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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
七章:

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96/137

頁:54 その【邂逅】一期一会につき。◆挿絵有り



翌朝、まだ早朝の涼しさを感じる時間帯。

セラとノアの二人は、石畳の大通りを埋め尽くす露店街を回っていた。


威勢良く声を張り上げる商人たちの声に、露店から香る様々な食事の香り。

音と匂いという情報がこれでもかと入り混じり、市場特有の熱気を作り上げる。


二人は人と情報量の多さに目を回しながらも、市場を見て歩いていた。


「黒いローブ姿の学生さんが多いねぇ…!それになんだか……

 男女の二人組みがすっごく多いねぇ?」


「ですね…! 人もそうですが、色々な匂いでクラクラしちゃいます……。

 バルタザール様の仰ってました、魔導技師…? の職人様って――

 どこに向かえば会えるのでしょうか? 詳細な位置が分かりませんね……。」


二人してまるで、初めてのお使いに出た子どものような仕草で見回す。


そんな中、見兼ねたであろう人影が二人へと身を寄せる。

黒いローブを纏った二人組みの女性が、勇者と聖女に歩みを寄せた。


ノアとセラに対し、恐る恐るだが距離を縮め、緊張した様子で声を掛ける。


「あのっ…! 勇者様と聖女様でしょうか……?

 わたしの勘違いでしたらごめんなさいっ…! その、お困りですか……?」


「お困りでしたら、わたしたちでよければお話だけでもっ……!」


きっと勇気を持って話し掛けてくれたであろうことは、見て取れる。

女学生の一人は、ぱっと身で分かる程顔を赤面させていた。

手指をそわそわと動かし、ノアとセラの返答をまっている様子。


そんな彼女に対し、ノアは朗らかな微笑を湛え、優しく答えた。


「僕たちの事知っていてくれているだなんて、少し恥ずかしいねぇ?ふふっ!

 ええっとね、魔導技師さん? って職人さんを探しているんだ。

 でもこの辺りに来るのは初めてで…どこに行けば会えるのかな?」


「もし、知っているなら是非案内してほしいなっ!」


話し掛けた女子生徒は、勇者の瞳に見つめられ、赤面した顔が更に染まっていく。

隣に居る友人であろう女子生徒に急かされ、なんとか口を開いた。


「えっと! わ、わたしたちで良ければ案内を…! いいよね?リリィ?」


「わたくしはそれで構いませんわ。 ほら…しゃんとなさいな?ノインっ!」


挿絵(By みてみん)


リリィと呼ばれた女子生徒は、ローブ姿で軽くカーテシを披露。

綺麗に整えられた笑顔で自己紹介を始めた。


「お初にお目にかかりますわ。 勇者様、聖女様。

 わたくし、リリィシア・ローゼンハインと申しますの。

 どうぞ、よろしくお願いいたします。 ほら、あなたもなさいな?ノイン。」


「あっ、ええっと! ノインです! 家名はありません! 平民なのでっ!」


ノアが朗らかに微笑むと、どこで覚えたのであろうか、綺麗な動作で一礼。


「ご丁寧にありがとっ! 僕は勇者のノア。 僕も家名は無いんだよ?ふふっ!

 それで、こちらの女性は――」


「ご紹介に預かりました…聖女のセラフィーナ・ヴァイオレットです。」


自己紹介を終えると、ノインたちに連れられ、魔導技師の居る店に案内。

何軒か教えて貰い、その際にノアは気になっていた大図書館での話しを聞く。


トラメリアの学術院では、十歳から二十歳までの十年間を、学びに当てる。

最初の五年は学業が優先、その後の五年は貴族と平民で道が違うらしい。


貴族は紳士淑女の教育と、婚約の為の社交界マナーを学ぶのだとか。

市民や、それ以外の者は、働きながらも学んでいくとの事だった。


セラは本来、学術院に通うはずだったのだと、なんとも言えない表情で語る。


「羨ましいです。 私…聖女でなければ、本来ここの学生だったので……」


「僕には縁が無いお話だねぇ。 あはは……学び舎だなんて立派な所――

 考えたことも無かったよ。 にしてもノインさんはすごいねぇ!

 学校に通えるだなんて…僕、少し羨ましいよっ!」


その言葉を拾い、リリィシアがノインの手を取ると、優しく微笑んだ。

手を取りながら、ノアたち二人に話しかける。


「ノインはわたくしの推薦ですの。 貴族の推薦がありますと――

 学費が多少ですが、免除されることになっておりますのよ?

 優秀な人材であるなら、尚の事。」


「ノインは一見ぼけっとして見えるかもしれませんが……

 とぉーーっても、優秀で可愛らしいんですのっ! ね? ノイン。」


「ゆ、優秀だなんてそんな! リリィが推薦してくれなかったら、わたしはっ!

