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超能力JKと探偵専門学生  作者: 紫雪


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39.午前の発見

 身支度も終わって、私たち4人は例の河川敷に来ていた。被害者は全て回収されたらしく、ただ草の生い茂ったところにコーンがたてられているくらいだった。今日は日差しが強く、帽子をかぶってこなかったことを月緋さんと一緒に軽く後悔する。


 松さんと葉賀さんは現地の警察の人たちと話をしていた。先ほど挨拶をしあったけど名前はもう覚えていない。狸坂家からの説明でもあったのか、彼らは私たちに期待を寄せているようだった。対して推理していないことが葉賀さんにばれている私たちは、大きな口をたたくことはできずに、手がかりのない現場を眺めていた。正直、私と月緋さんは暇していた。


 とりあえず遺棄されていた場所の近くで二人しゃがんでみる。私は小声で月緋さんに話しかけた。


「何か分かりましたか?」


「分かるとかあるわけないでしょ、死体に数字なんか残んないんだから」


 月緋さんは小声で答える。そう言えば、この人肝座りすぎてない?人が死んでいるっていうのに。「それはお互い様でしょーよ」と隣で声がする。声に出ていたらしい。私は両手で口をふさぐ。月緋さんは気にせずにひとりごとをつぶやいていた。


「ここまで跡形もないと、実感わかない」


 本当にそう。私は月緋さんの言葉に頷く。本当に遺体の一部があったんだろうかと疑いたくなるほど、事件性のあるものは何一つない。


 何一つ?


 月緋さんも気が付いたらしい。「あ」という声が私と重なる。


 そう、事件性があるのなら、この状態は、私たちにとっておかしいのだ。


「泉璃、赤いの見えない?」


「ないです。月緋さんも見えないですか?黒いのとか」


「うん」


 見えないことが教えてくれるのは、ほんの少しの犯人像。


「強い殺意があったわけじゃない」


「……殺人が、手段である可能性もありますよね」


 月緋さんは立ち上がる。「……やっぱ泉璃、これだいぶまずいよ」と言って葉賀さんのもとへ行ってしまった。話し終えたのか、幸いにも葉賀さんは一人でいた。もう私たちが能力で解決していることを知っている葉賀さんは、月緋さんの言葉に耳を傾けてくれるだろう。私は川の方に目をやる。


 月緋さんと私には、確信したことがあった。


 犯人は、別に目的がある。犯人を捕まえない限り永遠に続くし、胴体と足は決して見つからない。


 そしておそらく、愉快犯である、ということ。


 以前、学校に刃物を持った女が侵入してきたことがあった。それがきっかけで月緋さんと知り合ったのだけど。その女には、ある男に対する明確な殺意があって、それを「願い」として感知した私は、数字が残していった跡を頼りに女を追いかけた。月緋さんも同じ方法で、最終的に高校へ不法侵入をした。


 大きな負の感情は、本人がその場を離れても跡を残す。そのはずだ。けど、ここにはそれがない。目的を果たして移動中に数字が消えた、という可能性もなくはないけど、それなら遺体の一部分を遺棄する理由が分からない。そもそも、バラバラにする理由も。隠さずにこれ見よがしに放置されているのも、何らかの余裕がうかがえる。こんな分かりやすい位置にあったのだから、遺棄してからすぐに見つかったのだろう。


 月緋さんの話を聞いた葉賀さんがこっちへやってきた。話は通じているらしい。「その線はこちらでも予想されています」と言われ、そうだよな、と思う。


「ただ、跡が見えるというのは大きな手がかりになりそうですね」


 葉賀さんは「具体的にはどれくらいの時間残るのですか?」と尋ねてくる。私は測ったことがないので月緋さんの方を向くと、月緋さんは「ずっとじゃない?」と首をかしげた。


「本人の願いが消えるまでずっと」


 見たことあるのか訊いてみると、月緋さんは頷いた。


「あんまし強い感情を見かけることはないんだけど、最大で2週間くらい同じ所にあって。黒い水たまりみたいなの」


 凶悪犯に出会いすぎでは、と葉賀さんが心配する。さすがに私も引いた。私が犯人に遭遇しやすいように、月緋さんも何らかの不幸体質に違いない。


 願いが消えるまでずっと見える、という条件が私にも当てはまるとする。そうした上で、今の状況はやっぱりおかしいんだ。


「殺人が目的ではない場合、別の目的が何か考える必要がありますが」


「警察はなんて予想してるんすか」


 葉賀さんは、話すわけないでしょう、とこそこそ話した。


「あなたたちはどう考えているか、意見を持っておいた方がいいですよ」


 一応探偵なんだから。話す機会もあるかもしれない。月緋さんが「泉璃なんかある?」と訊いてくるので一般人ながらひねり出した。


「女の人の、体、に執着してる気がします」


 自分で言っててとてもきもい。「たしかに」と共感しつつ月緋さんもうげっと顔をゆがめる。でも、対象とか、足とか胴体とか、こだわる部分と残す部分と、そこにヒントがある気がする。


