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その【聖女】転生者につき。  作者: すんころ餅
聖女と勇者と加護
1/13

始まりは、不快感と共に。

※注意※


当作品は、スナック菓子感覚でお召し上がり頂くには少々…重いです。

キャラクターの感情や、世界の空気感を重視した結果、咀嚼を愉しむような仕上がりになっております。


テンポの良い展開や爽快感よりも、世界に浸るような読書体験を好まれる方に向いていると、思います。


自分自身の「こういう物語が好きだ」「こういう物語が読みたい」という気持ちをそのまま形へと落とし込みました。


少しでも自分の作品の合う方に、愉しんで頂ければ幸いです…では、拙作ですが、ご笑覧いただければ幸いです。






――頭が、痛い。


片頭痛持ちの自分が、これまでに感じたことのない頭痛が、身体を襲っている。

鈍くて、まるで焼けた火箸を突っ込まれたような、そんな痛み。


言いしれない、訳のわからない痛みが、頭の奥で暴れている。


頭蓋を内側から、鈍器で殴られているような錯覚で、どうにかなりそう。


左の胸の奥も痛くて痛くて、呼吸するのも、耐え難いほどの苦痛。

肺が呼吸を拒んでいるみたいに、吸っても、吸っても、酸素が足りない。


――これは、過呼吸の症状。


それどころか、呼吸のたびに感じる、あばらが軋むような激痛。

更には、胃の奥からせり上がる吐き気…。


…もう、最悪だ、最悪がすぎる。


視界がぼやけて揺れていて、頭から血液が引いていく。

その症状が低血圧から来るものだと、冷静に判断しつつ、身体を動かそうとする。


しかし、手も思うように動いてくれず、それでも、必死に手を伸ばす――


(スマホ、どこ? …救急車、呼ばなきゃ…。)

(このままじゃ、生きていけない…でも、もう、動けな…。)


最後の身体の防衛反応なのか、自分の意識は水底へと引っ張られるように――


ぷつりと途切れた。


◇ ◇ ◇


――次に目を開けたとき、最初に映ったのは、知らない天井。


いや、知らない天井だけじゃない。


高級そうな濃紫色の、起毛素材で出来た幕のような大きな布が天から垂れる。

ひと目見て察する事ができる、見るからに、お貴族様感満載な天蓋。


視界の端には、これでもかと煌めくシャンデリア。

まるで異国のお城のような、豪奢な装飾が、視界を埋め尽くしている光景。


――なんだこれ?


こんなお姫様みたいな空間…絶対に、自分の知っている場所じゃない。


身体を包み込む柔らかな布団が、肌に吸い付くような温かな感触で、思考は蕩けるよう。

ほんのりと周囲一帯を漂う、花のようなお香の薫りが、余計に頭を鈍らせる。


懐かしい気もするけれど、それが何の花なのか、まるで思い出せない。


「どこ、ここ……?」


ふと呟いた掠れ声に、少しずつ現実感が押し寄せる。


視線を動かすと――黒のドレスに、白のエプロン姿の人影が、静かに立っていた。


(あれ?……おかしいな? 病院、じゃない? コスプレ…? てか、貴族の屋敷?)

(いやいや、待て待て。 そんな馬鹿な……これはきっと夢、そう夢だ。)


夢の中で繰り広げられている、よくある“異世界転生モノ”ってヤツなのだろう。


「あれ、でも…。 自分は、確か――」


無理やり記憶を掘り起こすように、唐突に頭に流れ込んでくる、あらゆる断片。

――自分は、日本のごく普通の家庭に生まれた、一般人だったはず。


(あれ、でも…性別は…?)


看護師の母に憧れて、同じ道を歩んで、頑張って、頑張って必死に働いて。

世界中がパンデミックに飲まれて、大混乱で…職場の病院が忙しすぎて、余裕がなくて――


それで疲弊して…嗚呼――そうだった。


自分は、多忙による過労の影響……後悔の渦の中で、助けを呼べず、死んだのだろう。

あれだけの不快感を感じてて、身体も動かなかったのだから、当たり前だ。


三十路目前で、恋人もおらず、母に「ありがとう」も「愛してる」も伝えられなかった。


……なんて、なんて…あっけない人生だったのだろうか。

情緒がシッチャカメッチャカで、涙が溢れているのか、頬が一部冷たくて。


涙を袖で拭い、なんとか冷静になろうと、あちこちに視線を移すけれども――

やはり、変わらない天蓋の豪奢な布に、煌めくシャンデリアたち。


ちゃんと考えてみよう…。まずこの場所、周りの豪奢な装飾、見た限り貴族のお屋敷。


天国でないとしたら、現実世界のどこかの国だろうか?


でもなんとなく、不思議なことに、空気が、地球のソレとはどこか違うと感じられた。

しかし…死の間際に見る夢が“異世界転生モノ”とは、神様も粋な計らいをするものだ。


アニメや漫画を嗜む程度の自分でも分かる“異世界転生モノ”だけれど――

夢想していた訳では無かったはずなのに、とても不思議な感覚で。


色々と思考しながらも、ふと視線を下に向けると、そこには小さな手に、華奢な腕が見えた。


(…え?…子供の、身体?)