 えっと! 今はリリィのお屋敷で働きながら通ってるんです…!」


「リリィはわたしと同い年なのに、すっごく立派で優しくって…!

 わたし、恩を返したくって…リリィのお役に立ちたくって…! ううん。

 人のお役に立てることが、とっても嬉しいの! だから、そのっ……!」


ノインは言いにくそうに顔を染め、リリィシアの後ろに隠れてしまった。

「んもう……。」とリリィシアに促されるように、ノインは言葉を続ける。


「勇者様と、聖女様はわたしの憧れなんです……!」


心臓が穿たれたように、彼女の、ノインの言葉が深く突き刺さったセラ。


これまでの旅路や、自身の身を襲った死線――

色々な出来事で、彼女自身忘れかけていた、自身の根源の気持ち。


自身もまた、同じような目的で【聖女】としての修行に長年耐えた事。

胸に妙なチクリとしたものを感じ、セラは胸元を抑えていた。


その後、女学生の二人に一通りの案内をされた勇者と聖女。

しかし、楽しい時間はそう長く続かず、別れの時が訪れてしまった。


彼女たちは互いに視線を交わし、ふっと微笑みを返しあった。

リリィシアが勇者と聖女に近づくと、柔らかな口調で語りかける。


「ほんの少しの甘味[パウルム・ドルチェ]という甘味処……

 是非、尋ねてみてくださいましっ!」


「学生向けの小さなお店ではありますが――

 安価で、とても美味しいお菓子が置いてございますの。 ふふっ!」


「わたくしのお気に入りの、オススメの場所なんですのよ?

 ではお二方! またどこかでお逢いしましたら、その時は是非っ!」


貴族令嬢的な微笑で、彼女たちはそのまま大図書館の方角へと歩いていく。

ノアとセラは彼女たちを見送り、視線を交わし、くすりと笑いあった。


その後、教えて貰った魔導技師の店を尋ね――

無事に魔道具を修理へと出したのだった。


ノアとセラは、その後リリィシアが言っていた店へと向い、店内へと入店。

……が、何ということだろうか。そこには男女の二人組み。


もとい、カップルが大量発生していたのだった。


ノアは特段気にする様子を見せること無く、堂々とした足取りで入店。


何食わぬ微笑を浮かべ、カウンターにつき、商品を注文。

代金を支払い、商品を受け取り、朗らかな微笑でセラの元へ。


空いている席を見つけるとノアはセラを促し、セラはおずおずと着席。

セラが着席した後、スコーンを切り分け、一口サイズに。


朗らか過ぎる、爽やかな微笑を向けるノア。


(いやあの。 これ、恋仲にある学生さんたちの溜まり場では???)

(私たち完全に場違いですよね??? 勇者と聖女ですよ???)


「ノ、ノア。 ノアは気にならないのですか? その、周辺の感じとか…。」


「え?どうして? セラはいつも無理してるからさっ!

 だからこうやってたまにはうーーーんと甘やかさないとっ!

 これ、蜂蜜漬けの果実が乗ったスコーンだって!ほら!とっても美味しそう!」


何気なく、あまりに自然に“あーん”を促すノアに、セラはたじろぐ。

躊躇していると「食べないの?」といった様子を見せるノア。


まるで、甘え盛りの子犬のような瞳で見つめてくる始末。


(そうでした。この勇者様…ノアという人は、感性がアレなのでした。)


「有難うございます、ノア。 では頂きますね…?」


若干引きつった笑顔ではあったが、なんとかスコーンを齧る。

さくりとした食感に、はちみつの甘さがじわりと広がる。


果実独特の爽やかな香りが口いっぱいに広がり、思わず顔が綻ぶセラ。


口の中の水分がすべて奪われ、喉の渇きを覚えたセラは、続けて茶に口を付ける。

茶はハーブティーらしく、スッキリした清涼感。


調和の取れたスコーンと茶に、思わず舌鼓を打つセラ。

市場では様々な匂いに囲まれていた為、その茶の香りは、心を落ち着かせた。


「とっても美味しいですっ…! 蜂蜜と果実の甘さ――

 それにさっぱりしてるスコーンとハーブティー…! 幸せですー…」


「セラ…口元に果実が付いてる! ほら、ここ! 取っちゃうねっ!」


ノアは無邪気な微笑で、セラの口元についた果実を指で掬い取り――

躊躇うこと無く、そのまま口に放り込み、セラは唐突の事態に困惑。


事態を把握した後……一気に顔面へと血液が集中していった。


(うっ、嘘でしょ!? なんて恥ずかしいことを平然と!!!)

(この勇者様……怖い!!なんて恐ろしいのでしょう!!)


周りの視線は、聖女と勇者の仲睦まじい姿に釘付けになっていた。

女子生徒に至ってはセラに対し、羨望の眼差しを向けている。


……しかし、そんな視線などノアには知った事ではなかったのだった。





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