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第88話
だがしかし、と思い止まる。それは赦されぬ事である。神の教えには、ヒトとはまぐわることを赦してはいない。どのみち私は誓いを破ることになる、と。
しかし、聖剣に宿りし竜はそんな王子を、まるで大海のごとく広い心で説く。竜が曰く、我が赦す。我は代行者なり。言うなれば、我の言葉は神の御言葉に等しい。故に再び告げよう。黒の王子よ。我は赦す。御心に従うがよい、と。
わずかな刻。瞬きほどの間に、黒の王子は三度熟考する。いや、考える必要もなかった。手にした短刀を収め、柔らかな表情を浮かべ王子はひと言、良いだろう、と言う。この場において私は誓う。そなたと契りを交わそう。此に応じるか。答えとして一言、男の子は首を縦に振り肯定を表す。
それを聞き届けた王子は頭の包帯を脱ぎ捨て黄金の髪を、美しき素顔を露にする。髪は窓から吹き込む穏やかな風でそよぎ、登る朝日に照らされ暖かな熱がこもった瞳で、ただひとりを映し告げる。騎士のような厳粛さ、ひとりの少女としての暖かみを以て。
──契りは交わされた。応えよう、私はそなたの刃。これより先、私という一振りの剣はそなたと共にあろう、と。




