「……そうかもな」


 ミサが少しだけ泣いているのが分かる。


「ごめんな、ミサ。せっかくあんなこと言ってまで引き離したくせに、何にも変わってなかった、な。強くなったと思ったのに」


 強くなれなかった。


 ゲームの基本、パーティープレイは役割が分かれていてこそ成り立つものだし、あまりに異常なプレイヤーが多いとめちゃくちゃになってしまう。盾役とクラウドコントローラーというでたらめな構成は変えられるべきものだったが、俺は自分を変えたいとは思わずにミサを放擲した。


 仲の良い人ばかりを集めてパーティーを作ってしまうと、外部から誰かが入ってきたときに崩壊しやすくなってしまう。だからそもそも他人同士が集まってできたパーティーがあれば、そこに誰かが入りやすくなるのは道理だ。セントラルはそういうところにいる。


 ミサは強くなった。現実では格闘技なんてやっていないし、そういうことにはずっと縁遠いやつだと思っていたのに、克服して見せたのだ。


「何にも変わってないんだな」


「変わらなくていい。お兄ちゃんまで変わっちゃったら、どうすればいいか分からなくなっちゃうよ。あと少しで、あそこは通れるようになる。そのときどうすればいいか、それを考えて。宿題だよ」


 ミサがいつの間にか俺よりも大きな存在になっていたことに俺は驚いて、俺はミサを見つめた。部屋の中から急に外に出た昼下がりのようにミサはものすごくまぶしくて、他に何か言うことも見当たらず、俺はうなだれる。


「大丈夫だよ、お兄ちゃん。自分にできること、考えて」

「今日は、ログアウトするよ」


 ミサははっとしたような顔をしたが、うん、と一言だけつぶやいて歩いて行った。






 積んでいた本を読むにはいい機会だ。


 そんなふうに思えてしまうのは辛かったが、これが保健で習った心を守ろうとする反応なんだろう。実際たくさんの本が「今日はログインするから」と言う理由で積んである。別に悪いことだとも思っていなかったが、つごう十五冊ほどたまっているのを考えるとよくここまで打ち込んだものだとも思う。


 縦に積んである本には小説も入っていたし漫画もあった。この間デパートで買ったバカみたいに古臭いVRMMOの本もあるし、前から気になっていた本もある。どれも今すぐに読みたくて買ったはずなのに、ずっと放っていたのだ。


 とりあえず一番上のやつから読むか、と俺は本を手に取って開いた。




 昨今の小説家事情は知らないが、昔はずいぶんアホが多かったようだ。自己表現の延長で金が入るなんて思ってたとは、愚の骨頂をさらに越えて真骨頂に達している。


 わなびというサイトがあったらしい。


 ワナビというのは「I wanna be a novelist」の略らしく、まあノベリストなんて高級なお名前が似合うかどうかはともかく小説家になりたい人々のことだ。自分と言うものを重んじるその時代の無気力な若者やなんやらにとって好き勝手に書いているだけで儲かる(わけがないが)小説家と言うのは憧れの職業だったようで、小説家になりたい人間ばかりがあふれかえる世の中だったらしい。


 まあ仲介料をとる婚活サイトなんてものがあるから、そこから先は察しがつこうってものだ。人気の小説は書籍化されそれなりの儲け(本の値段の一割)が入ることになった。もちろん書籍化する会社によっても作家(笑)の待遇はかなり異なり、一部では人気を失くして消えていく作品もあったということだ。


 コミカライズされたりアニメ化されたり、そんなものはごく一部で全体の一パーセントどころか一万分の一にも満たない。もちろん人気のポイントもそれぞれ違って、単純に面白かったり世界観が人気だったりといろいろなものがあった。今読んでいる「老人とゲーム」はパロディーに思えるがちゃんと面白い。


 ネタ元になっている「老人と海」ではようやく取ったでかい獲物はサメにがりがり齧られてほとんど頭だけになってしまうのだが、こっちでは解体包丁を駆使してサメと戦い勝ってしまっている。いいんだろうか。


「こういうのが日常なのかなあ」


 やっとこ高校生になる俺はもっと馬鹿でいいはずだ。自分の犯した罪に悩むとか妹の精神状態を懸念するとか、そういう難しいことはもっと後になってからでいいんじゃないか。普通に読書して面白かった本を紹介し合うとか、ネットをうろつきまわって画像をあさるとか動画で萌えるとか、そういうのでいい。


 もっと昔に生まれたら、俺はどんな生活をしていたんだろう。


 そう考えて、机の周りにある昔にはなさそうなものを考えてみた。まずパソコンはずいぶん昔からあるとはいえ、中学生のうちは買ってもらえない人の方が多かっただろう。情報化社会とかいう言葉が使われなくなってから本格的にひと部屋に一台くらいパソコンが大量に普及し出した、はずだ。


