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第2話

 何にしても王家の召喚状を無視するわけにもいかず、引っ張ってこられたオレ。今絶賛迷子中です。

 どぉしてこーなった。


 いやね、ちゃんと父上と来たんだよ、門をくぐるところまでは。中へ行こうとしたらさ、騎士団長と宰相と魔術師団の副団長が父上を呼び止めて話し出したんだよね。何やら長くなりそうだったから、オレだけ先に行くように言われて。


 案内はつけてもらったんだけど、そいつがいい加減なやつで、途中まで来たら「あとはそこをまっすぐ行ってくれればいいから」とぬかして消えやがったんだ。仕方がないから言われるままにまっすぐ行ったら……え? ここどこさ?


 オレ、王宮の中にいたはずなんだけど、どうして庭にいるの? 


 この噴水、すっごくきれいで眼福ではあるけれど、自分のいる場所が分からない。

 誰か教えてプリーズ!


「キミ、だれ?」

「え? て、どこにいる?」

 ぐるりと見まわしてもオレの影だけ。こいつがしゃべるわきゃないわな。

「噴水のこっちだよ」

「あ、そこか」


 噴水のふちをなぞるように移動すると……居たね、確かに。

 うずくまって体育すわりしている男の子が。


「何してるの、キミ?」

「それはこっちのセリフだよ。かくれんぼしてるのか?」

 そういうと、不貞腐れたように横を向く。

「そんな年じゃない!」


「じゃあなんだよ。そんなところに居たらそれしかないだろ。ちゃんとした理由を言えよ」

「理由、なんてない。ただ、誰にも会いたくないだけ」


「悪戯して高い花瓶でも割ったか?」

「やってないよ」

「ご先祖の肖像画に落書きした、とか」

「してない」

「メイドのスカートをまくってやったとか」

「してないってば!」

 とうとう顔を真っ赤にして立ち上がった。


「どうして僕が悪いことしたんだって前提なんだよっ!」

「え~、違うのか? どう見てもさっきの姿は悪いことして落ち込んでた風にしか見えないぞ」

「え、そ、そうなんだ……」


 オレがそう指摘してやると、がっくりうなだれて元の場所に座り込んだ。オレも一緒に座って、

「まあ、何だ。やらかしたことがまだ発覚してないなら、今から行って元に戻せばいいから。一緒に行ってやるから機嫌直せよ、な?」

「キミ、まだ悪戯した線から離れてないね?」


 ジト目で睨まれたがそんなの堪えるかよ。シリク兄に比べたら可愛いもんさ。



 そうやって二人、噴水にもたれてしばし無言。陽射しはあたたかく、目の前にあるのは優しい新緑の若葉。近くには花壇があるのか、流れる風の中にわずかな芳香が漂う。


「うん、この香りはいいな。ヘリオトロープかな、いや、あれはバニラに近い甘い香りだからこれではないか。もっと軽い、フローラル系の……ミュゲ、もしくはローズか?」

「キミ、香りに詳しいね。この奥にはバラ園があるから、そこのだと思うけど」

「やっぱりね。香水もいいけど、天然の香りが一番だな。きつくないのがいい」

「キミもそう思う? 最近、きつい香水をつけてる子がいて苦手だったんだ」


「あれはな~、本人が好きでやってると思うんだけど、実は全然似合ってないことが多いんだよ。その歳その歳で似合う香りが違うのに、そのことに気が付いてなくてさ、空回りしてるんだよね。ま、気の毒っちゃ気の毒なんだが」

「え、年齢で香りって違うんだ? どうして?」


 これはオレの前世が香水好きだったのが影響してる。自分の経歴とか状況とかが分からないのに、このことだけはしっかり記憶してるんだよな。どんだけ好きだったんだよオレ。


「例えばさ、デビューしたての女の子が色気たっぷりのお姉さま方専用の香水を纏ってみ。すンごい違和感ありありじゃん? その逆もまたひどいけど」

「た、確かにそうだね。そっか、そういうことなんだ」

 何に納得したのかコクコク頷く男の子。


「そんなにきつい香りの子なんているのか? この王宮に」

「う、ん。このごろ兄上に付きまとってるんだけど……兄上もおかしくなってるようで心配なんだ」


 ……なんだか不穏な言葉を聞いた気がする。それもつい最近。


「ちゃんとした婚約者がいるのに、約束を反故にしてまでその子と一緒に居るなんて、王太子としてきちんと教育された兄上がやることじゃない。絶対に何かあるんだ」


 はい、アウトー! 聞くんじゃなかったー!


「でも、僕が言っても誰も聞かないし、黙って見ている訳にも……キミどうしたの? 頭かかえて、頭痛でもするの? 侍医呼ぼうか?」


 こいつ、ひょっとしてアレか? あいつなのか?


