#041 Handwerker von chat
ドイツ語難しい……(というか全くもって文法も何も分からない)。
ハリウッド映画みたいに「これなに?」というシーンから始めてみたかったので金曜ロードショーでやっていた「パシフィック・リム」だったかをようやく見て参考にしてみました。パイロットたちの扱われ方を邪推しちゃうのは私だけですかね? ロシアの人は結局死んじゃったし中国の人もかませで終わった。
そういうわけで予告で言ってたところはかなり先になります。
それでは第三章開始。どうぞ。
カフェーローズはいつものように静かだ。
というといつものようにお客などまったく来ないかのような書き方だが、そうではなく静かな雰囲気を保ったお客さんが常連だ、ということで、話し声など聞こえないほど閑散としまくっているわけではない。
むやみに大きな声で店員を呼ぶ客が来るわけでもなく、毎日満員というわけでもなく、まあまあの客足を保っている。
この「まあまあ」の加減というやつは意外と難しく、いっぱいでも騒がしくなるし、少なすぎても閑散としすぎてお店の売り上げがちょっと落ちる。まあ商店街は閑古鳥の一大繁殖地というわけでもなく貧乏神を祀っているところでもないので、ここの客足が一切ない日はまったくと言っていいくらい少ない。
旗山さんの作ってくれたまかないを十五分かけて堪能した俺はきっちりとバイトのシフトをこなした。もちろんちょっと残業中だ。ちなみに十時から十三時までがバイトの時間で、今は十五時、残業というには長すぎるかもしれない。
「いや、助かりますよ。どうも僕は接客が苦手で。いつも誰かアルバイトを雇っているわけではないんですが、君と美沙ちゃんが来てくれるときは本当にありがたいんです」
「いや、なんつうかその、まかないもすごいうまいし、俺ができることあんまり多くないっすけど。助かるって言ってもらえて光栄っす」
ほら二時間も残業してないで、帰って大丈夫ですよと旗山さんは笑った。
「それじゃお言葉に甘えて……」
「五時で閉めるんですから、あと二時間くらいは大丈夫ですよ。なんとかします」
「が、がんばってください」
「だから大丈夫ですよ」
からんと音がしてドアが開いた。
「おっ、バイトくん? 新顔? アサガオ?」
「シフトは昼っす」
俺はもうちょっと付き合うことにした。
結局それから三十分ほどお客さんの相手をして、俺はバイトから帰った。
「また残業か、トシ?」
「旗山さんバイト雇ってないと接客苦手らしいから。給料増えるし」
まったくしようがないなと父さんは言った。まあ多少ブラックではあると思うが、まかないが出るだけで特にブラックじゃなくなるし、サービス残業を無理強いしているわけでもない…… いや、かばっている俺がどんどんブラックなんじゃないかと思えてきた時点であんまりいい職場じゃないのかな。
「徹底してるな」
「そりゃもう、金のためだし。善意もあるけど」
何のためにアルバイトなんかするかって、旗山さんが接客が苦手だから代わっているわけじゃない。VRIDを買ったらそのほかのことに使う金がなくなって、その分を補充できないまま先の買い物に行ったからもう財政破綻状態なのだ。ゲームの状態異常になぜ財政破たんがないのか、俺に納得できる説明をしてほしい。
というか、アルバイトできそうなところはだいたい面接が面倒だったり書類関係を提出しないといけなかったりする。いくら学校の方が適当でも、有名企業でアルバイトしようとすると学校の許可証やら志望理由書やら履歴書やら書かないといけない。書く必要があるなら書くが、面接があって即採用されたカフェーローズに比べると面倒に感じる。むしろ善意に甘えているのは俺の方だろう。
美沙による美沙と俺のための美沙のファッションショーが終わったのは昨日のことで、きちんと見ないと体ごとダイレクトアタックしてくるという悪鬼羅刹の所業をやらかしてくる美沙を的確にかわすのは大変だった。
正直なところ眼福だと言いたいが、義理の、とはいえ妹に欲望を向ける兄というのはどうだろうか。そういう感じの理性はまだなんとか生きているので、俺は一線を越えないで済んでいる。買った当日にはだいたい下着姿で来るのにワンピースだったのは、まあ一番のお気に入りだからだろう。住めば都とばかりに俺の部屋でパソコンをかちゃかちゃといじっている美沙は、今日もあのワンピースだ。
