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エデンの庭先へ ー俺の人生は異世界行っても破茶滅茶だった件ー  作者: 白湯の窓辺


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第七話 混濁

 視線を感じた。


 振り返るとそこにレナがいた。


 泣き声は止まっていた。目だけが残っていた。人間を見る目ではなかった。

 知らない何かを見るような、冷たい目だった。


 俺はその目から視線を外せなかった。


「なにを…なにを…やってるのエミル?」


 手を見た。血で濡れていた。生温かいものがあった。口の中が血でベトベトしていた。


「なにを……自分はやっていたんだ」


 初めて声が出た。身体が自分に戻っていた。視界が滲んでぼやけた。次第に涙が溢れてきた。止まらない。

 感情が理性が追いつかない。


 エルナを失ったから泣いているのか。自分が人ではない行動をしたからか。大切な人が死んでまであんなことをしてしまったからか。涙の理由さえ、もはやわからない。


 その全部が一度に押し寄せてきた


「俺は…俺は…何をやってるんだー」


 俺は叫んだ。止まらなかった。


「姉ちゃんを守れなかった。何もできなかった」


 本当にその言葉が自分の本心か。

 自分にただそう言い聞かせてるだけかもしれない。


「ねぇーちゃーん。ねぇちゃーん。クッソぉおおおおおおー」


 自分が孤独になる悲しみからか。

 自分がまだ人だと証明するための叫びなのか。


「俺は…俺は…なんてことを…」


 床に拳を叩きつけた。何度も。


「俺は……もう人間じゃない…」


 これはレナに対しての自分はまだ人間だというアピールなのか。

 そう思って演じているだけなのか。


 頭がおかしくなりそうだった。

 何がなんだかわからなかった。


 ただ、その中で冷静に見つめるもう一人の自分がいた。

 それすら自分に恐怖を感じた。


 どれくらいそうしていたのかわからない。


 レナはそこに立っていた。固まったまま、ただこちらを見ていた。


 しばらくして、レナが口を開いた。


「パパと…ママが…死ん…じゃった…。もう…いない…もういない…の」


 レナの目からまた大粒の涙が溢れ出した。


「エミル…わたし…どうしたらいい?」


 レナは自分のことでいっぱいいっぱいだった。

 俺のやっていたことなんて頭にないようだった。


「エミル…しか…頼れる人…いないから…」


 ここにはもう何もない。この村にいる必要も感じなかった。


「俺にも何もないな」


 俺は自分の事ばかり考えて…。


「この村を出よう」


 この子の目線ばかり気にして…。


「一緒に」


 こんな子のことも気遣ってあげられないなんて俺はほんとダメだな。

 そう思い、少しだけ我に返った。


 血だらけのままでは外には出られない。そう思った。


 エルナの血で二人が発狂した。レナに触れたら同じことになるかもしれない。確信はなかったが、近づかない方がいいと思った。


 それにしても、なぜ自分は発狂しなかったのか。同じ血に触れていたはずなのに。

 答えは出なかった。ただ疑問だけが残った。


 とにかく今は動くしかない。


 水で血を洗い落とす。できる限り丁寧に。レナには触れないように気をつけながら。


 不意に死体に目をやった。首元に何かがあった。通行証だった。

 俺は迷わずそれを抜き取った。


 それから、黙って身支度を整えた。


「レナ、ここから先は危険だ。それでも一緒に来るか?」


「うん…もうどこにも行くとこないから」


「泣きながらじゃ歩けない。少しだけ我慢できるか」


「…うん」


 レナは唇を噛んで、涙を堪えた。


 そして、荷物を揃えてレナの家に向かった。


 外に出ると死体が転がっていた。


 生きている者もいたが、こちらを見る目が変わっていた。石が飛んできた。罵声が重なった。


 関係なかった。どうせ出ていく。


 レナの家で荷物を揃え、村の入り口まで歩いた。


 二人の会話はほとんどなかった。


 村の入り口に着いた。


「この門をくぐれば外だ。モンスターもいる。覚悟はいいか」


「うん」


 あんなに憧れていたはずの外の世界は、今は灰色だった。


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