「あー、今更ですが、お名前を伺っても?」

「僕? イリアード・フォン・シュラインだけど?」


 ど真ん中だったーっ! ショックが上乗せで潰れそう……



 その時。後ろが急に騒がしくなった。噴水を背にしてたから、騒がしいのはオレが通ってきた廊下の方だよな。座ったままそっと縁からのぞいたら……

「あれって、王太子殿下だよな」

「そうだね。あの、隣りにいるのがさっき言ってた子だよ」


 っていうか、あんた、オレの背中に乗っかってないかい。

 今ここで指摘すると見つかりそうだからやらんけど。


 でも、うん。言われてみればその子、周りから浮いてるね。着ている服はそれなりなんだけど、どうにも背伸びしてるようにしか見えないし、化粧なんてする歳じゃないだろ、と言いたくなるくらいに幼い。童顔だとしても、あの化粧はケバすぎる。あの子の持ち味を帳消しにしてマイナスに振り切ってるなんて、勿体ないとしか言えないな。


 その割には王太子殿下がにこやかだ。というより、ありゃ鼻の下が伸び切ってる感じだな。あの手の顔が好みだとしてもおかしすぎる。

 後ろから来ている女の子には般若みたいな顔を向けてる。おかしいだろ。


 オレの鼻に、香りが届く。

「ん……! こりゃ、ムスキーノート? この時間にあれは無いな。で、この特徴的な香りは、チューベローズ……だな」

「ホントに詳しいね。それってこのきつい香りの事だね? おかしい香りなの?」

「おかしいかおかしくないかで言えば、問題ない。あの年齢の子が纏うべき香りじゃないことは確かだが」


「そ、か。おかしくないのか……」

「だが、なんか引っ掛かる。この組み合わせはここじゃいいのか? 禁止されてる国もある筈だが……それより、他にも何かある?」

「え、禁止されてるってどういうこと?」

「ああ、またあとで説明するよ。こっち来たから静かにしないと見つかるぞ」



「しつこいぞ、ミラルダ! いくら婚約者と言えど、それ以上は聞くに堪えん!」


「ブライアン様、わたくしはブライアン様のためを思って申し上げております。王太子殿下ともあろうお方が、何の関係もない年頃の女性をお傍近くにおかれるのは示しがつきません。ブライアン様がそのようになさりたいのであれば、せめて婚姻を済ませた後に側妃としてお召し上げになるのが、一番角も立たず、速やかに運ぶことが可能でしょう。今はその時期ではありません」


「ひどいっ!! ミラルダ様はアタシに愛人になれと言われるんですかっ!!」


「貴方に王妃教育を施しても、とても無理だと思いますわ。今のその状態では」


「ミラルダ様っていっつもこうしてアタシをいじめるんですっ!! アタシがブランと仲がいいからってやきもちやいてるんですよ!!」


「おお、かわいそうなチェリー! 私がそばに居るからな。ミラルダ、チェリーに謝れ!」


「何故わたくしが謝罪せねばならないのですか? 理屈の通らぬ謝罪は拒否いたします」


「ひっど~い!! ミラルダ様の馬鹿ぁ!!」


 ワイワイと騒ぐだけ騒いで、チェリー(?)は走り去っていく。

「あ、チェリー!」

 王太子殿下もそのあとを追っていく、一人残されたミラルダ様は大きなため息をついて、これまた去っていった。登場人物がすべて退場した後、残されたオレと第二王子殿下は顔を見合わせて、

「「一体何だったんだ……」」

 期せずしてハモってしまったんだ。ホント、偶然にも。


 やれやれと腰を伸ばして出てきたら、騒いでいた場所にハンカチが落ちている。

「これはどちらのご令嬢のものか、な……っとと、チェリー嬢みたいだ」

「そうだね、このきつい匂いはあの子の香水だよ」

 あまりにきつい匂いで持っていたくもなかったが、確認のためにそっと仰いで匂いを嗅ぐ。

 確かにチューベローズだった、が。

 もうひとつ、別の香りがあった。そしてそれはオレの中で、ある知識とかみ合ってしまった。


「……キミ、どうしたの? また顔色が悪いけど。それよりキミの名前を教えてもらってないよね? 名乗ってくれないの?」

「あ、ああ、失礼しました第二王子殿下。オレ、いや、私は……」

「セシル! どこに行っていたのだ! いくら王子殿下と会いたくないと……殿下ぁ!?」

「あ。そこで殿下と話してました。名乗りが遅くなり申し訳ありません。ルシアード公爵が第3子、セイスリック・ルシアードと申します。しっかりお目見えさせていただきましたので、本日はこれで失礼させていただきます。後日、再度お伺いいたしますので。では」


「え? は? ルシアード、公爵の? ええ?」

「父上、戻りますよ。さあ早く急がないと!」

「あ、コラ、待たんか! ええい、勝手なことを。王子殿下、ひとまず御前失礼しますぞ。こらセシル! 待てと申すに!!」


 父上の制止する声を残し、走る一歩手前の競歩でオレは馬車乗り場へ急いだ。もし、これが合っていたなら、早急に手を打たないとマズいことになる!



読んでいただき、感謝です^^

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