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 私は、いつの間にか彼に横抱きされていた。

 闇市場に引きずり降ろされそうになった恐怖で足がすくみ、なかなか動かないのだ。

 上を見ると彼の顔があり、顎のラインがくっきりと見えていた。それに首下の垂れた肉も見えた。ちょっとだけ太ったかな、と心のなかで察し、口角が上がってしまった。

「なんだ?」

「いやなにも」

「ん?」

 考えがバレたかと焦って私は正面を向いてしまった。だがそれ以上言わずに首をかしげるだけなので、バレてないのだろうと思い安心して胸を撫で下ろした。

 それから少しすると足の疲れが取れてきて、歩けそうなくらいになったので降ろしてもらった。

「大丈夫か?」

「うん、大丈夫!」

 つま先を使い器用にジャンプやスキップをしてみせた。すると心配していた彼も安心したのか耳が上をむいた。


 それから30分も歩き続け、少し広い空間が見えたとき、私の足はやっと安心したのか一気に力が抜けてく。そのまままた彼に横抱きされてもらうことになった。

「……」

 彼が案の定そうなるじゃないか、とでも言うようにわざとらしくため息を吐き、両肩をすくめた。

 最近は部屋にこもって資料とか作りばかりで、いつの間にか運動不足になってしまっていたのだろうか?

 息も上がり、気がつけば彼に体を任せてだらんと人形のようになっていた。

「さて、休憩場所につきましたよ子猫ちゃん」

「子猫じゃない!」

 彼が私の泣いてる姿を見てからやけに笑顔でいる回数が多くなり、同時にいじりも激しくなってうざくなっていた。

 移動しているときも子猫ちゃん子猫ちゃんとうるさいのだ。

 私はその空間にあった平らな石に寝っ転がされた。

「あ、足攣りそう……」

「やっぱり子猫ちゃんじゃないか。」

「子猫ちゃんじゃない!ぁ゙っ!」

 私は立ち上がろうとすると左足にこむら返りが起き、痛みでしばらく悶えた。そのせいで椅子から地面に落ちてしまい、尻もちをついてしまった。

 やっとこむら返りが落ち着いてきた頃には、彼らは呆れて少し先に進んでいた。

「早くしないと怒られるんだ、俺の腕もさすがに限界だ。」と言っていた気がする。

「ちょ、ちょっと!待ってよ!」

 私はそう言って急いで立ち上がり、痛い方の足を引きずりかけながらなるべく急いで彼のもとに走っていった。

「早くおいで」

「すみませんね、彼に言われたもので」

「ちょっ、ジャス!」

 そうジャスさんは彼をからかい、んふふと嬉しそうに笑っていた。彼とは違っていて純粋な笑い声だ。なんとも仲がいいことである。

 私が合流すると、一緒にゆっくりと歩き始めた。


 他の二人はもう1時間も歩いているというのに、まだとても余裕そうにしていて、ずっとすたすたと歩いている。足をすでに負傷しかけている私にペースを合わせてくれているとは思うが、ついていくだけでも精一杯な私はちょっと悔しいと思った。

 帰ったらたくさん散歩して足鍛えないとなぁ、と心に誓った。


 ずっと歩いていると、前に明るい光が入って来た。あれから10分くらいだろうか。

「おっ、もうそろそろつきますよ。」

「よっしゃー!」

 私は飛び上がって喜んだが、そのあとすぐに不安になり、ジャスさんに聞く。

「ホントに王様の呼び出しなんですよ……ね?」

 未だに疑う心が晴れないのだ。ずっと心のなかでモヤモヤが残っていた。

「ええ、そうですよ。今は人間と揉めてはいますけど、王様「は」とってもイイ人です。相手の意見を聞けるとっても良い機会になりますよきっと。」

「王様は?」

「そう、王様は。」

 なんだか意味ありげにそう彼が付け足すと、それ以外は教えてくれず、またからかうような笑顔をしてクスクスと笑いを抑えている。これでおあいこだろ?とでも言うようだ。

 彼は今日は良い気分なんだろうか?それともさっきのこむら返りでストレスでも溜まっているか……。

 何か高い昼飯でも奢ろうかな帰りに。


ーーーーーーーー


 明かりが視界全体に広がる。外だ。

 その景色は普通の森の中である。私の部屋と同じような、とても明るい太陽の光がふり注き、緑がキラキラと輝いている深い森の中にできたちょっとの丸い空間に、私たちは出た。

 最初は外に出ると目がやられてしまいそうなほど眩しかったが、やがて目が慣れてきて、景色がはっきりと見えるようになっていた。

「おっ、やっぱ一直線に来ると早いな!久々にこの姿で帰ってきました!」

「私も久々だな。」

 二人はそう言うと腕を上に伸ばし、同じような伸びの体制で欠伸をする。

 彼は大口を開けて牙を露出させていた。

「もう獣人の国(ファラン)ついたの?」

「んなわけないじゃないか。あとここから30kmくらい歩くんだ。」

 私はそれを聞くとひょっとこのように口をとんがらせて絶望した。

「そんなあるくの?!んじゃあちょっと休みたいです!」

「はぁ……さっきも休んだじゃないか。だがまた、休んであげようじゃないか。」

 と言って彼は冷笑するように肩をすくめ、ふん、と鼻息を吐いていた。

 私がイラつきながらにらむが、それを逆に面白がるように首をわざと大きくかしげる。

 こころなしか首も伸びているような気がする。彼、というか猫獣人が首を伸ばすときはたいてい興味を持って観察しているときか、本当に楽しんで鼻歌を歌うほど気分が上がっているかだ。

 おそらく、後者だろうな。と私は思っていた。

 まあ「やけに機嫌が良くて狐のようにいたずらする時期」が1ヶ月に2、3回あることなので、まあまあまあ、そういう時期なんでしょう。と心の中で無理やり曖昧にしてイライラを抑えた。

 だが許しはしない。いつか仕返しをするチャンスを伺うことにしよう。

 

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