 と考えると、妹が可愛いだけの読書馬鹿になっていた可能性が高い。だとすると特に特技もなくオタクっぽい趣味に染まるでもなくただ単に読書している、もっと賢いやつだったのかもしれないな。


 だったら――


 そこまで考えて、俺は考えるのをやめた。手が動き、ページをめくる。紙の匂いが思考を浸食して、頭の中を架空の何かが埋め尽くしていった。



 ◇



 ふんふん、という鼻歌を歌っていた。


 今日、ゼルムは貸し金床には来ていない。それでも最近は気分がいいのだ。ソロのプレイヤー同士が知りあうことなどそうあることではないし、あちらから話しかけてきたとはいえども互いに仲も良い。


 ただ一つリセイが嫌なのは、彼がリセイの仮想空間での体だけを見て性別を判断しようとしている、ということだろうか。


(現実じゃ一瞬で分かるのに)


 リセイこと小海(こうみ)利世(リゼ)はどこからどう見ても女だ。制服のブレザーに納まりきるのか傍から見ても不安になるような大きな胸をしているうえ髪の毛だって背中まで伸ばしている。胸の先まで隠れるくらいだ。それを見て男と間違えるようならそいつは人間というものを初めて見る宇宙人に違いない。


(じろじろ見られるのは嫌だけど)


 非常に贅沢なことだが、リセイは自分の体にはちょっとだけ不満を持っている。


 良すぎるのだ。


 どこを見ても見られる。惜しいところなどない。別段胸が大きくなければちょっと可愛い女の子で済むのに、素晴らしいまでにわがままボディーな彼女は足もすらりとして綺麗だし顔も可愛らしい。街に出れば写真を撮られるわ、家にいても父や母に溺愛されるわ、そういうのはけっこう精神的にクるのである。


 どこでも特別扱いされる。案外普通のことなのかもしれなかったが、それでもリセイは満足できなかった。自分でも贅沢だということは分かっていたし、その贅沢がどれだけ周りを苛立たせているかなど、察しが悪くとも気付く。それでも贅沢は贅沢だ。


 人間に生まれた以上理不尽に死ぬ確率が減る。ただそれだけでも幸福だ。ぼろきれのように、もともと必要なかったふうに使い捨てられることもない。日本に生まれたものが日本に生まれた幸せを理解することなど有り得ないが、リセイの場合も同じだ。


 栄養状態が良くなければ「女性らしい」体型になることなどない。これだけ容姿が良くて誘拐にも性犯罪にも遭わないのだから、日本の治安の良さは筋金入りである。もちろん周りに住んでいる人たちの良心によっても助けられているわけだが、それに関しては彼女も知っていることだ。


(刺激はこっちにあるし)


 刺激というのは、ニアリーイコールで危険だ。女性が危険を求めればそれをくれる輩はいくらでもいるが、誰も無事に帰してくれはしないだろう。そもそも無事帰してくれるような紳士は女性に危険を提供したりしない。


「そうじゃ、ないかな。彼は、いいひとっ」


 足を振るリズムにあわせて歌うように言う。


 とびっきりすばらしいピンチと、それに併せてスリルをくれる、絵物語の怪盗。そう思うのではなく、そうなのだ。疑う余地もない。若干自信に乏しいヘタレではあるが信用するに足る相手である。何なら将来を預けても問題なさそうなくらいに。


 努力が結果を生み、結果が結果を生む。彼はそう言うタイプの人間だ。ただでは転ばないというよりも、転んだ先に成果を見つけてみせる。


「今日は遅いですね」

「ゼルムなら来ませんよ」


 PKかなと思ったがそうではなく、一級の有名人だ。


「ミサさん? 本物ですか?」

「はい、ゼルムの妹です」


 ミサが話して見せたダイジェストだけを聞いて、リセイは笑うしかなかった。まるで少し前の自分のようだ。飽くまで自分に満足できず自分を否定し続ける、痛々しい自分。克服したものだとばかり思っているのに、いなくなったりはしない。


「ちょっと賢い人なら、誰でもぶつかりますよ、そういうの」

「そうなんですか?」


 ミサ、ゼルムの妹を名乗る有名人はあまりぶつかったことがないらしい。


「自分に満足できないことって、よくあります。じゅうぶん満足していいのに」

「満足していいんですか?」


「いいんですよ。誰でも通るんです、そういうの。満足…… って、言っていいのかな。でも自分を追い詰めちゃうのってよくない兆候ですから、ちゃんと慰めてあげてくださいね。私もできる限り協力しますから」


