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第9話
男の子は一家団欒の場にたどり着いた。そこで、男の子は見た。見てしまった。
美の女神の転生。そう形容された女性は、黒の衣纏いし醜悪な、人のカタチを取る悪鬼羅刹に氷に姿を変えられていた。
女性の、男の子の知る柔らかな慈愛を宿す瞳には、生を宿してはいなかった。ただの人形の硝子細工の目ように、そこには何もなかった。
──壊れてはいけない、その時、何かが決定的に壊れた音がした。今まで受けた傷のどれよりも深く、耐え難い傷が生まれた。心臓を抉り飛ばされることすら、この痛みに比べれば掠り傷にも満たないだろう。
壊れてなくなった場所から、それに代わる強い何かが産声を上げた。男の子は、その産れたての何かに身を委ねた。
男の子はその晩、何をしていたのか。それは男の子自身も夢うつつのように曖昧なカタチでしか覚えていない。
ただ、男の子が気がついた時には、彼の世界は焼却され、更地となった町には押し寄せた黒衣の者達が悉く磔刑に処され骸を太陽に晒す、屍の列が林のように続いていた。
人でありながら悪魔に等しい者達の血で染まる我が身を省みた男の子の中に最初に浮かび上がったモノは、悪を断罪したコトによる愉悦ではなく、自分の世界が燃え尽きる様を目にした喪失の痛みと、約束を果たせなかった自分への身が捩れる程の無力への怒りだった。