「私の中では、犯人は男性で一人です」


「それ俺も」


 葉賀さんが「それはどうして」と人並みの想像に耳を傾けてくれる。


「私服の女子高生に声かけた話を聞いて、多分そうかなと。犯人が複数人なら、声かける必要ないと思ってて」


 女の人に声をかけられたなら、こんな形で話題に上がらないはず。そして、複数人なら、否応なく連れまわせばいいのだから。ひどい言い方だけど、数で勝負されれば誰だって不利だ。


「けど、一人で全部やってるのなら相当完璧主義で肝が据わってるとも思います」


「自分は強いぞって優越感でも感じてんじゃないの?そいつ」


 月緋さんはずっと眉をひそめている。気分のいい話をしていないのは当たり前だ。葉賀さんは、「だからこそ捜査が難航してるんでしょうね」と頷いた。


 これ以上何を見ても、能力では何もできない。そう判断したのか、私たちはその場を離れることにした。


 このままホテルで待機かと思ったが、葉賀さんは現地の人たちとどこかへ行ってしまい、入れ替わるように松さんが私たちにつく。


「とりあえず、初めに行方不明になった人が最後に確認された場所に行こうと思う」


 松さんの提案は私たちにはありがたかった。いろいろな場所を見ることで何か跡を見つけることができるかもしれない。葉賀さんたちに挨拶をして、電車で移動することに。駅に向かって歩いている途中で、月緋さんが「後で観光してもいい?」とノンデリなことを言ってのけるが、松さんは特に怒らなかった。月緋さんも、おそらくは出かけることで、偶然でも犯人を視界に入れることを目的とした上での発言だろう。松さんは、葉賀さんから許可されているけど、今日は難しいみたいなことを教えてくれる。葉賀さんの許可は、多分能力への理解からくるものだろう。ここまで能力関連で気を遣われたことがないので少しびっくりした。


 歩行と電車移動で、目的地に到着する。一人目が行方不明になった場所は、駅から出た後、家に帰るために防犯カメラのない路地裏に入ったところだった。大通りにあるコンビニが姿をとらえたのが最後の記録となる。


 正直に言って、私には事件の深刻さを表すものは何も見えなかった。視界に入ったのは、様子を窺おうと隣に立つ月緋さんを見上げた時の、彼の見開いた目だった。


「黒い」


 震える声でそうつぶやく。能力を知らない松さんは私たちのことなど気にせずに、先へ進んで友人と別れた場所を説明している。


「月緋さん?」


 しゃがみ込む月緋さんの肩を支える。肩で息をしているのが伝わってくる。隣でしゃがんで、背中をさすることにする。私には何も見えない。見えないのが申し訳ない。松さんの数字だけが、自分の未来に約束された幸福を嬉々として伝えている。


「月緋くん?大丈夫?」


 振り返った松さんが近寄ってくる。能力を知らない分、前兆のなかった状況に慌てている。でも、月緋さんは目一杯の笑顔を張り付けて松さんを見上げた。


「今日ちょっと暑いっすね」


 今のは暑さによる体調不良だ、と松さんに示す。そのおかげで、私の行動も納得できるものとなった。この人はたまにキャラじゃない気遣いをする。松さんと初めて会わせたときもそうだった。松さんはうまくごまかされて、「今日は早く寝なよー」と休憩するように言ってくれる。大通りのコンビニまで戻り、私たちに飲み物を買ってくれる。


「喉が渇く前に飲むんだよ?あと帽子被ってきてよね」


「まじですんません」


 ちょうどよくイートインスペースが空いていたので、椅子に座ることができた。松さんは自分のペットボトルを持って、葉賀さんに連絡すると言って外に出てしまった。


「月緋さん、大丈夫ですか?」


 本当に暑さもあったのか、汗をかいている。月緋さんは小さくうなずいた。


「さっきのことだけど」


「言わなくていいです」


 思い出さなくていい。見ただけで、あの月緋さんがここまで傷つくんだ。あの女の人なんて比じゃないだろう。それでも、月緋さんは首を横に振る。「言わなきゃ」と目を合わせてきた。


「松さんがいないうちに」


「いやでも」


「平気だから」


 月緋さんは正義感が強かった。ここで私は、月緋さんが、さっきの光景への恐怖よりも、自分が何もできなかったことに傷つけられていたことに気づいた。


「消えたんだよ、今さっき」


 私は口を開けなかった。顔がお面になったように動かなかったのだ。あの重たい空気が一変する異質感と言ったら、想像するだけでも全身の水分が吹き出そうだ。そして、河川敷で話した内容と照らし合わせたとき、犯人はさっき、その瞬間に、願いをかなえたことになる。


 月緋さんは、瞬きせずにじっとこちらの様子を見ている。


 この訴えかけるような瞳を、前にも見たことがある。泉璃ならわかるだろ、という気持ちが乗せられている。私はゆっくり頷いた。それを合図に、月緋さんはさっき見えたことを話してくれた。


