第三話 夢
ここはどこだ?
樹海の様な森の中にいる。
夢の中か?
久し振りに夢の中にいると認識している自分がいる。過去に何度かこのような体験をした事がある。
目の前には小さな子供が泣いていた。男の子だ。
「どうしたの?」
私は優しく声をかけた。
「僕、食べられちゃうよ……」
男の子は震えている。
「誰に食べられるんだい?」
「変な顔があるコイン」
「百円玉の事かい?」
「そうだよ。一週間以内に良い事に使わないと食べられちゃうんだ。後一日しかないんだ」
「寄付とか、そういう事に使えばいいと思うよ」
私がそう言うと、男の子は首を横に振った。
「じゃあ、良い事に使うってどういう事かな?」
私がそう尋ねると男の子はこう言った。
「多分、使った自分自身が幸せな気持ちになる事だと思うよ」
そう言って、男の子はゆっくりと歩いて行った。
幸せな気持ち?
場面が変わり、辺りは緑一色に染まっており、良く晴れた村の中にいる。一人の若者が必死の形相で私の所に走ってきた。
「助けて下さい! このままでは殺されてしまいます」
若者の額からは尋常ではない冷えた汗が流れているが、顔色はそんなに悪くない。
「誰に殺されるのですか?」
「変な顔があるコインです」
「百円玉の事ですか?」
「そうです。一週間以内に良い事に使わないと殺されてしまいます。後一日しかないんです」
「困っている人に差し上げるとか……」
私がそう言うと、若者は首を横に振りながらこう言った。
「自分にとって価値がある事に使えばいいと思うよ」
そう言い残して若者は、また勢いよく走って行った。
何の前触れもなく突然、私の歯が一本抜け落ちた。そして、また一本。次から次へと上の歯が、どんどん抜け落ちていく。確か歯が抜ける夢は不安の表れと、誰かから聞いた様な気がするな……。
私は不安なのか?
目が覚めると私はすぐに机の上を見た。恵比寿顔の百円玉は話し掛けてこない。
やっぱり疲れていただけなのか?