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第三話 優しすぎる猫好き。守られた友。

 男は猫をなでながら、優しさについて考えていた。


 猫を抱えた男の足元には、何をしにきたのかわからない友人が転がっている。

 自称潔癖症気味な友人が。

 床に転がる前までは、深い黒色だったTシャツを着ている友人が、寝息をたてて。


 男は、フローリングの木目を見ながら思案した。

 おそらく、猫の毛はどんな隙間にも存在するのだろう。

 毛の一本まで愛らしい猫の、やわらかな毛が、ちょっとした掃除では取り切れないほど、あちこちに。


 ――毛すら愛おしい猫の毛を、すべて始末する必要はあるのだろうか?


 男は掃除機をかける自分の姿を想像しながら、可愛い猫を片手で撫でつつ、本当の優しさについて考えた。


 ニャー。


 ゴロゴロゴロ――……。


 はらり、と、愛おしい猫の毛が、冷房という名のそよ風にのり、友人のTシャツを、ほんの少しだけオセロのように塗り替える。


 優しい男は、毛の一本すら愛おしい猫の毛を、じっと見つめながら深慮した。

 最愛の猫を裏切るような真似は絶対にできぬ――と。


 猫を抱えた男が、かつては黒かったTシャツをまといし友に背を向ける。

 そうして男は、自称潔癖症気味な友のため、小さな優しさを探すことにした。



 戻ってきた男の手には、回転式の粘着シールに取っ手がついた、誰にでも使える掃除用具が握られていた。

 猫を抱えた男は静かに片膝をつき、健やかに眠る友の手に、優しくそれを握らせてやった。

 冷房によって冷えた手に、ほんのり温かくなった掃除用具――コロコロを、そっと――。

 どうか、夢の中ではしあわせにと願いながら。


 猫がプシッ! と濡れた鼻から飛沫を飛ばす。

 優しい男はまるで花びらのようにふわり、と一枚のティッシュを友の顔にかぶせ、ゆっくりと頷いた。

 これでよし、と。

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