#024 Fucker's Gold
最近、夜眠れなさ過ぎて困っています。布団に入って二時間眠れないでいるのはざらで、きのうは一時間寝られたかどうかというところでした。ストレスがたまりすぎているのかもしれませんね。
それにしても英語はスタイリッシュで好きですね。ハードSFにぴったりはまるのはやっぱりクールな英語だと思うんです。
……主人公が挫折するところが見たい。
いやー目玉はすごいねえと「J」の名札を下げた男は朗らかに笑った。
「さすがは目玉だよ。儲かったね」
「クズが……。まあまともな方向に回すだけいいがな」
身分を明かさないのがMMOの最低限のルールではあれ、「J」の身分はすでにナイトキャップの男には分かっていた。
「ギャンブルは胴元が儲かるって言うけど嘘じゃないんだねえ」
「死っ死っ死、そりゃそうだよぅ。死払われなかった分ぜぇんぶ懐に入れるもの。城島さんもずいぶん悪いこと考えるんだね?」
「費用を稼ぐと言ったら返事がこれだよ? 上を責めてほしいなあ。それにその本名は僕の悪い部分を包み隠したときの名前だからね、できれば言わないでくれよ」
悪そうな笑顔を顔いっぱいに浮かべて、Jは手を広げる。
「上も結局は悪いのと同じだね。まあ稼がせてくれた彼らを最優先で保護する命令が出てくれてよかったが。彼らもまた危ないところに行くだろうからねえ」
「あー、あれ? スクショ?」
「そうそう」
見ていながら見過ごしているのだから同質の悪であるのと同じことだが、露悪的にふるまうJにとっては同じことなのだろう。
「それでそっちはどうなんです、スリープさん」
名前を呼ばれたナイトキャップの男は、うっすらと目を開けた。
「わざわざ敬語を使うからにはちゃんと聞きたいようだな」
「そりゃそうですよスリープさん。聞かないとよく分からないこともあるものですから」
「……それなりに進行してきているようだ。利用できる段階までは遠いが」
「ふーん…… おっと、始まった。見に行かないと」
Jは名札をゆさゆさと動かしながら、暗い部屋から出た。
◇
開始のゴングが鳴っても相手は動き出さない。
(でもま、相手にならんだろ)
こちらはMPがなくなる前に勝負が付けば最強だと揶揄される魔術師ビルドでも最強クラスの炎属性と氷属性の組み合わせだ。相手の属性は土、可能性はあるにしても防御的なイメージが先行している。
魔術師同士の決闘ということもあり、「Sお皿」は相手を見くびっていた。相手が動き出さないのならこちらから行くまでだ。渋いおっさんが勝っても大して観客は沸かないだろうし、逆にヒョロガリが勝ったって沸くまい。
「〈フレイムボール〉!」
火属性は着弾が早く威力も大きい。爆発すれば二次的なダメージを与えられるし、やけどの状態異常を付加できる可能性が恒常的にある。
「〈グロウス〉」
たった一言が聞こえ、動かない魔術師の目の前に爆炎が吹き上がった。
(着弾。悪いね、勝たせてもら……)
シャキン、という炎を切り取りでもしたかのような音。
『あ、あれはなんでしょう暗黒ティッシュ(意味深)さん!?』
『よく分かりませんが、新しい魔法攻撃ではないでしょうか?』
実況にもよく分かっていないのだろう。そりゃそうだが…… と突っ込みそうになって彼は、やっと煙が晴れたそこに何があるかを目を凝らしてみた。
「壁……?」
緑色の宝石が隙間なく組み合わさったような、超巨大な壁だ。新しい魔法攻撃というよりも、まったく新種の攻撃だった。誰も見たことがなく、また誰も使ったことがない。壁の向こうで相手が何をしているのかは、まったくわからなかった。
「〈グロウス〉」
いつの間にか足元にぱらぱらとこぼれていた宝石が、急激に成長する。それはいつの間にか完全な美しさを持つ結晶の塊へと変化していた。地形として配置されることの多いそれなので見覚えがあるにはあるが、攻撃に使われた時の脅威など知りようもない。
