熱いね熱いね
「さて、では第一次作戦会議を始める」
「・・・わー・・・」
出来る限りの棒読みで興奮してみた。コチ、コチと、秒針の音がする。なんなんだこの
虚しさは?
−熱いね熱いね、90年代風に熱いね−
「まずは一つ一つこの図書館の特徴を上げてみよう。どこに問題があるのかわからない
のならば、しらみつぶしに行くしかない。」
「そうですか」
出来る限りの棒読みで応答する。気づいてくれ。
「蔵書!まずこの図書館の蔵書の内容からあげてみよう。まずこの学校にある全ての部
活の参考になりえるものを、この私が一つ一つ厳選して選んだ。それゆえ実は時々それが功を
奏して図書館に参考書を借りに来る人は多いいのだ。」
「参考書、ねぇ・・・。」
そいつの演説を背中に聞きながら、スポーツ関連のところに向かう。
・・・野球超人伝?あれ、どっかで聞いたことの有る参考書だな・・・。
「ライトノベル!普通の小説ももちろんあるが、近年流行りに流行っている、絵が入る
ことを前提としたエンターテイメント小説、ライトノベル通称ラノベを、私はここの図書館に
入れることを採用している。しかし!私は売れているからといって並べたりはしない。その本
を読み、学校としての気風に反しないかを判断し、そしてさらに楽しめるかを吟味した上で
だ。いくら面白いからといって100%稚拙なギャグマンガを、この神域に入れるのはあって
はならないことと同じようにこれは重大なのだ!」
「わー、すごいや白城軍曹」
出来る限りの棒読みで応答する。いい加減気づいてくれ。俺は興味がないことに。
・・・あれ、あいつの声が止まった。どうしたのかと振り向くと・・・え、笑ってる?
ってか怖っ、笑ってる顔なんかダークなんですが。しかもブツブツ言ってるし。
「いいねぇ・・・軍曹・・・ククク・・・。」
「・・・お前大丈夫?特に頭が大丈夫?」
ハッ!と彼女は気付くと、はじめから何もなかったかのように説明を続けた。
「温度!夏、冬、と、どの季節でも、冷房が効きすぎたり暖房が効きすぎたりで余計な
集中力低下原因を作らないようにしている。目指す季節は春の涼やかさ。これぞ至福にして究
極の温度管理!」
「・・・」
まぁ、否定はしない。温度はいいんだよここの。22℃の外の少し暑い温度とくらべれ
ば、この部屋はほんの少し涼しい。シャワーを浴びたすぐ後でもなければここの部屋は居心地
がいいはずだ。それにしてもこの図書館の状況。コチ、コチと秒針の音が耳に痛い。
「日差し!この窓の外には実は鏡が着いている。」
「・・・え、なんのために?」
「つねにこの部屋に入る日差しが変わらないようにするためだ!」
そういわれて俺ははっと気付く。そういえばさっき図書館に入ったときも、机の上は日
差しで暑くはあったけど明るかった。おかげで昼寝のときはぐっすり寝られたなってそうじゃ
ない。問題は今も日差しがそこから変わっていないってことだ。あれから二時間、まったく日
差しが動かないのはおかしい。なるほど鏡で調整していましたか。
・・・あれ?
「いや、ふつう、そんな図書館あるか?っていうか電気でいいじゃん。」
「じつは今省エネ中なのだ。だから昼間は出来るだけ電気をつけないようにしている。」
「・・・クーラーを消すほうが普通先だと思うんですが・・・。」
「否!この部屋は温度調整期がないと灼熱の地獄とかわるのだ!本とかが熱をこもらせ
てしまう為、読書に満足して集中することができなくなってしまう。それ故温度調整期をはず
すなど、選択際にも入らぬわ!」
そうですか、ってどんだけあんた地球に辛いの?図書館=「命」か。Loveなのか。
「・・・あのさ、質問していい?」
「なにかね?」
「おまえなんでそんなに熱いの?」
「馬鹿な!この部屋の温度は今22℃だぞ!熱いわけが無かろうが!」
いやいやそうじゃねぇよ、熱くはねぇよ部屋は。冷たくも無いから結構丁度いいよ。
「いや、じゃなくてさ、なんでおまえそこまで図書館に、こう、力入れてるんだ?」
「・・・ふむ、ついに語るときが来たか、我が秘密。」
わ、我が・・・。すげー、不自然なく自分のことを我とかいえる女初めてみたよ。そし
てなにこの状況?なぜに、魔王がなぜ誕生したかみたいな、RPGで重要なフラグ立てた台詞なの?
「我が流派は白城流、図書管理術を継承する家系に生まれし者、白城家に生まれ、本に
魅せられた以上、私は生涯を本のために尽くすことを決めた。」
なんというか、彼女は自分の台詞に酔うかのような口調で話し始めた。手はカウンタ
ーにおかれており、目線はさっぱりこっちを向いていない。ハードボイルドな探偵が語るよう
なポーズ。これが舞台なら不自然でもなんとも無いんだが、ここ図書館ですから。不自然ですからものすごく。
「認めなければならないが、白城流図書管理術は、一般的知名度は限りなく低い。」
・・・きっとたぶん物凄く低いんだろうねぇ。半端無く低い。どんぐりの背比べでも一
個だけ低すぎだろってつっこまれるくらい低そうだ。
「だがその道を知り、利用する老舗の本屋であれば、我が流派の伝統性。そして、修行
を積み、極めしものがもつその管理術の極みを知れば、アルバイター程度をその本屋に雇うこ
と邪道に思えるなり!我が流派はただ本を管理するのではなく、人に貸し出された本にも目を
おき、そして管理する図書館は常に人にとって、読むのに居心地良しとなされなければならない!」
・・・そうですか。
「どうでもいいけど、だったらなんでこんな学校の図書館の管理してるんだよ。なんか
おまえだったら今からでも大英図書館で働けそうだけど。」
「大英図書館?ああ、あの表向きに有名な図書館か。だがそんなもの、私の家の地下に
ある図書館でも匹敵する。」
ちょっと思うんだけど、こいつはひょっとしてあれか、中二病にかかっているのだろう
か?だって、ねぇ?おまえ、どこの家の地下の図書館が大英図書館に匹敵するって言うんだよ。
「だが、残念なことに私はまだまだ修行中の身ゆえ、まだ図書管理の免許皆伝にはいたっておらぬのだ。それゆえ今はこの学校の図書館で修行の身。そしてこれが試練!」
そう言ってついにカウンターの上に彼女は乗りあがった。どうやら最高にハイって奴らしい。
「我が試練はこの図書館を限りなく人で満杯にすること!それが成就したとき、私は晴
れて免許皆伝となるのだ!」
まぁ何を叫ぼうがもう何でも良いよ、どうせ誰もいないんだし。演説はまだ続きそうだったので、ま、彼女が自分の声に酔っている間に、俺は適当にこの図書館にあるものでも探しますかね。
「はいはい、カウンターからおりなさいな白城ちゃん。みっともないでしょうが」
と、ここで唐突に俺たち二人以外の声が入った。
続く




