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美咲 果林

 4月になった。桜の花は新学期を祝福するようにきれいに咲き誇り、地に降り注ぐ。

しかし、エルゥは桜が嫌いだった。なぜなら、桜が咲くということは、学校が始まるということ。つまり、苦しい日々が始まる日だった。

入学式が終わり、帰り道。「おい、カス。」と声をかけられた。そこには、いじめっ子と、新しいいじめっ子であろう男子が3人。男子たちはエルゥを殴り飛ばす。そこから殴り、踏みつけ、とタコ殴り状態だった。

ああ、始まった。

美しい桜はエルゥから見れば、エルゥをあざ笑っているように見えた。


5月の始まるころ、エルゥはいつも通り学校帰りで道路の端っこで暴力を受ける。新学期が始まってからはずっとこうだった。横を通る人々は皆見て見ぬふりだ。全く、この世界は薄情ばかりだ。誰一人他人のために何かをしようとしない。いっつも自分のことばかりだ。自分が面倒なことやらなくていい方がいい、自分が安全であればいい、自分が楽しければいい。人間は皆そんな願望のために他人や他の生物を傷つけ、命を奪う。自分に快楽があれば他はどうでもいい。そんな奴らばかりの世界なのだ。全ての世界をかき集めてみると一番汚い世界なのかもしれない。この世界には輝く物はあれども、輝く人はいない。エルゥはそう考えていた。そう考えながら暴力の雨に身を撃たれ続ける。

「やめなさい!」

エルゥといじめっ子達は声が聞こえた方向に視線を向ける。そこには、紺色の制服を見に包んだ少女がこちらをにらみつけていた。

「なんだよ、お前。」

「えぇ?見てたの?」

「お前も同じ目にあいたいか?あいつみたいにさ。」

男の子はエルゥに指を指す。エルゥは困惑したまま少女を見て、少女はエルゥを見つめ、いじめっ子達に向き直った。

「いいわよ?できるならね?」

いじめっ子達を睨みながら、低い声でそう言う。

「い、行こ!」

いじめっ子達は逃げていった。エルゥは困惑したまま少女を見つめたままだった。

少女はエルゥに近づいた。

怖い。

エルゥは恐怖を感じた。

少女はエルゥの前に来るとゆっくりしゃがみ込む。

「大丈夫、何もしない。」

少女は優しい声で話しながらエルゥの手を優しくとった。その手の暖かさにエルゥの恐怖が消えていった。


エルゥは少女の家に上がらせてもらってる。熊のぬいぐるみがあり、花柄の壁紙があったりと、少女の部屋は女の子らしかった。エルゥの体にはシップや大きめの絆創膏が貼られていた。

「あなた、何であんなことされてたの?」

「い、いじめにあってるんです。クラスのみんなも、先生も、助けてくれなくて。」

「そっか、大変ね。家族には話したの?」

「話したけど、そうなんだってだけ言われて、それから誰もろくに話してないです。」

「・・・・・・・、名前は?」

「高橋 エルゥ。昔はエルゥ・アイリッシュって言う名前でしたが、父がなくなって、母が再婚して、今はこんな名前です。」

「そうなんだね・・・・・・。私、「美咲 果林」。果林って呼んでいいし、ため口でいいよ。」

「そんなぁ、友達じゃないし・・・。」

「じゃあ、今から友達ってことで!」

「でも!」

続けようとしたら、目の前には果林の手が差し伸べられていた。エルゥは果林の目を見る。

「お願い。私、学校に友達いないの。」

エルゥは果林の手を握った。

この日は、果林に家まで送ってもらい、果林はバイバイと言って帰っていった。


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