「……?」
次の攻撃が来ない。確認してみれば、相手のMPはすでに危険域に陥っている。
「〈ブライニクル〉」
氷魔法のうちでもほかの魔法と一緒に育てることで出現する、超強力な魔法だ。対象は単体だから重要性は低いが、PvPなら牽制、うまく使えば決め手にも……
「な、MPが!?」
相手のMPが回復していく。
尋常ならざる事態だ。
『あれ!? MPの回復手段って休憩しかないんじゃなかったんですか!?』
『どうやらMP回復薬が登場したようですね……!』
瞬く間に三割も回復したそれがぎゅっと減り、次に聞こえる音が何かは分かっていた。
「〈グロウス〉」
体を、貫く貫く貫く貫く貫く、貫く貫く貫く貫く貫く貫く貫く貫く貫く。
『勝者は』
すべてを聞かないうちに、Sお皿は光の粒になって風に流された。
◇
二日目のプレイヤーキラー・トーナメントは、やはり大盛況らしい。クソ野郎の考えそうなことくらい俺には分かっているし、目的もだいたい知れてはいるが、そこに突っ込んでも始まらないのが大人の事情ってやつなのだろう。
「よう」
「なんだ灰朝真。友達面すんなよ」
灰色のニンジャコスチュームに細い体つき、間違いなくどうして漢字にしたのか聞いてみたい灰朝真だ。すとっと現れたということはそれなりの身のこなしができるようになったんだろうが、俺はそういうのはどうでもいい。
「……友達になろうと言ったはずなんだが……」
「そうだっけか。まあいいから、見てろよ」
さらっと流す。若干ショックを受けたような顔をしているが、俺はそういうのは専門外だし男同士の人間関係はわりと適当だ。仲悪かったんじゃないのかお前らと言いたくなるようなのは日常茶飯事なのだから、ちゃんとするとか言う言葉は死んでいる。
「ちょっと参加するやつにヤバいものを渡しちまってな、勝てるかどうか分からねえ」
「そんなものを持っていたのか、ゼルム」
「ああ…… 投げ武器を作って自分で使ってるんだがな、あれはヤバい」
「ヤバいと連呼されても分からんぞ」
説明のしようがねえんだよと言うとそれじゃあ最初から言うなと言われてしまった。
「使ってないからこそ心配なんだよ。一本で全てが終わる。具体的に言うと、別になんでもないようなひもが付いた投げナイフなんだ。ところがそのひもと、持ち手の輪、これがミソになってくる。投げる以外の使い道が生まれてくるんだよな。おまけに鍛冶スキルと錬成スキル両方使って作った試作品だったのに渡しちまったしあのクソ野郎許さねえ」
「切断と打撃を両方こなせるということか?」
「違うんだよ…… 投げるより耐久値の消費が少ないんだ」
いろいろな使い道がある。そして俺はその使い道を予測できないのだ。
「ひもの長さはMP次第で伸びる。最大だと30メートルくらいだろうな…… 重さもあるから振り回せるし、そうなれば攻撃し放題だぜ」
「そんなに強力には聞こえないがな…… ま、渡したお前がバカなんだ、後悔しろ」
「けっ、人ごとだからってそういう…… まあいいぜ、見てろ」
正確には投げナイフではないのだ。
『さて昨日の二連戦を瞬間制覇した無名の強豪、例の投げナイフさんことゼルム氏が姿を現しました! 今日も瞬殺してくれるのでしょうか暗黒ティッシュ(意味深)さん!?』
『いえ今回は難しいでしょう、なにせ相手はオーシャンズのタンクですからね』
タンクというのはでかい鎧を着て、でかい盾を持ったようなイメージのある、ようするに敵の攻撃を受け止めるやつだ。いや、オーシャンズのタンクって、どっかで聞いたような覚えがあるんだが。
『名前をバカにしたやつは殺す! 過激なタンク、ホワイトスミスの登場です!』
あいつかよ!
