Day5
残り二話は夜に投稿します
場違いな桜の木は今日も不似合いな雰囲気を醸し出している。
桜の花びらはもうほとんど落ちてしまっているがそれでもなお妖艶な美しさは健在であった。
そんな桜の木の下にはいつもの彼と彼女がいた。
「桜、もう散っちゃうね」
彼女は眼前にある年老いた桜の木を見ながら残念そうに呟いた。
「……桜が好き?」
「まあね。春の――桜が咲いて散ってゆくこの時だけはありきたりな世界も幻想的に見える。見慣れた世界が突然別世界になる。だから好き」
彼女はあいかわらず桜の木を見上げながら答える。
「……なら、紅葉も……」
「銀杏が臭いから嫌い。幻想的だけど妙に残念なところが現実的なのが嫌」
彼女はその後「あの匂いさえなければな……」と少し顔をしかめ、ブツブツと一人呟き続ける。
「あんたもそう思わない?」
と突然、彼に目線を向け尋ねた。彼は頭を掻いた後
「……ごめん。そういうのに興味ない」
と申し訳なさそうに謝る。そんな彼の様子を見て、彼女はやれやれと首を振る。
「あんたさ。毎回毎回そうやって会話を終わらせないでよね。こっちの身にもなってよ」
「……ごめん」
「それもだよ。そう言われたらいじりにくいじゃない」
「……ごめん」
「だからぁ……」
彼女は彼の返事に頭を抱え、わざと聞こえるようにため息をつく。対する彼はいつも通りであった。
「……いや、期待するだけ無駄か。あんたはそういう人間だもんね」
そう一人割り切った後、「だから嫌われるんだよ」とわざとだろうか、彼にも聞こえるような大きさでぼやいていた。
「……あのさ」
彼は彼女に問いかける。彼女は桜に移していた目線を再び彼に向けた。
「僕は何か言っても口下手だし。何も言わなくても嫌われるし、どうしたらいいんだよ」
彼の本心からの言葉だからなのだろうか、その言葉には重みがあった。その言葉に対して彼女は
「知らないわよそんなの」
励ましたり、それとなくはぐらかすことなく、はっきりとそう言い切った。
「そんなのどうでもいい」
「じゃあさ!」
彼は帰ろうとする彼女を制すように声を大にした。彼女はめんどくさそうに顔だけ向ける。
「なんで……するんだよ」
彼の声は先程と違いとても弱くほとんど聞き取れなかった。しかし、彼女は大体理解したようで、
「あんなことしてまだそんなこと言うの?……正気?」
彼女は一瞬彼を蔑むような目をしたそんな気がした。けれども彼女はすぐに前を向いて歩きだしたのでもしかしたら気のせいなのかもしれない。
「明日も来ること」
彼女はそういうと闇の中に消えていった。
彼はただ木の下に座り込んでいた。
「……いやだ」
彼がそう呟いたその時、妙に生ぬるい風が強く吹いた。
そして、彼の上空では最後の花びらが風に吹かれて散っていった。