「あ、それじゃあゲームの中で会ったら慰めてあげてくれますか。ああ見えてもヘタレなお兄ちゃんなんです。一緒にいてあげてください」


「私がもらっちゃっていいんですか?」


 そう言った途端に、ミサの雰囲気が変わる。


「いえ、それは困ります」

「きょうだいなんでしょう? 義理なんですか?」


「はい」


 それが嘘だとしても、この場では「そうですか」としか答えようがなかった。決意と呼ぶべきなのか、視線と呼ぶには鋭すぎるそれは刀でできた檻を連想させる。


「義理のきょうだいでも、将来のこと考えると難しいですよ」

「いいんです。それくらい乗り越えます」


 なんという妹だろう。そう思うのが筋違いだと知れてはいても、そう思わないではいられなかった。恐ろしい決意だ。


「女の子にここまで言わせちゃって……。ゼルムさんも罪ですね」


 リセイはそうつぶやくことくらいしかできなかった。



 ◇



 ログアウトしてすぐ、水分が欲しくなってリビングに降りた。ゲーム中にひどいことにならないように水分摂取を控えているので、ログアウトしてすぐはのどが渇く。汗をあまりかかないとこういうところでしわ寄せが来るのが、人間の体なんだな、と思う。


「うう、ぉおう……」


 また父は酔っているように見えた。


「おとうさん、どうしたの?」

「ぁあ。りこぉーう…… としあきを、かえせえ」


 またあの話だ。


「おとうさん、お母さんは佳奈だよ」

「うーう。麗華、いなくならないでくれえ」


 父さんは酒が入ると昔を思い出して泣いてしまう。泣く理由はいつも同じ。母が捨てたわたしの兄のことだ。母は結局兄を捨てたのか売ったのか、そんなことすら言わなかったので、ごく最近までわたしは兄がどこにいるか知らないでいた。


 父さんは、兄はどこかに売られて、自分が誰なのかも知らないで働いているんだと思っている。だからいつもこうして泣くし、泣くために飲んでいるわけもないお酒に浸る。いつかわたしもどこかに行ってしまうと思っているんだろう。わたしがどこに行くか、それはわたし次第だ。


 兄を見つけたときは心臓が止まるかと思った。写真で見た実の母と父さんの子だと、見た瞬間に分かった。でもそれが確信でも確証はない。だからリアルでたまたま知り合ったあの人に調べてもらって、すぐ彼が兄だと分かった。


 あんな場所で向き合いたくはなかったと思うけれど、手にかけなくて良かったと今でも思っている。相手が誰だか知らずに、機械として向き合うなんてごめんだ。そう思っていたけど、向き合ってみれば話しかけたくなった。


「今日はインしてなかったのかな……」


 麻の色そのままの装備の上に青黒い装備を重ね着した、よくいえば実用的な、悪く言えばもちろんセンス皆無な兄は目につく。屋根から見ていればまず見失うことなどないのにどうして見失ったのだろう。


 完全に尾行しているわけではない。そこが仇になったのだろうか。トイレを済ませてお茶を飲み干したときには、十一時を回っていた。母さんがちょっぴり眉を逆立てて、あまり怒っていないトーンで言う。でも聞かないとゆっくり怒っていく。


「麗華、寝ないとお肌に悪いわよ」

「あ、はーい」


 今日は寝よう。


 明日は、 ……明日は。


 どうすればいいのだろう?


 毎日のように兄はゲームにいる。でも兄がゲームをやめてしまったら。そうでなくても今の親に怒られでもして、ログインできなくなったらどうしたらいいんだろう。


 連絡手段もない。あっちはこちらのことを知らない。


「どうしたら、いいんだろう」


 灯りを消しても、ベッドに入っても、わたしは答えにたどり着けないでいた。

 今回の翻訳したタイトルは「逃走」。英語で言うエスケープだそうですが、ニュアンスを察しろと言われても私には分からないのでもっと合う単語を知っている人は適当に脳内補完しておいてください。無能な作者なので教えていただければ幸いですが、そこまでの高望みはしません。


 ライトノベルを一冊分書いたので(友人のS君、協力本当にありがとう)応募しようと思ってたら、ちょうどいいタイミングで図書館の方と話す機会があったんです。「デビューできるかどうかはともかく新人賞に応募しようと思っているんです」と言ってみますと、答えて曰く「十作くらい書いてから、これはと思うやつを送ってみるといいよ」だそうで。十作も書いたら頭がいかれてしまう。


 これだって一章ごとに大体100000文字、文庫一冊分くらいです。それを書きため分として約五巻ぶん書くとすると、十作でごひゃくまん文字ですか。あかん、本当に死んでしまう……。アイデアはふたつくらいしかないのに。


 次回更新は遅くなります。連投にもなりません。

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