もう、理解が追いつかない…自分は成人していたはずでは?頭がおかしくなった?

いや、異世界転生モノなのだ、子供に転生をしたということなのだろうか。


が、考えるまでもなく、同時に脳裏に断片的な知識が流れ込み、またもや思考が霞んでいく。


流れ込んだ断片的な知識を拾い集め、要約するとこんな感じになる。


この国の名前は煌陽国(こうようこく)・セレスタリアという名前で【加護(ギフト)】とか〈技能(スキル)〉…?

それと…〈神聖術(ディ・サンクトゥス)〉なるものが存在している、らしい…どれも日本には存在しない概念だ。


あまりに一気に流れ込むものだから、頭の中が情報の渦で、思考回路はショート寸前。

今すぐ泣きたいが、そうはいかず、分かってきたことがある、それは……。


どうやら自分は“セラフィーナ”という、少女の身体に入ってしまったらしい事。


(これは、転生じゃない…? 既にいる人に、乗り移った。 ということ…? つまりそれって――)


――転生とは“一からのやり直し”と考えるのが、定石だろう。

しかし、現在の自分は、もう既に成長途中の身体に“憑依”する形。


(じゃあ、今の自分を“偽物”と仮定して…“本物”のセラフィーナちゃんは、どこへ?)


どういうことなのだろうか?ではこの流れ込んできた記憶は?


今までのセラフィーナちゃんは?眠っている?それとも消えた?

自分っていう存在がいるせいで、変になった?


そう考えるだけで、また頭が割れそうに痛くなって、思わず頭を抱えてうずくまる。

体調不良と現在の事態にうなされ、頭を抱えるしかなくって、どうしようにもない。


だが、そんな時――唐突に「バンッ!」と音を立てて扉が開かれた。


「セラフィーナお嬢様! お目覚めですか!?」


……まぁ、そうなりますわな。


最初から病院じゃないことは、分かっていたし、解りきっていたはず。

だって、どう考えたって――どう見たって、貴族のお屋敷ですものねー。


「なるほどぉ、そういうことですね…。」


薄れゆく意識の中で、意味もなく言葉を呟く。

理解したフリをしなければ、今度は、メンタルをやられそうだったから。


まぶたが重くて、視界が滲んで…そしてまた、意識を手放した――


◇ ◇ ◇


――咳が、止まらない。


ここのところ、毎日毎日ずっと、お父様、お母様、それにメイドさんがわたしに付きっきり。

わたしの身体は一体どうなっちゃったんだろう?ずっと痛くて苦しくて。


神殿に担ぎ込まれたけど、わたしの身体は神官の人は“治せない”って言っていた。


そっか、わたしはもう、長くないんだ。って、心のなかで諦めがついた。


高熱にうなされて、頭ももう考えられなくなって、そのまま沈むように、眠った。


……そうして、ある日目が醒めたら、わたしの身体は突然、別人に成り代わっていた。


意識が戻ったと思ったら、まるで舞台の観客席みたいな所で、わたしの視界が遠くにあって。

身体は使えなかったけど、元々こんな弱い身体、好きじゃなかった。


だから、私の代わりにあの体を使っている人が、とても気の毒で。申し訳がなかった。

そんな風に思ってたら、視界の先の人記憶が――頭に流れ込んできて、いろんな欠片が、溢れ出した。


どうやら、わたしの身体を動かしているのは、別の世界の人みたい。

でも、この人は毎日毎日が大変そうで、その欠片が流れる度に、わたしは毎日泣いた。


泣いて、泣いて、泣き明かして。でも、この人はすごかった――


わたしの身体に入ってる人は、咳が出ても嫌な顔ひとつしないで、お父様とお母様に笑顔を振りまくような。

そんな…とってもとっても強い人で、わたしは、わたしの中にいる人の事が、とっても好きになった。


こんな…弱くて駄目な身体を、押し付けてしまってごめんね。そう思ってたのに――

わたしの身体を労ってくれて、こんなわたしに『身体は必ず返すからね』って祈ってくれた。


涙はもう、流れてはいなかった。その事が、その言葉が、その願いが…とっても嬉しかった。


だから――わたしは明くる日も、わたしの中にいる人の事を思って、祈りを捧げた。

わたしの身体を引き受けてくれて、ありがとう、わたしはあなたの幸せを願います。


神様、どうか――このひとに沢山、祝福を与えて下さい。


◇ ◇ ◇


――あれから、どれくらい時間が経ったのだろうか?

