His girlfriends (中)
つい最近まで、この小説の存在を忘れてました……。
どうしてこんなことになってしまったのだろうか――。
「これも可愛い……」
「いや、あの……」
「ちょっと待って。うーん……これも捨てがたいわねー」
さっきからカーテン越しにガンガンと服が流れ込んでくる。しかも、どれも露出の多いものだったり、ふりふりのレースだらけのものだったり、挙げ句はスーツみたいなものまで、私の好きくない部類のばかり。
たしか、家具やら何やらを買う予定なのではなかったのか、と思うのだが。
本当にどうしてこんなことになってしまったというのか――。
◆ ◆ ◆ ◆
「ほー。妹さんは美人さんなのねー」
なんて、何の衒いもなしに言われて、耳の端で聞きつつ、私はどう答えればいいのかなんて少し考えてから、「はあ。どうも……」なんて当たり障りのない生返事を返す。
私はこの無駄に色っぽい先生とやらと並んで歩きながら、この人の家具なんかを買いに行くのに付き合っているのだというのに、なぜか骨董市なんかに来ていた。
しかも、
「あ。この壺よくないですか?」
「えー。少し地味じゃないかなー?」
「そうですか? あ。この皿なんかも」
実は、けっこう満喫してる。
ものの鑑定なんてできるわけもないし、価値なんかはまるでわからないのだけど、こういうものは何だか見ていて楽しい。
骨董市なんて色気も何もない場所に夢中になっている私は、この先生とやらが横から何か言っているのを、「はあ」とか「どうも」とか「そうですか」なんて短い言葉で買えしながら、目についたものを手にとっては睨み合ってみる。
「楽しそうね」
「楽しいですよ」
「ふーん。あたしはこういうのよくわからないけど、やっぱりすごいの? やっぱり高かったりするわけ?」
「あ。私もそれはよくわからないんです」
「? そうなの?」
「ええ。なんか、こういうのって、そういう値段的な価値よりも見て楽しければいいかなー、って」
「ふーん。変なの」
変なのって言われた。
いいじゃんか。楽しいんだもん。目で見たり触って感じるんじゃないんだよ。フィーリングハートすんだよ。骨董品は。
「あ。ごめんっ。気悪くしちゃったかしら?」
「あ? ああ。いえ、別に先生が悪くなんかは……」
なんて答えたもんかと少し考えていた私が怒ったように見えたのか、彼女は手を合わせて申し訳なさそうにそう言った。
私はそれを誤解だと言ったのだが、先生はペコペコと頭を下げて聞こうとしない。というか、聞いていない。
「いや、本当に、そういうのいいですから」
「でも……」
「あー……、じゃあ、ほら。そろそろ私も飽きてきましたし。そろそろちゃんと家具を探しに行きましょう。ねっ」
何が、ほら、なのか。
実はまだ骨董品を見ていたかったのだけど、
けっきょく、周りからの奇異の視線が怖くて、私は強引に適当な理由をつけて、先生の手を引っ張るようにして逃げるようにその場をあとにした。
「何か、あたしの都合で急かしちゃったみたいで本当にごめんね」
「いえ。いいですよ、これくらい」
ふむ。どうやら、第一印象や女の感とかでの判断していたよりも、この人はだいぶ良い人だと思う。
兄さん絡みだからといって、目くじらを立てていた自分が恥ずかしいくらいだ。また香織に茶化されても呆れられてもけなされてもしょうがない。けなされたら殴るけど。
「あー。何かこの冷蔵庫かわいくない?」
「……そうですか?」
「? かわいくないかな?」
つーか冷蔵庫にかわいいとかかわいくないとかあるの? はじめて知った。別に興味もないけど。
「といいますか、部屋の間取りとかでこういうのって決めるもんなんじゃないんですか?」
「そういうものなの? うーん、まあ、いいや。そういうのよくわからないし。あたしはこれ気に入ったし」
と、先生は、御機嫌そうににぱにぱと笑いながら、店員を呼んで、なんとその場で購入してしまった。お支払いは現金だなんてリッチに。
「うんっ。いいもの買ったわ」
「……そうですか」
つーか、私いらなくない? なんかさ、いらなくない? 私?
