His girlfriends (上)
喩えるのならば――白。
私の兄さんは、そんな表現がものすごく似合ってしまう人だ。
少しのびた色素の薄い細い髪。血管が浮き出て見えそうなくらいに、病的に白い肌。綺麗に整った、色の薄い顔立ち。本人の性格が見てとれるような、アクセサリーなんかで一切飾らない、真っ白なワイシャツとジーンズを穿いただけの細い体躯。
七草春霞。
私の兄さんは、そんなまるで女の子のような容姿に合わせたかのように、女の子のような可愛らしい名前をした人だった。
その兄さんは、私、七草秋穂よりも一つ上の同じ学校の先輩であり、現在、校門にて待っているはずだ。私と買い物をするために、だ。……だというのに――。
「あ。秋穂ちゃん。やっと来てくれた」
「……兄さん」
「どうしたの? 何か疲れたような顔しちゃって?」
「あの、兄さん――そちら様は、誰?」
私を待ってくれていたはずの兄さんと、隣り合うようにその場にいて、何か私をじろじろと見てくる、私の知らない女。
「ん? ああ。この人は――」
その女は、たぶん私に紹介しようとしてくれていた兄さんの口を、指を添えて唐突に塞いで、
「んー。この可愛い娘は君の彼女君? そんなのいるなんて聞いてないんだけどなぁ。あたしは」
無駄に色っぽい、艶しい声でそんなこと言った。いや。アンタ、私が『兄さん』って言ってんだから、妹だって普通にわかるだろうに。あと『先生』なんだ。随分と若いね。二十代の前半? つーか、近い。すごく近いから。兄さんに目茶苦茶近いから。羨ましいから離れろよ。
「あー、秋穂ちゃん、こちら教育実習生の望月佳代先生。先生、この娘は僕の妹の秋穂ちゃんです」
「へー、教育実習生……」
「へー、妹さん……」
……何だろう。なんか嫌に――
「……あんまり春君に似てないねー」
――ムカつく。
つーか、何様だろうか。あって言うなり私が兄さんに似てないと? 何でそんなことを赤の他人に言われなければならないのだろう。あとさっきコイツは兄さんのことを『春君』なんて呼びやがりましたか? なんて羨ま――いえ、なんて、なれなれしい! 名前で呼ぶなんて! 『春君』だなんて! あんな甘ったるい声で! 兄さんにあんなに近付いて……!
「まあいいやー。春君行こー。あたし達の家具を買いにー!」
「先生の、でしょ」
「ううーん。じゃあ。そのうちあたし達のになる、で! あと春君、あたしのことは佳代ちゃんって呼んでって言ってんじゃんっ」
そんな仮にも聖職者を目指すものかとしてどうかと思われることを言って、望月さんは、
「じゃっ、張り切って行こっか!」
兄さんの手を抱き締めて行ってしまった。いや。おい――。
「……あのー、私はおいてきぼりですかー?」
何これ? 放置プレイってやつかしら?
それともわざわざ私に見せつけてくれちゃってるわけ?
「――あ。そうだ、そうだ。今日は春君の妹さんがいるんだったね。すっかり忘れてたよ」
と、振り返る望月さん。
何とすっかり忘れられていたようです。
「今日は春君との初デートだからってつい浮かれちゃって」
どうやら初デートだそうです。――って、
「……デート……?」
「そう! デート!」
兄さんとこちらさんが、と訊く前に、いきなり抱き付かれた。もうね、密着状態。そして私の胸に当たる、二つのバレーボール大の柔らかい膨らみ。おおうっ、ダイナミック……! ――って、それよりもデートって!?
「違いますから。貴女が家具やら日用品を買いたいけどこの町のことは来たばかりでよくわからないから案内して、って人の了解もなしに連れ出したのは誰ですか」
「ちぇー。少しはノッてくれてもいいじゃん! 春君のケチ!」
あ。何か違うらしい。
いや。でも、だったら何で私はこの場に呼ばれてしまったのだろうか?
ぶっちゃけ私いらなくない?
「それじゃ、行きましょうか」
「はーい。新しい食器棚とベッドと布団とお皿と――」
「はいはい。別に口に出して確認なんてしなくていいですから」
「あのー、兄さん……?」
話を聞く限り、もしかして、本当に私いらなくない?
「私、いらなくないですか?」
「ん? すっごく必要だよ?」
――嬉しっ!
「じゃあ。あとよろしくね。ちゃんと先生と仲良くしないとダメだよ?」
…………あれ……?




