2謝罪してくれました。そしてつかいっぱにされました
「図書軍曹」
本棚に本を入れようとしたら足首をものすんごい力で握られて片方が赤い目で睨まれるっていう、とりあえず世にも不思議な体験を致しましたが俺は今はまだ生きてます。
あのあと数分でそいつは目覚めたんだけどなんか無言でカウンターの奥に入ると、どこから持ってきたのか良くわからないけど日本茶を淹れてきて、何もいえずにぼけっとしてる俺を席にすわらせて目の前に出されました。ああ、普通にも振舞えるんだなとか思ったけど
そいつはごとっと出して一言。
「飲め」
命令口調ですかい。
―謝罪してくれました。そしてつかいっぱにされましたー
「とりあえず先の無礼は謝ろう。すまない」
向かいに座ったそいつは両拳を握って肩幅に開き、机の上に立てて頭を下げた。たまーに時代劇で見るような侍の謝り方。ちょっとその素直さに驚いた。
「少し取り乱してしまったゆえここは一つ見逃してほしい。」
俺はあたりを見渡した。本棚、あ、ひとつ倒れてます。本、散らばってるのレベル超えてます。隣の席、図書カード刺さってます。紙の癖に。こいつが大いに取り乱したら戦争起こせるなって思った。
「そして願いが二つある。先ほど見たことは誰にも公言しないということ。」
そりゃぁ、ねぇ。言ったって特に笑えないジョークだし。こういう変な能力持ってるやつって漫画だとたいてい隠そうとするよね。
「いや、うん・・・たぶん誰も信じてくれないから別にそれはいい。」
「うむ。そしてもう一つの願いは私の下で働けということだ。というか下僕になれ。」
ストレート。ミルクもシュガーもないドス黒さ。え、いやなに唐突に下僕って。
「いやいやいや、お断りします。」
「・・・」
俺がそう言うや否や彼女の目がまたしても片方だけ赤く光る。それに呼応したかのように周りの本棚が浮き、散らばってた本が俺を軸にぐるぐると回り始める。俺の回りでおきてることに冷や汗たらして笑うしかできない俺の前で、そいつは片手を持ち上げ何かを握りつぶすような動作をする。口が引きつっている。あ、従わないと殺される。
「まて、まてまてまて!」
「下僕になれ」
目さえ光っていなければこの上なくかわいい笑顔なのですが、今は殺気しか感じねぇよ。片方が赤く光ってるから、もう片方の目が自然と陰に隠れて黒くなるしでえらい演出効果だなおい。
「わ、わかったおちつけ、なるから。・・・何なんだよお前・・・。」
「そうだな、主として名前は言わなければ。」
主って、もう確定?
「白城美咲と言う。」
・・・こいつのテンションは良くわからない。素直に謝る時もあればめっちゃ見下したときもあるっていうか、まぁとりあえず今は自己紹介はしておこう。まがまがしいオーラがまだ後ろで漂ってますが。目とか口とかテディベアとか。え?テディベア?あ、首もげてます、テディベア。
「・・・辰川 実だ。」
「そうかしたっぱ。」
言ったそばから名前を否定されました。なんなんだよてめぇは・・・。
「・・・そろそろその、なんか、すごいまがまがしいの、ええっとこう、解除?うんしてくれる?」
「・・・」
それを言ってもそいつはまるで反応しない。無視かよとかっておもっていたら、まわりの本がいっせいに本棚に戻ったのに気づいた。まず倒れていた本棚が起き上がり、散らばっていた本があるところで中心に集まっていく。そしてゆっくりと、それでいてはっきりとした軌道の浮遊感で本棚に戻っていく。やがて全ての本が戻ると、本棚は依然あった場所に静かに着地した。図書館に8分前に入ったときと同じような整然とされた空間。衝撃のBeforeアンドAfter.いや、くどいなこれは。
一連の動きだけを見れば近未来的な図書館にもおもえるんだけど、なにせ背景に目とか口とかわら人形、あ、わら人形発見、とかいろんなものあるんでえらい不気味だ。そして彼女は本棚のすべてが行動を終わらせたとき、パチンッと指をならした。するとある本棚から一冊の本が飛んでくる。あ、やっべ・・・・。
「この本、見覚えがあるな」
「・・・ああ。」
10分前に俺がその上で寝てしまっていた本だった。さらりとそいつはあるページを開くと、俺の前に差し出す。ああ、そうだな、このページだ。俺が読みかけてた部分って。だってよだれが付いてるもん・・・。
「この本は、昔こそはそこそこ楽に手に入るものだったが、1987年に出版社が倒産して以来、今じゃめったに手に入らない貴重品なのだ。それをおまえのようなゴミ虫の枕に使うのは、いささか高級すぎるな。」
ゴミ虫っておまえ・・・。
「・・・んだよ、よだれくらいで。んなもん乾けば、あ、なんでもありません。」
目が赤く光ってた。ギラギラ光ってた。『殺す』って光ってた。
「とはいえ、私も本気でおまえを始末しようと思っていたのも事実。だからーー」
「チャラ?お互い様てことで。」
「つかいっぱになることで許すことにしたのだ」
なんか、こいつ、ものすごく見下した言葉の語彙に富んでるな・・・。結構使い慣れてる?周りにもこんな調子なんだろうか・・・。
「んだとこらざけてんのか、あ!?あ、あ、ごめんなさい。ふざけてました」
笑ってた。口が笑ってた。目は笑ってなかった。手がなんか握りつぶしてた。
なんか一方的に敗者の感覚を味合わされてしまっていたので、茶の苦味でごまかそうとする。・・・あ、茶は上手い。茶なんてどれも同じかと思ったけど甘みと香りがちょうどいいっていうか・・・。
「さて、下僕になるのにはちょっとした手続きが必要になるが、今日の下校時間までに済まして来い。」
「手続き?」
「早い話、図書委員になるための手続きだ」
はじめから図書委員といえばいいのにそれを下僕下僕って・・・。
「それを済ませたらまたここに戻って来い。1600時にだ。」
「・・・1600時?」
「ヒト、ロク、マル、マル。4時だということもわからないのかミニマム脳みそ。」
しらねぇよそんなの。でも凄みがはんぱないのでとりあえず茶をすすっていることにした。
「さて、私にはこの図書館におまえのような不貞な輩が神聖なる領域に踏み込まないか見張る仕事が残っている。行け。」
そういってそいつは椅子から離れ、すたすたさっていく。その場に取り残された俺は、これからどうするべきか悩んでいたが、そしたら白城がすぐに戻ってきた。
飲み終わっていた茶碗を横からさっととって行き、開いていた本を指パッチンで再びもとのところに戻した。何にもなくなった机の前に座ってるのも馬鹿らしいんで、もうそこを去る事にした。
図書館から出るさい、そいつがいそいそと俺が座っていたところの方向に去っていくのが見える。何事かと思えば、帰ってきたときには数枚の図書カードが白城の手に収まっていた。




