山吹の独白
補足SSです。
選択肢とは関係ありませんが、時間軸としては55話の次の日です。
明日になる前に言っておきます……。
私は今日、桜先輩の闇を、ほんのちょっぴりですが体験しました……。
い…いえ…体験したというよりは…、まったく理解を超えていたんですが……。
あ…ありのまま今日、起こった事を話します!
「私はミシェル・ゴールドのバチェロレッテパーティーに出席していたと思ったら、いつのまにかサバトに参加していた」
な…何を言っているのかわからないと思うんですが、私も何がどうしてそうなったのかわからないんです……!
頭がどうにかなりそうでした…催眠術だとか超スピードだとか…。
そんなちゃっちいものじゃ断じてありません!
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったんです……!
私は落ち込んでいました。
最近知り合った男性が、私に何も言わずに急に仕事を切り上げて帰ってしまったからです。
……正直に言うと少しだけ気になっていました。
あちらも私を気にしてくれていると思ってたんです。
実際は、連絡先も交換せず、最後の挨拶すらせず。
うぬぼれだったんですね。
気にしてたのは私だけだったんです。
私もう恥ずかしくて。
悲しくて。
祝える気分ではなかったんですが、ミシェルの独身最後のパーティーは前々から計画していたものだったので、私も参加しないわけにはいきませんでした。
それに、ミシェルの部屋を飾り付けるのはきっと楽しいだろうと思ったんです。
彼女の名前に因んで、ゴールドの飾りを沢山用意してました。
ウェディング用のバナー、ガーランドやペーパーファン、バルーン、キャンドルといったものを、一つずつ、桜先輩や他の経理部や人事部、法務部の女のコと一緒に、飾り付けていきました。
ため息はつかないように気を付けていましたが、私が落ち込んでいることを、桜先輩が気付いてしまったんです。
「ミチル、元気がないのね」
膨らましていたバルーンから目を上げると、心配そうな目で、桜先輩が私を見ていました。
恥ずかしくなりました。
私が自分の感情に囚われて、せっかくのお祝い事を台無しにしてしまっていると気付いたからです。
「すみません……。でも大丈夫です。私、ちゃんとお祝いします」
「謝らないで。でも……貴女もそうなのね……」
びっくりしました。まさか桜先輩も落ち込んでいるなんて、って。
そして同時に頭によぎりました。
桜先輩も、同じ理由で落ち込んでいるのだとしたら?
色んな感情が駆け巡りました。
こんな超人に私がかなうわけない、とか。
先輩も相手にされなかったのかな、なんてほっとしたり。
でも、だったらなおさら私なんて、とか。
私は更に落ち込みました。
でも違ったんです。
桜先輩はこう続けました。
「貴女も、結婚という制度に疑問を持つひとりだったのね……」
意味が分かりませんでした。
私は別に、制度に疑問を持っていた訳ではないからです。
私は、結婚とはスタートに過ぎないとしても、ある種のゴールだとも思っています。
結婚後に二人で歩む人生を第2ステージだとして、まず第1ステージをクリアしなくては次のステージに進むことも出来ない。
そして考えました。
結婚に疑問を持つ、ということは、終わらない第1ステージをずっと進み続けるという意味だろうか、と。
「い、いえ、先輩。私は別に……」
「大丈夫。私に任せて」
この時、私は先輩に何を任せてしまったのでしょうか。
でもあんな慈愛に満ちた目で見つめられて、否定することなんて誰が出来るでしょう。
私は「……はい」と答えてしまいました。
ミシェルが到着して、パーティーは滞りなく進んで行きました。
持ち寄った料理と、スパークリングワインを皆で楽しみましたし、ミシェルは幸せそうに見えました。
……途中までは。
「そういえば、鳩羽さんはまだ東雲さんを甘やかしてるの?」
お酒の入ったグラスを見つめながら、桜先輩が言いました。
法務部の子が答えました。
「相変わらずですよ、あの二人は」
「そう、困った人たちね」
「でも今日は東雲部長、法務部に来るの早かったんですよ。鳩羽主任に鎖で引っ張られながらでしたけどね」
きゃあっと言う嬌声と共に、皆が色めきたちました。
あの二人はどちらも独身で見目も良く、最近はその二人のコンビ感も理由に人気があります。
「目の保養だよねー」とか「主従関係が逆転してるようでしてないところが……」とか、楽しそうに自身の見解を話していました。
そしてひとりが、「東雲部長が新橋部長大好きなのがカワイイ」と言うと、共感の嵐が巻き起こりました。
これはあれです。
所謂B達のLです。
最近堂々とドラマになったりもして、昔から一部に絶大な人気のあるジャンルです。
実は私も嫌いではありません。
そうやって皆できゃっきゃしている時に、桜先輩が動きました。
おもむろに紙とペンを取り出し、新橋、東雲、鳩羽と書いたんです。
3人の名前は歪な三角形になるように書かれていました。
「三角関係……ですね」
「そうね。そして……」
桜先輩がその図に、国防、と書き入れると、皆がハッとしました。
国防さんは開発部の研究員で、大人しい見た目ではありますが意外とカワイイ顔をしていることから、磨けば光ると人気があります。
「で、でも、そうしたら……」
人事部の子がミシェルを見ると、ミシェルは「……ええ、あの名前を書かないわけにはいかないわね……」と呟きました。
桜先輩が重々しく頷き、図に新しく名前を書き入れました。
“マルク”
明日、ミシェルと結婚する人事部主任の名前です。
国防さんと所属する部署は違いますが、マルクさんが至るところで何かと国防さんを構い倒しているのは、社内では恒例の光景です。
「そんな……ミシェル……」
「……いいの……わかってるの……あの二人の方がお似合いだっ、て……。今日だってあの二人は一緒にいるんだもの……」
何だか雲行きが怪しくなってきました。
経理部の子なんか、感極まってすすり泣きしています。
そんな変な空気の中、法務部の子があることに気付き、紙に線を書き入れたんです。
「皆!これを見て!」
「なんてことっ……これは……っ!」
「ペ、五芒星……!」
一体、何が始まったんでしょう。
お酒に変なものでも入ってたんでしょうか。
私はただ成り行きを見つめることしか出来ませんでした。
桜先輩は紙の真ん中にキャンドルを置き、グラスを持って立ち上がりました。
「みんな……祈りましょう……」
呼応するように皆がグラスを掲げました。
「ええ……!私たちに出来るのはそのくらいだもの……!」
「うぐっ……皆に……っ、幸せにっ……なってほしいっ……」
「……つらいわ……。でも、尊い……!」
桜先輩が優しく私を見つめ、頷きました。
皆の嗚咽が響く中、ドレスコードである“ゴールド”のトップスが、キャンドルに照らされて妖しく光っていました……。
……これが、今日起こったことの全てです。
アナタに理解出来ますか?
ユニコんちゃん。
……明日の結婚式、どうなるんでしょうか。
まさか、無くなったりはしませんよね……。




