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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
六章:

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75/127

頁:42.5 その【夢幻】の少女。◆挿絵有り



夢を――見ていた。


その夢の中はとても暗くて、上下も前後も分からない闇で。

そんな中、背を向けて膝を抱え込んだ女の子が一人で佇んでいた。


その女の子のことがどうしても気になって、近づいてみる。


私の髪の色に、よく似た髪の女の子――

なんで……どうして、こんな哀しそうな背中なんだろう?


『……どうしたの? 大丈夫?』


何があったかなんて、私には分かるはずもない。

少女はすすり泣くような声を押し殺し、掠れた声で語りかけてくる。


『こんなっ……大変なことに……身体を押し付けてしまって……。

 わたしの、せいで……。 わたしの、わたしの――』


泣いている理由とか、言葉の意味とかは、全然理解することができない。

それでも『どうして?』と、言葉を返すしか、私にはできなかった。


それ以上はすすり泣くだけで、言葉を発さない少女。

ただ、嗚咽を我慢するような音を、この暗闇に響かせるだけで。


『大丈夫だよ。 私は辛くないよ。 だから……だから――ね?

 どうか、泣かないで? ふたりで一緒に、これからも頑張っていこ?

 私がついてる……だからね……“わたし”は泣かなくても、いいんだよ?』


意識的な言葉じゃなくって……なぜかそう、口が勝手に動いていた。

無意識の言葉――不思議だけれど、嫌な感覚はしない。


目の前で困っている少女を助けたくって、安心を分けてあげたかった。

小さな背中を、後ろからそっと――抱きしめる。


よく口ずさんでいたどこか懐かしい調べを、女の子にも聞いてほしくって。


鼻歌を歌えば……自身の内部に温かい何かが――流れ込むような。


気がつけば真っ暗だった場所は、虹色の粒子に囲まれた花畑。

一面を覆い尽くす白い花畑に、どこか薄い藤色の空気。


挿絵(By みてみん)


温もりに抱かれ、心地よい熱に……夢の中だというのに微睡む思考。


――気がつけば、私は意識を手放していた。


◇ ◇ ◇


薄いカーテン越しに、暖かな陽光が部屋全体を照らし出す昼過ぎ頃。

風邪に伏せてしまった聖女を見守るのは、勇者ノアたちの三人。


彼女の呼吸は、薬の効果からか、運ばれてきた時より幾分かマシになっていた。


それでも頬はほんのり赤みを帯び、未だに熱に浮かされていることは見て取れる。


うっすらと瞳を開き、視線を少し移せば、側には心配そうに見つめる三人。

ぎょっとするが、自身の身体に感じる倦怠感に、合点が行った。


上体を僅かに起こし、かすれた声で一同に問いを投げるセラ。


「んっ……。 あの、みなさま……どうなさったのでしょう、か……?

 わ、わたし……身体が重くって……。 いったい、なにが……?」


彼らに風邪を移してしまうのは忍びないと、口元を隠すセラ。


が――目線の先のノアやパルテオンの顔は、なぜか赤い。

ルルは無表情ではあったが……彼女の瞳からは、愉しそうな雰囲気。


(全く意味が……私、そんな粗相をしたのかしら……?)


「ノア……? パルテオンさん……? ルルちゃん……??

 あの、私……また皆さまにご迷惑をおかけしたのでしょうか……?」


問いかけに対し、返答の言葉を投げかけるものはなぜかいない――なぜか。


「うーん……。 うん。 聞かん方がええとおもう。 あたしはそう思う。」


瞳を細めたルルが、やや諦めたように息をついているが……。

彼女の言葉の意味を理解できずに、頭には複数の疑問符が並ぶ。


ノア、パルテオンの男性陣は彼らは依然として沈黙し、謎が謎を呼んだ。


理由は不明ではあったが、これでは埒が明かないと諦めた。

ひとまず――自身の記憶している範囲で何があったのかを共有したセラ。


『ふむふむ、なるほど。』と呟いたノア。


彼は早朝の出来事をとても簡潔に説明をしてくれるのだが……。

どうしてだろう、しどろもどろになり、頬も赤いではないか。


「ゴホッ……。 大体はわかりました。 それではええっと……。

 ここまで運んでくださったのは、ニヴェイシア閣下だったのですね?

