第1話
新しく連載始めました。と言っても6話程度の短いものです。
気を抜いて、広いお心でお読みください。
ツッコミは勘弁してください。(豆腐メンタルなので)
オレはセイスリック・ルシアード。シュライン王国ルシアード公爵家の三男だ。家族も友人も通称のセシルで呼んでいる。女みたいだって? まあそうだな。でもオレは気に入ってる。何でかって言うと、オレの前世が女だったから。
おいおい、そこ。引くんじゃねぇよ。
オレの前世ってのは、異世界だったんだ。地球の、ニホン、の、オバハンなんだと思う。その辺はっきり覚えてないけどな。
気が付いたらベビーベッドの上だった。最初は訳が分かんなくて、ピーピー泣くだけだったんだよ。そのうちおしめを代えた時にさ、ぴゅーとおもらしして。高く上がるのを見て、『あれ、まさか』とショックで泣き叫んだんだけど、逆に周りは元気が良いって喜んでた。
まあ、そんな生活が2カ月も続けば、あきらめが出てなぁ。まぁいいや、って思えてきたんだよ。前世の記憶が歯抜けだった所為かもな。
上に二人も優秀な兄がいるから、オレは本当に気楽な身分だよ。風来坊してもいいし、父親から一代限りの爵位をもらって、自領の端っこでのんびり暮らすのもいい。自分で言うのもなんだけど、オレ、結構出来が良いんだ。
でも、結婚だけは出来そうもない。
女の子は可愛いと思うよ? なでなでしたくもなるよ?
それだけなんだ。男の子もおんなじ。
オレの中じゃ、弟や妹みたいな扱いになってるんだ。
前世のオレ、一体幾つだったんだ? 枯れてたのか?
それともどっか壊れてたんだろうか。
な? 結婚なんて無理だって。
そういう点では、どっかに婿入りなんてのもできないだろうなぁ。
そういうわけで、親にも家にも迷惑をかけることなく、独り立ちできるようにいろいろな知識をため込んでたんだけど……どうやらそれがまずかったみたいで、ある日、王子の話し相手に呼び出されてしまったんだ。
「ち、父上。オレ、いや私は何かやらかしたんでしょうか…?」
王家からの召喚状を渡され、ガクブルで父ルシアード公爵に尋ねた。
「いいや、お前が何かしたという訳ではない。逆に頼まれることになるのだろう」
「王家から頼まれる?」
「うむ。第二王子についてお前はどこまで知っている?」
「イリアード様について、ですか」
イリアード・フォン・シュライン、シュライン王国第二王子。確かオレの2つ下だと聞いたことがある。王太子殿下が優秀で期待されている半面、第二王子には特出した能力がないらしい。それだからだろうか、王位争いなんてことにならない代わり、顧みられることのない存在のようだ。
そんなことを話すと、父は頷いた。
「うむ、概ね合っているな。陛下や王妃殿下はそれを心配しておられている」
「何故ですか? 争いが無いならそれでいいのではないのでしょうか」
「それはそうだが、第二王子が無気力になってしまってな……お小さい時は元気で覇気のあるお方だったのだが、この頃は勉学も剣技も放り投げて閉じこもったままでな。これでは病気になってしまわないかと気をもんでおられるのだ」
は~、なるほど。お兄さんとの差を自覚してやる気にならない弟、ってところか。よくある話だよな。
「それとこの召喚状は何の関係が?」
「お前も我が家では同じようなものだろう? にもかかわらず、毎日訓練場で汗を流し、王立図書館で勉学にいそしんでいる。その情熱を第二王子にも伝えてほしいのだと、手を取って懇願されてしまった」
なんてこったい。王立図書館に通っていることで王家に目をつけられていたなんて、イレギュラーすぎる。自分のうかつさに頭を抱えたくなった。
「いえ、私はいずれこの家を出ていく存在です。そのための自分磨きをしていただけで、王子殿下に教授出来るようなたいそうなことは……」
無いと言いかけたところで書斎の扉が乱暴に開かれた。
「なんだとセシル、家を出ていくってのか。誰に嫌がらせされた!」
「そもそも出す事は論外だといい加減気が付いてほしいですね」
「お前たち行儀が悪いぞ。もっと静かに入って来んか」
騒々しく入って来てオレの腕をつかんだのが上の兄サイラスィール、通称サイス。次期公爵としての威厳や見識も高く、申し分のない跡取りだ。剣技も騎士団長とやりあえるくらいの技量を持っていて、嫡男でなかったらうちの養子にしたかった、と団長がこぼしたとかこぼさないとか。
そのサイス兄の横でため息をついているのが下の兄シリクレッドル、通称シリク。サイス兄の片腕として内政を担当している。実は領内の産業や教育について、前世の知識を簡略化して伝えたところ、えらく感心されて即採用。その後もあれこれと相談に乗っていたんだが……オレ、どうも知恵袋扱いされていたらしい。今ではシリク兄の執務室に、オレ専用の机といすが設置されちゃっている。
