第三話 優しすぎる猫好き。守られた友。
男は猫をなでながら、優しさについて考えていた。
猫を抱えた男の足元には、何をしにきたのかわからない友人が転がっている。
自称潔癖症気味な友人が。
床に転がる前までは、深い黒色だったTシャツを着ている友人が、寝息をたてて。
男は、フローリングの木目を見ながら思案した。
おそらく、猫の毛はどんな隙間にも存在するのだろう。
毛の一本まで愛らしい猫の、やわらかな毛が、ちょっとした掃除では取り切れないほど、あちこちに。
――毛すら愛おしい猫の毛を、すべて始末する必要はあるのだろうか?
男は掃除機をかける自分の姿を想像しながら、可愛い猫を片手で撫でつつ、本当の優しさについて考えた。
ニャー。
ゴロゴロゴロ――……。
はらり、と、愛おしい猫の毛が、冷房という名のそよ風にのり、友人のTシャツを、ほんの少しだけオセロのように塗り替える。
優しい男は、毛の一本すら愛おしい猫の毛を、じっと見つめながら深慮した。
最愛の猫を裏切るような真似は絶対にできぬ――と。
猫を抱えた男が、かつては黒かったTシャツをまといし友に背を向ける。
そうして男は、自称潔癖症気味な友のため、小さな優しさを探すことにした。
◇
戻ってきた男の手には、回転式の粘着シールに取っ手がついた、誰にでも使える掃除用具が握られていた。
猫を抱えた男は静かに片膝をつき、健やかに眠る友の手に、優しくそれを握らせてやった。
冷房によって冷えた手に、ほんのり温かくなった掃除用具――コロコロを、そっと――。
どうか、夢の中ではしあわせにと願いながら。
猫がプシッ! と濡れた鼻から飛沫を飛ばす。
優しい男はまるで花びらのようにふわり、と一枚のティッシュを友の顔にかぶせ、ゆっくりと頷いた。
これでよし、と。