私がやったことなんて、こんなどこにでもあるようなお店に連れて来て、後は先生がてきとーに選んで買ってるだけ。
いらなくない、私? つーか、むしろいらなくない……?
「秋穂ちゃん」
「はい?」
「ありがと」
「……はあ」
私は特に何かやったわけではないのだけども、何にも答えないわけにもいかず、私は、「どういたしまして」と返して、愛想笑いを浮かべた。
あと、なんか今、秋穂ちゃんって言われた。いや、それくらいは別にいいけど。
「今日は助かったわ」
「はあ」
「だからさ、」
「?」
「お礼くらいはさせてね?」
――と、艶っぽく微笑まれて、私は何となく断るに断れなかったのだった。
◆ ◆ ◆ ◆
「まさか、お礼とやらがこんなのだなんて……」
「あ。今の、目つぶってたからもう一枚っ」
まさか、試着室に連れ込まれて、「何か似合いそうな服を買ってあげる」なんて言われるとは思わなかった。
しかも、こんなにたくさんの服を押しつけられるなんて。着せられるなんて。さっきからケータイのカメラでパシャパシャ撮られていることも含めて。
持って来られた手前、一回も着ることもなく返すのは何だか悪い気がして着て見せてみたらこんなことに。
これだったら着ない方がよかったと後悔してももう遅かった。なぜなら、
「あの、いい加減に私の服返してもらえませんか?」
「んー? じゃ、次で最後」
と、こんなやり取りがさっきから何回か十何回か。
気がついたらいつの間にか先生が私の服を持っていて、私はさっきから持って来られた服を着てはこんなことを訊いて、こんな感じに新しい服を渡されてはを繰り返している。
「はい。これで最後だから」
「……次こそ最後ですよ」
我ながら律義というかなんというか……。
私は、渡された服を手にとり、
「……水着じゃないですか」
「水着だが?」
唖然とした。
この紐に小さな布が申し訳程度についたビキニにも。
何かおかしいだろうか、なんて本気で訊いてくるこの先生にも。
「いや。何で水着? つーか今さらだけど何か色々とおかしくない……?」
「ん? ダメだったかしら? あたしが秋穂ちゃんがこれを見たかったからだけど?」
……さらりととんでもないこと言いやがった。
「嫌だよ! 何だよコレ!? ほとんど紐じゃんか! 見えるじゃんか!!」
「大丈夫よ。見えないから水着ってカテゴリーなんだから。あと見えた方があたしとしては嬉しいし」
何か言った! 今、さらりとまた何か言った!
「もう……嫌だあ!」
試着室からまだ買ってもないスーツのまま飛び出して、先生の手から服をひったくって試着室へと戻る。そのまま邪魔をされないうちに急いで服を着替えて、試着室のカーテンを開け放って、
「アンタ何なんだよ!?」
と、私は言い放ってビシッと指を指してポーズを決めた。
「あら、何でそんなことを訊くのかしら?」
何でって?
だって気になるじゃん!
だって何かさっきからおかしいんだもん、この人!
「えっ? なに? 何かおかしかった?」
「おかしいだろ!? むしろどこがおかしくなかったんだよ!? つーか何なんだよアンタ本当にっ!!」
兄さんの先生という手前、猫を意地で被っていたが、もう無理。暑苦しくて脱ぎ捨てて洗濯して、干してしわをアイロンで伸ばして、ブティック畳みでタンスにしまってやる。
「あー……何かごめんね。つい楽しくなっちゃってね。あたしさ――」
――バイだからさー。
…………。
………………。
……………………。
「…………え?」
「あれ? 言ってなかったかしら?」
言ってません。聞いてません。つーか、何かまたさらりと言われた……。
つーか、つーか――
「ちなみに秋穂ちゃんも春君もあたしの好みよ」
「聞いてねえよ!」
――来るんじゃなかった……っ!
おひさしぶりです、なんて言っても、はたして私なんぞのことを覚えていて下さっている方がいますでしょうか(汗
久々ですからねー。二か月ぶり以上。殺人鬼とペーパーナイフの方にいたってはもう半年くらい……
もし、私なんぞの作品を待っていて下さった方がいたのなら、申し訳っ。
それから、ありがとうを。