8話
時間が経つにつれ、どんよりとした雲が広がっていく。
だが、子供には関係ないのだろう。
何人かが目の前を通りすぎていく。その表情は明るいものだ。
わたしの村にはわたし以外に子供は居なかった。みんな村を出ていったから、年の離れた子供すら居なかった。
ああやって走り回ったことも遊んだこともない。
「お嬢さん、お嬢さん。よければ、リンゴを一つくれんかい」
腰の深く曲がったお婆さんだ。ついている杖を握った手は骨と川でわたしなんて比べられないくらい細い。
「一つと言わずに、何個でも。わたしの村の名物なんです。本当に蜜たっぷりで甘いんですよ」
「おお、ありがたいねえ。いくらだい? 」
「お代は良いですよ。お婆さんがこのリンゴでお腹が膨れてくれるならリンゴも本望です」
胸を張ってリンゴを布にいくつかくるんで渡す。そこまで重くないはずだけど持てるだろうか。
「大丈夫ですか? 持って行きましょうか? 」
「いやいや、大丈夫だよ。これぐらいなら私にもできるさ。それよりも、お礼といってはなんだが、私は占いが得意でね。よければ占わせてくれんかい」
「占いですか? わあ、わたし初めてです! 良いんですか?」
「ああ、もちろん。この杖を握ってくれるかい」
言われるままに杖を握る。
数秒握ってお婆さんに言われて離す。占いというのはわたしが思っていたよりも大分地味だった。光も変な感じも何もしない。
占えたか聞こうと思った。それよりも早くお婆さんが口を開いたのだ。
「いいか、エラ。よくお聞き」
名乗ってもいないのにお婆さんの口から突然わたしの名前が紡がれた。
「次の満月が来るまでに王女は息絶える。魔女によるものだ。おまえは死刑となるだろう。鏡によって強くなった魔女を倒すには愛だけじゃ足りない」
「……お婆さん? どうしたの? 魔女ってなに? 鏡がどうしたって、」
「魔女は魔女さ。鏡も王女が知ってるよ」
「倒すってどうやって? 」
「白き魔女を頼りな。それが力を貸してくれる」
「……本気? 」
敬語も何もない。おとぎ話を信じるほどわたしは子どもじゃなかった。
「さてねえ。信じるも信じないもおまえ次第さ。私はこれの対価を渡したまで。どうするかはエラが決めることだ」
「え、? 」
お婆さんの声が遠退いていくように、お婆さんは姿を消した。リンゴもお婆さんも誰もいない。わたしだけが辺りを見渡して、取り残された。




