3話
「ちょっと待って! どうして奥に進むのよ! 」
「この森に出口なんてものはない」
「じゃあ、どうするのよ! ここにいたっていつ王女が追いつくか……!! 」
「なら、勝手にしろ。一人でどこへでも行けばいい」
「そんな言い方、っ! 」
二人は言い合ううちに歩みも速くなり、木の根っこもぬかるんだ土も、小粒な石も彼らの障害にはならないようで、わたしばかり足を引っ掛けては躓いていて距離がひらいていく。
「ねえ、ちょっと! 少しでいいからもう少し遅く歩いてよ! 」
二人同時に振り返り、今気付いたというようにわたしをみていた。
罰の悪い顔をしてからやっと言い合いも落ち着いた。
「ついてきてたのか」
「ついてきてたのか、って知り合いも見つけたのにこれ以上一人で森を歩く必要もないと思うの」
「そもそもこの森になんで入ってきた。ここがどういう森かは話しただろう」
「迷いの森、でしょう? 食べれるものも多いって教えてくれたのはお兄さんだよ。ここに来ちゃったぐらい飢えてるの、わたし」
目を見開いたお兄さんはわたしの状況も忘れたのだろうか。
「……悪かった」
「別に謝ることもないのに」
お腹は相も変わらず減っているが、今に始まったことじゃない。リンゴを二人の手にも渡し、一つを取り出してかじる。
「森を出ましょう。こんな小さな女の子も一緒なのよ」
女の子の言葉にお兄さんは舌打ちを返事がわりに返した。ただ、歩くペースを遅くしてくれたので、全く聞いてないわけではない。
「いや、無駄だ。森からは出られない」
「そんなのおかしいわ! 現にあなたは森から出てこれたのでしょう! じゃなきゃ、女王はあなたに命令しない! 」
「いちいち怒鳴るな! さっきからうるさいんだよ! 少しはエラを見習え! 」
どっちも十分うるさい。怒鳴る体力ももったいないという発想はないのだろうか。
突っ込んでも道が分かるわけでもないので、言わないが。
「お姉さんがどう思おうがわたし達には着いていくという選択肢しかないよ。一人でもどっちにしても迷うだろうし、お兄さんに着いていった方が心強いよ。だから、というかお願いだから落ち着こう」
「……王女様はこれでもエラの一つ上だぞ」
お姉さんという年でもなかったらしい。苦労は顔に出るというが、まさにそんな感じかもしれない。
「ねえ、さっきから王女様って呼ぶけど、なんで? 」
「王女様だからだろ。この国の王と前王妃の間で産まれた一人娘といえば王女様だろ」
「王女王女呼ばないで! 私にはスノウという名前があるわ! 」
「悪かったな、王女様」
誰だったか、王女はとても美しく、綺麗な優しい心をお持ちだとか言っていたことがある。
あれは迷信だったのだ。
今目の前にいるスノウは一人の強気な女の子だ。泥だらけで傷だらけ、叫んで怒鳴って……。
そんな善人を寄せ集めたような神々しくはない。普通の女の子なのだ。
「さっき、女王が王女を殺すって……」
「ああ、そうだ。俺に命令を下した女王はこの王女を殺したいらしい。理由は聞いていないな」
その顔には感情は浮かんでいなくてどうでもいいと言わんばかりだ。対する王女様は暗く沈んでいる。
「でも、助けたんだ」
「別に」
「助けたよ。気が変わった? 」
声に笑い声がまざる。お兄さんらしい行動に安心する。
「それで? お兄さんはスノウとわたしを連れて何処に向かってるの? 」
「……この森はドワーフが住み家としている洞窟、妖精が宿る湖、エルフが管理している森に繋がっている。人間が辿り着かないように森全体が守ってるって話だ」
だから、か。木々が動いたのは人を追い返す役割もあるだろうが、道をわからなくさせる意味もあったのだ。
「それで? 」
「……歩いてれば何処かに着くだろ」
ようは目的地はないと。
みるみるうちにスノウの顔は険しくなり、叫んだ。
明日も同じ時間ぐらいを目指してます。




