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 私は寝ると必ずと言っていいほど夢を見る。今回の夢は動物になって彼みたいな猫と見知らぬ世界で走り回っているだけだった。

 私たちは無限にも思えるほどの体力を持っていて、夢の中ではひたすら長く家に囲まれた道を走っていった。同じ家が地平線まで並べられていたが、私たちは奇妙に思いつつも、その先にとても興味が湧き、走っていた。

 走っている間でも彼と一緒で、ずっと横に並んで走っていた。彼は余裕そうだが、なぜか私はそれ以上速度を上げられなかったのできっと彼が合わせてくれているのだろう。夢の中でも彼は優しいのか。

 だがある時から彼が私にしびれを切らしたのか、ひたすら前に走って行ってしまう。完全に私のことを気にせずに走っていくその背中は、だんだんと遠くなり豆粒のようになっていく。

 待って!と叫んでもにゃーという可愛げのある鳴き声しかでない。それでも私はひたすらに鳴いた。彼の注目をもらえるとひたすら願ってとにかく走っていった。

 だがそれでも速度は上がらず、やがて彼は見えなくなってしまった。そこで私は諦めてピタリと止まってしまった。

 そしてそのまま彼が居なくなってしまった大きな喪失感を持ち、いつの間にか来ていた暗い空間で私は涙もながせず眠りについてしまった。



 体を揺さぶられる感触がする。

 今日の朝のようなふわふわの肉球ではなく、人の手だった。私は寝ぼけてそれが誰だかわからなかった。

「起きてください、もうすぐ日も沈みますので、宿を彼がすでに予約しているらしいのでそちらに行ってからまた休んでください。」

「ふぇ……だったら肉球をくれ……むにゃ」

「……だそうです。」

「こやつ……」

 私は人の手に起こされることを極度に嫌って、かけてあった毛布を顔までかけた。

 まるで子供のような私を見て、二人は呆れてため息を吐いた。

 そうなのだ、私はあのふわふわな肉球じゃないと起きないのだよ。いつもそれなのだから仕方ないではないか。さぁ起こしたまえ……と心の中でワクワクしていた。

「お、き、ろ!」

 だが期待とは違い、鉄のような硬いものが私の頭にぶつけられ、カァーン!といい音がした。あまりの衝撃で意識はすぐはっきりとして体は飛び上がったが、慌てて頭を上げるとぐらりとバランスを崩し、めまいのような感覚になったその後もまた座り直そうとしたがめまいがし、また寝転ぼうとした。

 だが次の瞬間、その体重はもふもふな毛で覆われた肉球で支えられた。それに触れた瞬間、これだ!と体が感じて固まってしまった。

「怒りに任せてやりすぎた。すまん」

「……ホヒュ」

 唖然としすぎて変な言葉しか出なかった。少しずつ意識がはっきりしてきて、目の前に耳を垂れ下げて、目をそらし深く反省している彼がいたのがはっきり見えた。彼はそれ以上言うこともなく、なにか言おうとする私を軽々と持ち上げた。その顔のあまりの可愛さに嘆きそうになった。


 だが私はすぐにハッとして、彼を使ってしっかりと地に足を付いた。このままおんぶにだっこだとさすがに変に思われるとやっと気付いたのだ。

 そしてそこにいた兵士さんにお礼をした。彼も一緒にお辞儀をした。

「すみません、ありがとうございます。こんなところでずっと休憩をとらせていただいて」

「いいえ、これも私達の仕事の1つですから、当たり前のことです。奥さんは大丈夫ですか?」

「お、奥さ……んっ!は、はい大丈夫です!疲れもだいぶ取れて、足のこむら返りの痛みも明日には治りそうですし」

「そうなんですね!なら、よかったです」

 彼と私は、奥さんという言葉にちょっとだけドキッとしたが、彼がなんとかその場を誤魔化してくれたおかげで、私は何もせずに平穏を保つことに専念することができた。

 改めて人から「奥さん」と言われるとなんというか恥ずかしく思ったのか、それとも嬉しく思ったのかわからないような、色々気持ちが混ざった心境となっていた。顔が赤くなって照れてしまうので、たぶん照れだろう。

 たぶん彼もそうだろう、毛が逆立って耳の先が赤くなっている。

 彼は私を持ったままそそくさと早足で去っていった。

「随分とお似合いだよな」

「だよね、あんな夫婦いいよね」

 最後にそう聞こえ、恥ずかしさは頂点に達した。


 急いで二人でその場を飛び出し、すぐに町の中に入った。

 その町は目の前に1本の道が広がり、途中に何本か両端に細道があった。後ろは壁で、その壁沿いにも大きな道ができていた。そこは住宅街のような物静かなように見えたが、灯りは相変わらずついていた。

 そこを歩いて買い物していた人は、全て獣人、たまに人間だ。

 思わず目を擦り、夢なのではないかと錯覚した。

「すごい明るいね……」

「あぁ、この明るさも懐かしいな」

 彼は腰に手を当て、その町並みを見渡して懐かしんでした。

「それにしても、なんであんな興奮してたり甘えたりしてたんだろ……」

「さあ?」

 そうとだけ言った。

 その時彼の顔を見ると、開いたその目の向こうが輝いているのが見えた。

 見ていると、心がそちらに釘付けになって、まるでとても大きな宝石を見ているようだった。彼の大きな瞳孔を見るのも始めてなので、それも相まってより綺麗に見えていたのだろう。

 お祭りムードの夜の街頭と建物の灯りの中、彼の目だけが、私を案内してくれる。

 私を信用させてくれる。

 私を虜にする。と感じた。

 絶大な信頼感をその目から感じた。

 愛しているとは直接言えないしわからないがが、この感情はそう、愛しているのだろうし、信頼も感じているのだろう。

 

 

 彼が深呼吸をすると、ヒゲの毛が完全に逆立ち、瞳孔も大きくなって震えており、尻尾の風切り音もかすかだが聞こえた。

 私は自分の勝ってな想像で顔がトマトスープのように赤くなり、顔を手で慌てて覆いかぶさった。

 だが、それは彼も同じのようだ。

 嬉しくなって、つい微笑んでしまった。

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