第35話 ドワーフの洞窟へ「湖畔の守護者①」
新緑の香り。
木々の葉が生命力に満ち溢れている。
風が吹き、木々がサラサラと歌う。
爽やかに揺れる木漏れ日。
山々に囲まれた湖は、揺らぎない湖面に景色を取り込み、幻想的に魅せる。
湖面が乱された。
何という……罰当たりな……。
「ご主人様も、一緒に行きましょうよ」
リズが誘ってきた。
シンプルな黒のビキニは、女性らしい彼女のスタイルと、大きな胸を健康的に強調していた。
愚者の天職を授かっているマークが、サムズアップのサインを送ってくる。
全部、アイツの仕業か……。
水着をいつ仕入れたんだ!
「きゃーー、湖じゃーーっ! テンも来るのじゃーっ!」
幼女が水姿で駆け抜けた。テンとは、多分、大聖霊テンペストのこと。
それにしても浮き輪? また無駄な小物まで買いやがって!
「ライムーラ様、待って下さい!」
いつも薄着の大聖霊テンペストが古神龍の化身、幼女姿のライラを追いかけていく。
大聖霊は、幼女姿のライラを知っていたようで、それは、それは大層な驚き様だった。
古神龍の方が格上らしく、ああやって相手をするのに必死。
結局、大聖霊テンペストは、皆からテンちゃんとか呼ばれることになった。
なんか、きつねぽい呼び名だが、白い衣に細っそりとしたスタイルは、尻尾を生やせば、なくはない。
それにしても、けしからん薄着だ!
「師匠は、ど、どこを見てるんですか?」
金色の魔法使いメルセデク、黒いローブを着ているが……水着姿が恥ずかしいのか?
黒いローブが、白い肌を強調する。
ローブからビキニが覗く、意外に胸が大きい。
メルセデクとククル、二人とも恥ずかしがって、中途半端に隠すものだから、余計に視線を集める。
「ちょっと、メルちゃん、こっちにいらっしゃい」
ククルも水着姿。
せっかくの水着の上からシャツを着ている。
それで隠しているつもりらしい。
首筋から描かれる柔らかな曲線を、シャツの薄い生地がぼやかす。
それでも浮かび上がる、形の良い胸のライン。
裾から伸びる長い足。
結局、太ももとシャツの境に、どうしても目がいってしまう。
ククルの話に、金色の魔法使いメルセデクは、ふんふんとうなづいている。
時折、二人の視線を感じる。
いったい何を……。
そして、なぜ、身体をよじらせて胸を隠す!
「でっ、隊長、どうするんすっか?」
トルンと俺は、水着に着替えていない。
他の隊員達は、マークを中心に水辺ではしゃいでいる。
どいつもこいつも、人外と呼ばれる域に達している強者だ。
あっ、マークが溺れた……。
リズにちょっかいを出そうとするから。
バカな奴。
「町までは、どれくらいだ」
「今日は、この辺りで野宿ですね。それが嫌なら今すぐ、出発です」
テンペストが宙に浮きながら、メルセデクを運んでいる。
何をやっているんだ?
おっ、湖の中に、メルセデクが落とされた。
大聖霊ともあろう者が、大笑いだ。
アイツらの主従はどうなってんだ?
「さあ、野宿で構わんだろう。無理に、先を急ぐこともないさ」
「へいへい、あとで、適当に人選して、準備しますよ」
トルンの奴、まだ話があるのか?
「それで、隊長はどうするんですか?」
女性陣がじゃれあっている。
平和な光景。
戦いとは程遠い。
「こういう瞬間も、幸せなのか?」
「さあね、そう思うなら、そうなのでしょう」
トルンは肩をすぼませた。
本当に、そうなら、しあわせは、案外にそばにあるものだっと思った。
野営は手慣れたものだ。
火種から、炎を育て、暖かい料理を作る。
そして、寝床の準備、交代での見張り。
空に星が瞬いている。
遠くの虫の音と近くのそれが呼び合う。
皆の寝息。
焚き火の音。
炎が弱くなれば、枯れ枝を食わせてやる。
焚き火を絶やさず、見張りを続ける。
火の粉が舞い上がり、風に乗って泳ぐ。
まだ寝ていれば良いのに……。
隣に来た女性に毛布をかけた。
山の夜は、夏が近いとはいえ冷える。
「こうやってると、戦争中なんて、うそみたいね」
隣に来たのは、ククルだった。
枯れ枝を折って、焚き火に投げる。
パチパチと炎が喜んで受け入れた。
「確かにな、戦争といっても人と人との争いだからな……良い言葉が見当たらないが、たとえ、それが世界を覆ったとしても、人と人ということだ」
「へえー、難しいわね。なら、当事者同士がやめたら、平和になるのね」
「それで終わるのは喧嘩だ。戦争は、どうにもならんさ」
「どうしたら終わるの?」
「勝敗が決するまで。敗者がいない戦争はない」
「そう……」
風が危険を知らせてきた。
耳を澄ませば、森の奥から物音が聞こえる。
気配がおかしい。
「起きろ! 起きろ! 森の奥からヤバイ気配がする」
魔物とは違う気配、生気のない気配。
俺の声に応え、隊員達が目を覚まし、装備を整えていく。
「隊長さん、わたし、この気配、なんとなく分かります」
珍しく彼女が怯えていた。
「世界で一番かわいそうな生き物……多分、死人です」
ククルは、彼女がいう可哀想な生き物に、酷く怯えていた。