そんな訳で、オレが出ていくという話は、もう何年も前から我が家ではループして議論されるものの結論が出ない話題だ。
オレがいなくてもルシアード公爵家は安泰だと思うんだがな~。
ともかく、オレがすぐに出ていくわけではないとシリク兄を説得するのに数分、苛めを受けたなんて事実無根なことをサイス兄に納得してもらうのに数分かかり、終わった時は全員がげっそりして疲れ切ったため、そのままなし崩しにティータイムとなった。
「ところでその召喚状、父上はどう見ているのですか?」
紅茶を一口飲んだ後、シリク兄が尋ねる。何やらおかしなことを言うと兄の顔を見ているオレに、サイス兄がため息をついた。
「セシルはまだ社交界デビューをしていないからな。知らないはずだ」
「何をです、サイス兄上?」
「今、社交界ではおかしな風潮が広まって来ていましてね。どこの貴族も戦々恐々なんですよ」
へえ、そんなに怖いなら止めさせりゃいいのに。どうして流行らせておくんだろ。
「次代を担う若手貴族で起きているらしくてね。いっそのこと、若手主催の舞踏会や茶会を禁止してしまおうかという極論も出始めているんだ」
うっわ、怖っ。それ、権力の濫用とか言わない? 上級貴族の横暴とか。
「流石にそこまではやりすぎだと反対する意見が多かったので、実施はされませんがね」
ああ、良かった。まだ理性を保っていた人が居て。
で、肝心の風潮とは?
「『婚約破棄』騒動です」
「ブッ!!」
思わず吹いてしまった。
「大勢の前で『婚約を破棄する!』と宣言する馬鹿がこの国にも大勢いると考えたくないんですけれど、現状を見るとどうもね」
慌てて片付けるメイドを尻目に、淡々と現状を伝えるシリク兄。その言葉は冷静だけれど、オレはシリク兄が怒り狂ってることに気づいちまった。眼鏡の奥の眼がね、こう、氷穴の中の万年氷みたいに固まってるんだよ。
ここまで怒ってるのは、何年か前に家で夜会を開いた折に招いた一部貴族が、オレの事を馬鹿にした時以来だな。あの時の貴族たち、そのあと見なくなったけど……どうなったのか聞くのも恐ろしい。
「我が家はまだ婚約者がいないし、そんな馬鹿者を身内に引き込むつもりもないが、今度狙われるとしたら王太子殿下ではないかと言われている」
狙われるって、サイス兄。暗殺者みたいに言わないで、怖いから。
あれ、という事はもしかして……
「兄上、その婚約破棄って、何か共通点があるんですか? 例えば宣言するのが夜会の場でとか、相手の女性が同じとか」
そう聞くと、
「おお、セシルは勘が良いな。まさしくそうなんだ。それで困っている」
「それも爵位がだんだんと上がってきているんですよ。男爵とか子爵ばかりだったのが一昨日は伯爵、昨日は公爵だったんです」
「ほう。昨日というと、ルビナシス公爵家が主催ではなかったかな?」
ルビナシス公爵は宰相職を得ていて、その手腕は高く評価されている。あったことはないが、話を聞く限り、シリク兄を数倍腹黒にした相当頭の切れる人間のようだ。近づきたくない。
「セシル? 何か良くないことを考えてませんか?」
「え、いいえ、全然」
こういう時のカンの良さもすごすぎて、オレには太刀打ちできないんだよ。
「で、公爵家の騒動の中心は、あそこの嫡男か?」
「父上のおっしゃる通りです。長男のラルディオール殿がやらかしました」
「ラルはそんなことやるような人間じゃないはずだが、どうしたんだか」
「そういえばサイス兄上の同級生でしたね、彼。確かにあの時のラルディオール殿の目つきは普通ではなかったように見受けられましたが」
「婚約を破棄するまでに思いつめた相手は?」
「それがですね、どの現場でも見ていないんですよ。ただ噂ばかりで」
そんなことあるのかな。普通はその人の隣にいるはずだと思うけど。
「ですから、その召喚状が気になるんですが、父上?」
忘れてなかったんですね、シリク兄。追及する気満々ですよ?
「お前たちの心配するようなことじゃない。第二王子の関係だ」
「第二王子……というと、あの『真ん中王子』ですか」
「なんですか、その呼び名は」
「学問も剣技もダンスも乗馬も突出したところがない、すべて出来て、しかも平均点。ぷかぷか浮いているようで誰言うとなく『真ん中王子』と言われているな。あと、最近は『顔しらず』とも言われるらしい」
サイス兄、何気にひどい。王子が出てこなくなったのもそれが原因かもしれないな。
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