二度目に目を覚ました時には、世界は驚くほど静かで、とっても空腹だった。


「……お腹、すいた…。」


小さくて可愛くって、とってもか細い声が漏れて、思わず驚く。

自分、いや…セラフィーナちゃんはこんな声なのか…。憑依というのもは、実に違和感が凄い。


しかし疑問の念とは裏腹に、胃袋がご飯を求めて抗議している。

生きている証拠を「きゅるり」と、これでもかと鳴り響かせて。


うーん……幼い他者の身体といえど、少し恥ずかしい。


夢心地気分が抜けなくって、気づけば自分は、家族らしき人々と同じ食卓についていた。


そうなのである、びっくりするくらい、気がつけばなのだ。


金の装飾が施された、いかにも高級そうな、長いテーブル。

その上に、今までで一度も目にしてこなかった、様々な料理が並んでいる。


香ばしいお肉の香りとか、甘いソースの香り…いろんな匂いが、空っぽの胃袋を刺激するようで。


「……美味しそう」


つい、うっかり、声が出てしまった。


また、驚愕なのだが、手が自然とナイフとフォークを取り上げていた。

あれ?おかしいな…マナーとか知らないはずなのに。不思議と身体は迷わず動いた。


「セラ! 高熱を出したと聞いて、本当に心配したのだぞ……!」


振り返れば、赤く腫れた目尻を持つ父親が自分に話しかける。

正確にはこの子、セラフィーナの父親で、自分の父親じゃないわけだけど。


「はい、お父様…心配をかけてしまって、ごめんなさい」


口が勝手に言葉を紡いでいるが、抵抗はなく、自然に発声する感じで、ちょっとだけ怖い。

母親らしき人もと、っても優しい微笑みでこちらを見つめている様子。


「……いいのよ、愛しい愛しい、セラ。

 私たちは、可愛いあなたが元気でいてくれたら、それだけで幸せなのだから」


その言葉に、胸がぎゅうっと締めつけられる。


(だって自分は…。 ごめんね…。 本当はあなたたちの娘じゃないのに)


罪悪感と、せめて悲しませたくないという気持ちが渦巻いて、胸がきゅっと痛む。

そんな一見すると穏やかな空気の中、なにやら硝子が割れるような音が響いた。


――ガシャッ、という音を立て、皆が音の方向へと、視線を移す。


侍女の一人が、手元の皿をうっかり落としてしまったようだった。

破片が床に散らばり、侍女は慌てて拾おうとしていたが――


「痛っ!」という侍女の痛々しい声が部屋に響いた。


その声を聞いて、反射的に、前の身体での知識とかは関係なく、動いていた。

慌てて侍女の元に駆け寄って、怪我の具合を確認する。


指先が深く切れて、血が滲んでいて、とても痛々しい…。早く手当しないと。


「(――どれだけドジっ子なんだ、このメイドさん。)……見せてください」


そう自然に口から言葉が出てくるが、これは自身の言葉で、すぐに手を取り患部を観察する。


早く冷水ですすいで、清潔な布で巻かないと…などと考えていると――

無意識に、空いている方の片手が伸び、ぎこちなく小さな手が、患部へと翳される。


そして、手のひらから、淡い金色の光がじわりと溢れ出して……。


(ちょっ! な、何事? なにこれ? え?光ってる…??)


けれど身体が小さいせいなのか、光は明滅していて、どうにも安定しない感じ。

その光はまるで心臓の鼓動に合わせて瞬いているようで、暖かくて綺麗で。


光が侍女の傷に優しく触れると、傷は徐々にだが塞がっていき、出血は止まった。

切り傷は完全には消えなかったが、痛みは和らいだのか、侍女の顔から険しさが抜ける。


自分はあまりに現実離れした光景に、呆然とし、声が出せなかった。


驚きと混乱で、自分の小さな手をぎゅっと、握りしめる。

今さっき出た光の力は――自分のもの?それともセラフィーナちゃんのもの?


侍女は瞳を大きく見開き、しばし呆然とした後、深く頭を下げて感謝の言葉を伝えてくれた。


「ありがとうございます……お嬢様……!」


彼女から溢れてくるのは、精一杯の感謝の声だけど、此処にいる誰もが、一瞬だけ息を呑んでいて。

自分自身も、胸の奥が小さく震えて、しかしどこかで、高揚している自分も居た。


「この歳で祈りの力…? 私たちの家は…いやしかし。」


父親が不安そうに、なにかブツブツと言っていたが、自分は聞いていなかった。

それよりも、眼前で起きた光景がすごすぎて、聞き逃していたのだ。


(す、すごい…こんなに簡単に傷を癒せるだなんて…!!)


父は目を丸くし、不安そうな瞳で見ていた。

母は口元を押さえて息を呑んでいたけど、自分は気が付かない。


その視線に、温かさと驚きと――多少の不安の色が混ざっているだなんて。


(あれ?もしかして、この力って、特別だったりするのかな…?)


力を自覚した瞬間に、胸の奥で小さな熱が灯った気がしていた。

眼の前で起こった、まさしく――魔法と呼ぶに相応しい、目を見張る光景。


日常の温かさと、不可思議な力の兆しが混ざり合う空気の中で、自分はただ、手を握りしめるしかできない。

けれどその光は、ただの奇跡ではなかったなどと、この時の自分には知る由も無い――





こんな作品を此処まで読んでくれて、とても嬉しく思います。

誤字脱字があればこっそり、念話を送って下さい。

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