「そのワンピースあったかいのか?」
「うん。いちおう冬用だよ?」
美沙に常識があってよかった。
「そろそろ次の街が実装されると思うんだけど、ぜんぜん公式の報告ないの」
「そりゃそうなんじゃねえか? 事前告知は少なめなゲームだし」
「街の様子っていうのがコンセプトアートいくつかあがってるんだけどね」
「おお、それ見せろよ」
エイルンと同じような、石材と木材でできた美しい街が一つ。それから家ひとつひとつがひとつの鉱物であるような、結晶の街。これはファリアーだろう。
そして白い木材でできた建物が立ち並ぶ、真っ白な街。最後のはあちこちに光る水晶が生えた地下の鉱山街のようだった。
「どれもすげえな。名前が分からないのがちっと残念だけど」
「いろいろあるよね。でも場所もぜんぜんわからないのが二つくらいある……」
確認された「ベルティベルク」はどうやら屋根まで白くはなかったらしいので、石と木でできた街がベルティベルクだろう。そしてもう一つの「リベルウルム」はなにがどうなのかちっとも分からないくらいにすべてが真っ白だったらしいので、そっちが白い街のコンセプトアートに対応するとみていい。
「じゃあこの鉱山っぽいやつと、結晶っぽいやつか」
正確にどうやってファリアーに行けばいいのかはちょっと分からない。どこかの洞窟からつながっていそうにも思えるが、それがどこなのかというとしどろもどろになるだろう。鉱山っぽい場所に行く方法は、まったく知らない。曲がりなりにもファリアーに行ったことはあるわけだが、こっちには見たことも、行ったことすらないのだ。
「にしても結晶の街はファンタジーのロマンだよな」
「そう? 深い森のエルフなんかの方が好きだけど」
残念だけどエルフは別に好きじゃないんだよな。アニメとかに出てきてもさほど嬉しくないし、そもそも人間じゃないし。美人が多いのはうなずける話だけど、それならこの間からずっと俺を罵ったりけなしたりしてくる野郎ども、ミオンのほうがいい気がする。
罵られるのが好きなのではなくて、現実的な美人という意味で、だ。ちなみに野郎どもと言ったが野郎は趣味じゃない。といってヤロウじゃなくメロウという言い方をすると漢字がアウトになってしまうので、どのみち行動不能になってしまうが。
「現実じゃ結晶を削り出して建物ひとつ作るなんて無理だろ。せいぜいがところコンクリートで固めたところにガラスか何かのきれいなレンガをはめ込んで、くらいのもんでさ。非現実だからこそできることをどかーんとやってるのは、やっぱいいよな」
「そうかな?」
美沙にはあんまり分からないようだ。無機的な、人が住むには向かないんじゃないかと思うような街も俺は好きなのだ。これぞファンタジーの醍醐味という感じがする。
「あ、あれか……」
「あれ? なになに、この中のどこかの街、知ってるの?」
美沙に伝えていいものだろうか、と俺はちょっとだけ迷ってしまった。すでにリセイがいる時点で「恋人なんぞ連れてきおって人間め」とさんざんひどく言われているのだ。ゴーレムが半ば強制的にファリアーに連れていってくれるのはありがたい。だが、これが美沙を加えて三人、いやいや美沙の仲間も加えて七人になったりしたら、いちおう責任者である俺がどんな言葉で叱られてしまうのか、想像もできない。
「いや、この結晶の街、むちゃくちゃ行きたいなと思って」
「ふーん」
見抜いている感じだが、まあまあ察してくれているらしい。
それじゃお風呂行ってくると言って美沙は自分の部屋に戻ってから風呂に行った。昔のように俺の前でワンピースをすぽっと脱いで肌着だけになってから着替えを取りに行ったりしないだけ成長した実感がある。
ちゃんと夜ご飯を食べた後ログインした。
いつもの噴水広場はとくに特筆すべき風景や人がいるわけでもない。装備は人それぞれだし、全身真っ赤で決めたやつがいるかと思えばパンツ一丁に近いやつもいる。抜群のプロポーションを痴女まがいのビキニアーマーで守っている美女がいるかと思えば仮面にローブという怪しすぎて怖いやつもいた。耳をそちらに向けて聞くに女らしい。
