Day6
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桜の花びらは完全に散ってしまいその神聖さは北風と共に去ってしまったようである。
背景の朽木同然となってしまった桜の木の下に彼はいた。
「あーあ、完全に散っちゃったか……」
彼女は開口一番そう呟くと、うずくまるようにして座っている彼の隣に座る。
「また、あれを見るには一年も待たないといけないのか……」
そう言って遠くを見る彼女はものさみしげな眼をしていた。そこに春風が吹いたがそれを彩る花びらはもうない。微かに木々が騒めくだけであった。
空模様はあの日からずっと悪く、今日も星の一つも隠れてしまっていた。あるのはただ街灯のみ。その光は蛾でも群がっているのだろうか、時々、その光はくりぬかれたかのように点滅する。
そんなどこか不気味な世界に溶け込むように彼と彼女はいつものように他愛のない会話をして、彼女は怒り、彼は困る。歪な形をした二人の反りは合わない。
けれども、今日もくだらない会話をするために慎重に家を抜け出してこの廃校舎へとやって来るのである。
もし、これがばれたらどうなるかお互いに分かっている。しかし、そんな危険を顧みずに二人は来る。
彼は彼女が来ると信じて。
彼女は彼がいると信じて。
……なんてそんな甘酸っぱい恋は
幻想だった。
朽ち木の下に座り込み続けていた彼は、突然立ち上がると物思いに更けていた彼女の肩を後ろからつかんだ。しかし、彼女は振り返らない。気づいているにもかかわらず。
「なあ、なにがしたいんだよ」
彼は声を低くしてそういった。けれども彼女の肩を持つ手は少し震えていた。
「触るな」
彼女は彼の問いに答えようとはせず、彼の手を乱暴に振り払って顔を向ける。
「何がしたい」
「威嚇のつもり?それにしては手も声も震えてたよね?」
彼女はいつもの小悪魔のような笑みを浮かべながら彼の目を見続けていた。
彼は何も言わずに彼女を睨み続けていた。その目は鋭く、やや狂気に満ちていた。あの目で見られると身震いしてしまいそうである。
しかし、彼女は笑った。ケタケタと音を立ててながら笑う。そしてとても純粋な目で彼を見続けていた。かわいらしい。でも、それ以上に恐ろしい。
可愛らしさに隠された純粋だからこその怖さがそこには宿っていた。
「また、前みたいにするの?できると思う?」
「何がしたい!」
彼は夜中にもかかわらず大声で怒鳴るように言った。すると彼女はつまんなさそうな顔をする。
「せっかくあんたの顔が見れたのに、壊れちゃった?」
「答えろ!」
彼女は真剣な様子の彼を見て「極限状態で壊れちゃったかな?大方夢と現実の区別がつかなくなったのかな?」とからかうように呟く。
「まあ、無理もないか。だって君は嬉しくて仕方だないもんね」
彼女は一人そう解釈している間も彼は「こたえろ」と呟き続けていた。その目は彼女の方を向いているが焦点が合ってないのか、微妙に嚙み合わない。
彼女はそんな彼を無視して歩き出す。
そして、数歩だけ歩いた後で立ち止まり。
「また明日」
とだけ言うと暗闇へと消えていった。
彼女の姿が消える直前、遠くの方から犬の遠吠えが聞こえた。空は少し開けていた。けれども月は見えない。どうやら新月のようであった。
彼はそんな暗闇の中で一人孤独に立ち続けた。
次回、最終話。