 それで、薬を作ってきてくださって、飲ませてくださった……と……?」


「……で? それで? その後は?? どうして皆さま……。

 (顔が真っ赤なのでしょうか……そんなに恥ずかしい粗相を……?)」


「ちがうんだっ……!これは……僕たちが悪いんだ……っ……!

 アメトさんがセラを運んでくれて、薬も――うん。」


「僕たちはただ、看病するしか出来なくって……それで、ねっ……?

 あとで僕たちから、しっかりアメトさんにお礼を伝えておくからっ!」


どうにも『何か』を隠しているような雰囲気のノア。

しかし頑なな彼に、セラは諦めることにした。



安堵した空気に、全員が一息ついたのもつかの間……。


――唐突に、部屋中に響き落とされた轟音。

それはまるで、雷鳴が轟くような凄まじい爆音だった。


グギュリュッルルルルルッ!!……ドゴンッ……


新種の魔物の咆哮か?と錯覚するほどの騒音が、騎士の腹から轟いた。

騎士が慌てて腹部を押さえつけ、顔を歪める。


全員の目は一斉に音の主へと向けられ、やがてポツリと呟かれる声。


「クッソびびったわ……。 なんかーおもうた……。

 今の、魔物の鳴き声? お腹の音よね……?ほんまに人間の音??」


「わりィッ! 朝食抜いて看病してたからよッ……! セラが起きたろ?

 それで気が緩んじまったんだッ! ガッハッハ!」


腹部をさすり、堂々と潔く言い放った騎士。



その後――

彼らは食堂へ向かうと言うことで、セラの寝室から立ち去った。


寝台の上で一人ぼっちとなってしまった聖女。

布団の中で不自由な身体を動かし、倦怠感に耐えるのだが……。


じっとりと湿った汗が、衣類を濡らしており、肌に嫌に纏わりつく。

それゆえに、大変な不快感に襲われ、身動ぎするがどうにもならない。


「うう……っ。 汗で服が貼り付いて気持ち悪い……。

 ルルちゃん……助けて……。」


自身から湧き出る汗で、布団は湿気を帯び、セラにとっては地獄そのもの。

不快感を拭おうと身をよじれば、涼しすぎる風が肌を刺すだけで。


不快感との戦闘真っ只中――耳に届けられるのは、扉の叩く音。


「失礼いたします、聖女様。」


静かな言葉と共に扉が開かれ、無表情の女中(メイド)が盆を片手に入室してきた。


「ご気分はいかがでしょうか? 旦那様から、こちらを召し上がるようにと。」


「こちらは、当屋敷の薬草園にて管理されている薬草……それと――

 畑で取れた新鮮な野菜、穀物を使ったスープにございます。」


眉一つ動かすことなく、淡々と言葉を紡ぎ説明する女中(メイド)。

盆は部屋の机に置かれるのだが、彼女は部屋の戸口まで足を運び――


「病床に臥せっていても食せるようにと、配慮して作られたものです。

 毒物等、含まれておりませんが……ご心配でしたら私が毒見係を。」


「あ、ええっと――」


何か言いかけるのだが、女中(メイド)はすでに退出の姿勢。


「申し訳ありませんが、私は仕事がございます。 では、これにて――」


「おっ……!おまちくださいませっ! ルルさんを――呼んでいただければ……!

 お仕事中にごめんなさい……ですが、どうか……どうかっ……!」


どうにか言葉を伝えたが――女中(メイド)は眉を寄せ、なにやら怪訝な表情。

一礼した後『承知いたしました。』とだけ残し、足早に去っていった。


また一人取り残されてしまい、ぼーっとした頭で瞳を細めるセラ。


体調の悪さも相まって、途端に心細くなり、小さなため息を吐き出す。


(む、むなしい……。 いけませんね……体調不良で精神が乱れては……。)





9/3 大幅加筆修正。

主にPCブラウザで見やすいよう、文字数を調整し、話を分割しました。

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