泥や砂がそれなりにあるらしく「清掃」スキルを上げるためのクエストが出てくることもあるという石畳の道だが、今日はもう掃除が終わっているのかざらざらではあるものの汚れなど見えなかった。
貸し錬成床に向かうのにそんなに時間がかかるわけではないが、ぶーらぶーらと散歩してみるのも悪くない。すべすべした、なのに亀裂が入った表面の不思議な木や、魔法の明かりを吊るした黒鉄色の支柱を見ながらふらりと歩く。
夜だというのにNPCも普通に起きているし、怪しい店のようなものもたくさんある。謎の看板もそれなりの数が出ていた。「月光浴指導します」やら「特技売」やら、内容からして妙なものばかりだ。それが実際に月光浴を指導してくれるのかとか確かめるわけではないが、どちらもそれとなく興味を引くデザインだった。
ちなみに「男子禁制」と「女子禁制」の店が隣に並んでいたことは笑わないでおこう。仲いいのかよ。
別にエイルンの街の誰もがプレイヤーキラー・トーナメントを見に来ていたわけではないらしく、というか、闘技場の最前列に座っていた人はこんな時間にログインしてはいないのか俺が呼び止められるようなことは起きない。
個人的な知り合いもそんなに多いわけではないし、それにだいたいのクエストやダンジョンはソロではちょっときついくらいになっている。パーティープレイ前提だとまでは言わないが、それに近いくらいのゲームだろう。とは言っても「清き水の洞窟」のようにノンアクティブモンスターが大量にいるだけで、戦おうとしなければボスとしか戦わないダンジョンもある。ソロではできないゲームでもない。
そんなわけで、俺とパーティーを組んだことのある相手か、もしくは俺と戦ったことのあるやつしか俺のことを知らないようだ。
候補としてミサ、三ヶ日さん、にゃんさん、なすこさん、セントラル、灰朝真、それとダークホースとしてホワイトスミスくらいか。闇魔法使いは見たことすらない、というか顔もよく見ていないので出会ったとしても不審人物くらいにしか思わないだろう。
ギミックは永久追放されたし、レイにも二度と会わないだろう…… と思う。即座に倒せた名前すら憶えていないテンプレスタイルの剣士も、別に俺のことを憶えていないだろうし。
……友達がいないわけじゃない。断じてそうじゃない。
そんなこんなで錬成床に着いた俺は鼻歌を聞いた。
「なんでいるんだ、リセイ」
「いちゃいけませんでしたか?」
素直にいじられるのが迷惑なんだよと言うのは冷たすぎるような気がして、いや別にいいけどよと返事してしまう。失敗した対応でもないのだろうが、リセイはにこにこしてそうですか、嬉しいですよと高いところに座ってふんふん言いながら足をぶらぶらさせていた。
「バカとねこは高いところが好きらしいぜ」
「じゃあ私はねこです」
「バカにしとけ、ねこって、危ない意味もあるからな」
「む、私をバカ扱いするんですか」
寝子という漢字にするとヤバい。読んで字のごとくヤバい。寝るという言葉の意味を深読みできる人がいればすぐにでも分かるはずだ。
「それにしてもあのファリアー、いいところですよね」
「そうか? 俺はちょっと嫌いだけどな」
「ミオンの人たち、みんな優しいんですよー。貴重な鉱石をけっこう安く売ってくれるんです。それだけじゃないですよ、みんなで一緒にご飯食べたとき……」
「そうかそうか、うん。聞かねえよ」
こいつ、俺がさんざんぶん殴りたくなるような言葉で罵られつつきちんとクエストをこなしている最中にみんなでお食事会とかしてたんですかそうですか刺すぞワレら。
「それにしてもあの街は錬成スキルのクエスト多いんですねえ」
「地下都市だし結晶でできてるからな。年数も経って意外に傷んできてるらしいぜ」
建物全体を直せと言われたときはよしこいつ殺そうと思ったものだが、ここ数日の錬成スキルが受注条件になっているクエストをこなしまくって錬成スキルががんがん、めちゃくちゃ上がっている。今のレベルは51だ。
当然派生機能もあと四つも選べるわけで、前には取らなかった「素材節約」はもちろん取るしそのほかにも新たに現れた「レシピ作成」や「操作性向上」も取る。もちろんデメリットのないもの、例えば「消費MP減少」や「○○に錬成効果アップ」もぜひ欲しいところだ。○○は例えば氷雪や結晶、金属だったりする。どうやら固体の中でも木材の加工は無理で、石材はレベルが足りないらしい。