と思ったが、盾を持っていない。鈍い色の鎧は、だが凄まじい強さを伝えていた。
『うーん、素行に問題があるとされていますからね…… 灰朝真さんと同じように、一度倒されて丸くなってほしいものですね』
『暗黒ティッシュ(意味深)さん、そんな正直に言っちゃって大丈夫なんですか……』
『護衛がいますから…… 違うギルドに手を出すことがどういうことか、彼も理解していないわけではないでしょう。それでは両者位置について……』
ぎりぎりと引き絞る動きは、特技の発動のプレモーションだろう。
『ゴー!!』
横に移動しながらピックとブーメランを放つ。それが俺の弱点だった。
「ぐっ…… く、」
腕が。
一本しかない。
『かすっただけで腕が消えました! 体力ゲージはすでに四割消えています……』
特技が強力なのではない、タンクという名前に騙されたのだ。
「スピードもそれなりに上げてるんだよなあ…… それなり、だけどな。遅い動きで敵の的になってるようじゃいけねえって思ったのさ。あんときの鉄くずか…… 今の俺がどんだけ強くなったのか、見せてやるよ」
あの時よりは落ち着いているようだが、かませくさい雰囲気は変わらないままだ。
「これかわしてから言えよ」
立っているホワイトスミスの首元にブーメランが突き立った。
「なか、なか…… やるな」
性質上ブーメランはクリティカルにはならないが、衝撃力だけでいえば一番だろう。もちろん、正面から受けた衝撃のみが盾役の受けたダメージであるはずもない。
「〈ポイズンアーム〉」
「〈アバランシュ〉ッッ!!」
避けるスピードは十分に間に合っている。
「通らねえだろ? なあ」
「さっすが大ギルドのタンク様だな、鎧はすげえよ」
だが、投げナイフが一本も刺さらない。ポイズンアームの効果時間が終わるまでには一本は刺さるだろうが、それからを済ませようとして殺されてしまえばどうしようもないのだ。
「銘は入ってないが、相当強い鎧だ…… 素材はちっとも良くないのに加工が超一流なんだろうな。正直言って俺の手に余るくらいの性能だ」
「ハッ、くだらねえな。悩むなら捨てろよ。 ……もしくは売れ。素材に戻してやる」
「ゴミが…… これだから成り上がりはギルドに入れたくないんだ」
「下剋上されんのが怖いだけだろうが。友達にとっては自分は友達じゃないかもしれないなんて悩む青春野郎と一緒だぜ、おい」
盾を持っていないということが、少なくとも今のあいつの決意なのだろう。
「ギルマスがあんたを許してるかどうか、未だにわからないのが怖いだけだろう。償いもしないで許してもらおうなんて甘いんだよ」
「黙れッ!」
それがどういうことかなんて、俺は知らない。知ろうとも思わない。
弾幕を作るように投げたナイフやピックやブーメランは弾かれ斬られる。適当に投げたもののうちいくつかは生身の部分に当たって、相手を毒状態にしていた。
「やる気ねえだろ…… 〈デッド・ウィング〉」
翼と言うよりも腕のようなものが地面から伸びあがり、闘技場の土を噴き散らしながらホワイトスミスをつかんだ。当然それに攻撃力はないし、毒のダメージを底上げして毒になっている最中のダメージを上げるにしても、ほとんどダメージは入っていない。デス・ウィングから成長した阻害魔法のうちでも随一のありがたい魔法だ。
「死ねばいいとでも思ってんのか、ホワイトスミス」
「……なら、やってやるよ」
いちいちフラグ立てるやつは嫌いだ。
「〈カルム〉!!」
よく意味の分からない単語が叫ばれ、俺の体を分断する道筋を描いて太めのロングソードが水平に振るわれる。それを止めることは俺にはできない。背を向ける勢いで後ろに跳びながら、手だけは特技のモーションを取る。
「〈ピアースシュート〉」
前傾姿勢の首元を射抜くように銅の投げナイフは飛び、事実首を貫いた。
「〈スティール・ピアース〉」
ずん、という重い音が聞こえ、相手は剣をもとの場所に戻そうとするかのように、取り落した剣を見ることもせず腰の鞘に触れる。
「負けた、のか」
「自分のHP見ろよ。 ……盾、持ってもいいと思うぜ」
「そうだな……」
がしゃり、と言う音はやはり冷たかった。
『すごい! 三連続で試合を制覇しました! シードなしでは現在最高記録です!』
『これは期待できますね……。とはいえ、まだまだ猛者は控えています。しばらく休憩しておいてください、ゼルムさん』
礼も言わずに、俺は歩いて闘技場を出た。
あんまりにもファフナーが好きすぎていろんなところにファフナーっぽい何かが出てきてしまっていますね。緑の結晶が集まってるとかこれなんて同化現象。思えば削除した作品を書いた動機が「ファフナーがカッコよすぎたから」というのもありましたよね……
いい加減に離れないといけないだろうか。
執筆ペースが塵芥レベルに落ちているため次回更新までひと月はお待ちください。他の作品の更新予定は今のところ全くと言っていいほどありません。




