第1話
遠い昔、しかし神々からすれば瞬き程の間の時の過去。とある星降る夜、ひとつの町に一人の男の子が生を受けた。その男の子が産まれる数ヵ月前、旅の占い師を名乗る片眼を義眼とした青年が彼の母親に予言を一つ授けていた。
その身に宿す子は、神々の加護を授かる。しかしてその運命には、煉獄の炎すら救いとされる程の苦難が待ち受けるだろう、と。
予言を受けた母親は、その日から不安に頭を抱えながら男の子を産み落とした。男の子はかつて美の神の転成せし姿と形容された程の母から絹糸のような長く美しい黒髪を、人に害なす怪物を悉く退治したとされる英雄の父から力強い眼を受け継いだ。
男の子が育った環境は皆が貧しくはあったが、そこには確かな繋がりと暖かみが存在し、彼もその中でしか学び得ないモノを自らの糧とするのだった。
そうして男の子が生を授かり十二年程の月日が経つと、彼の父親は白皙の美男子へと成長を遂げた息子に告げる。
私はこれから半年後国のため戦いに赴かなければいけない。その間おまえが愛する母を守るのだと。
そう告げた父親に、男の子はその守るための力を授けてほしいと懇願した。父親は息子の真摯な態度にふたつ返事で応じ、自身が若かりし頃身に付けし武芸のすべてを叩き込むのだった。
男の子の武術の才は天賦のものを秘めており、日々の稽古に首から下を生傷で覆いながらも、父親が旅立つ年に入る頃には師を凌駕する程に成長を果たし育て親はおろか周囲のともに過ごしてきた者達すらも驚嘆させる。
我が子の確かな成長に染み入るものを感じられる父親とは対照的に、その子を産み落とした母親はかつて旅の占い師から告げられた予言を思い出し、その運命の行末がとても気掛りで夜を眠れぬ日々が続いていくのだった。