錬成スキルを取っていそうな人は誰だろう、と考えて俺はある人を思い出した。
が、そこでリセイがまた楽しそうに話し出すのでそれを聞くことにする。
「なんていうかこのゲームって、先に考えたもの勝ちなところありますよね」
「だな。それは俺もうなずける」
投げ武器を管理できるやつが少ないから俺以外に挑戦しようというやつがいないだけで、俺の投げ武器はそこそこ扱いやすい方だと思う。投げる個数や使う個数を制限すれば十分に扱いきれるし、そもそもサブウェポンとして使えばそれなりに役に立つだろう。真似をしようとするから扱いきれなくなってしまうだけだ。
で、硬度7.8さんの錬成、錬金、土魔法のコンボで地面から土槍をどかんと出現させるあれも土属性に極端に弱い敵を狙い続ければ比較的戦いやすいはずだ。ところが錬金スキルを取った人は多くても、うまい使い方を見つけている人は少ない。せいぜいがHP回復や状態異常回復の丸薬や瓶詰めポーションを作っているくらいで、錬金の神髄を知っている人はたぶんいないだろう。
「それが広がるにもけっこう時間かかりますし、そもそも情報伝わりにくいですし」
「バーチャルだけど瞬間移動ほぼできないしな」
それを作り出していたネタ集団、本当に恐ろしい集団だ。
「攻略サイトに善意の情報があること少ないですし」
「この前言われたな、マジだった」
いやがるゴーレムをむりやり引っ張っていって戦いや攻略を手伝わせた(もちろん完全に回復した状態で帰した)のでやっと分かってきたことだが、攻略サイトはまったくと言っていいくらいあてにならなかった。
さすがに名前が違ったり出てくるモンスターがまるで違うなんてことはあまりなかったが、モンスター攻略情報やたどり着く場所の情報なんかは悪意でだろうか変えられていることが多い。ガセネタが多く混じっていて真偽の判定が難しいらしく、誰もが知っているような特技の情報くらいしか完全に信用できる情報がなかったのだ。
そもそもスキルを晒すやつが俺くらいしかいないこともあるが、俺ですらステータスは晒さない。そういう実情も含めて、ここはやっぱりネトゲなのだろう。
「……今日って雑談しかしてないような気がするな」
「ん、そうですか。時間もあれですしログアウトしますね」
リセイがログアウトしてしまったので、俺もログアウトすることにした。
「明日は確か始業式だよな……」
表彰伝達がある。つまり明日が公開処刑、もしくは栄誉表彰の日だ。覚悟はできている、なんて口に出してから俺は覚悟を決め、ログアウトした。
いちおうグーグル大先生に翻訳をお願いしたのは「職人たちの雑談」。つまり後半部分のリセイとのお話が今回のメインです。こいつ誰? な名前がキーパーソン。
あれ、読み返したら「清掃」スキルが現れてますね。どうしてスキルにしたんだろうか。それはともかく、スキルが増えてばんばんざいじゃなくてあんまり増えなくて困っております。
そういうわけで新メニュー追加。メタ発言はお嫌いで? 私はそんなに嫌いじゃありません。いやもちろん意味があってしているのですが。
世界観
「エイルン」
つづりは[Ailen]。何語なのかは不明。プレイヤーが最初に訪れる街である。正方形をしておりそれぞれの辺が1km×1kmと巨大。灰色の石材と普通の木材でできた、いわゆる「中世ヨーロッパ風の」街である。だが王城があるわけでもなく、都市機能はだいたいそろっているものの謎が多い。
北部は農業地帯で南部は飲食を扱う店が多くあり、東には闘技場、西には市民が軒を並べて様々な商品を取り扱う商業地帯となっている。宿屋も多くあるが、プレイヤーがそれらを利用することはほとんどないため詳細は不明である。低レベルクエストが多く発注され、序盤のレベル上げにぴったり。
空家や無人のきれいな家が大量に存在すること、支配者なしに統治を保っていること、他の街がいっさい存在しないのに誰もそれを気にしないことなど非常に不気味な齟齬が集まっており、ゲームだということすら忘れるほどの恐怖を与える。