「とにかく、黒かった。煙?が地面這ってて。そんで、真っ黒な泥人形が」


「泥人形?」


 まさかの表現に口は動くことを許された。それが良かったのか、月緋さんも少しずつ、少しだけだけど、調子を取り戻していく。「うん」と真顔で話し続けた。


「泉璃と同じ背の泥人形が、どろどろって下から順に作られてって。目の前で泥が盛られてく感じ」


「それは幽霊では」


「俺もちょっと考えた。脚と胴体までしか作られなかったし。俺の思考が影響してんなって」


 ここまでぐろい話ができるのは、月緋さんには耐性があるからで。さっきまでダメージを負っていたのは、その耐性を上回る、犯人の感情に圧倒されたからで。あの瞬間で、ここまで論理的に考えられたのはすごいと思う。


「でも、消えた。煙と一緒に。パアンって」


 身振り手振りで一面消えた様子を表現する。それを誰にも共有できないって、すごく苦しいことなんじゃ。私は精一杯理解に努めた。


 「……話してくれてありがとうございます」


「こちらこそ」


 やっぱり、私もここに来てよかった。そんな感じのことを言ってみると、月緋さんは頷かなかったけど。「できかけたトラウマを昇華できそうでよかった」と言ってくれた。外の松さんはまだ話している様子だったので、ついでに犯人の別の目的について考えてみる。


「俺らって薊の時も目的について考えてたけど、これは推理にはならんの?」


「言われてみればそうですけど。それが解決のきっかけって感じはしないですね」


 結局現行犯逮捕、みたいな展開なら、事件解決につながらない推理は推理と言えるのか。


「今回は推理にしましょう」


 私がそう言うと、「それはそうだ」と月緋さんは水分補給をする。見た目は完全にいつも通りだ。


「月緋さんの話を聞くと、やっぱり殺人は目的じゃないっぽいですね」


「泥人形が関係あるかも。あそこまで具体的に見えたことはなかったし」


 「えっぐい執着」と呟く。金髪の頭の上に手をのせて考えている。人形は特にホラーな動きをしたわけではないらしい。ただそこに作られたようだ。


「そう言えば、どうして人の形をしてるって思ったんですか?」


 脚と胴体だけなら、普通は人だと思わない。月緋さんは、「なんでだっけなー」と天を仰いだ。そしてすぐに飛び上がるようにこちらを向いた。


「似てると思ったんだよ、ニケに」


「サモトラケの?」


 私が訊くと、「それそれ」と頷いた。翼こそないけど、なぜか連想させたらしい。私が不思議に考えていると、「俺も質問」と右手を挙げた。指名してあげる。


「泉璃が何も見えなかったのはなんで?」


 バグ?と訊いてくるので否定する。実際、松さんの幸せな数字は色と共に見えていた。負の感情でない限り、この場所には残らない。考えられるのは一つ。


「恐らく、犯人は叶うとうれしい願いを持っていて、それは月緋さんの倫理観では、えげつないほどあり得ないものだったんだと思います」


「それなら、絶対その願いのせいでえげつなく嫌な思いする人もいるはず」


 そいつらの負の感情は見えないのか、と言いたかったんだろう。言わなかったのは、気が付いちゃったからだ。私は答えてから、それに気づいた。


「……その人たちは、もう生きてないです」


 被害者家族とか、願いに関わらない第三者の感情まで考慮されてないだろう。能力にも、犯人の思考にも。そして、死人に口なしである。


「ごめん無神経だった」


 顔をゆがめる月緋さんに非はない。ちゃんと口に出してから、私は話を戻した。


「それにしても、泥人形は大きな発見ですね。関連するものも調べてみますか」


「なに?なんの話?」


 いつの間にか電話を終えた松さんが帰ってきていた。出入り口が常に視界に入っていた月緋さんの様子を見るに、本当に今来た、というところだろう。説明しにくい話題なので、月緋さんが話題を逸らしてくれた。


「電話長かったけどどしたんすか」


「そうそう、体調面も考慮してホテルに帰りましょうってことになったんだよ。土田さんが車で迎えに来てくれるからもう少し待ってて。月緋くんは体調大丈夫?」


「もう全然平気っす」


 本当に復活したようだ。「無理しないでね」と心配してくれる松さんに、今回ずっとお世話になっている私たち。なぜだか、松さんの中で私たちは一定の評価がされているらしい。


 しばらく事件に触れないで熱中症があーだこーだ話していたけど、土田さんが来てからはすっかりパーティーの話に切り替わっていた。


 助手席に松さん、後部座席に私と月緋さんが乗り込む。


「お昼ご飯の後、もしよろしければ衣装を先に決めていただきたいのです」


「分かりました」


 時間もあるので、早いうちに狐里家の人たちとも挨拶をしようということに。信号につかまり、車が止まる。私は何気なく右を向いて外の景色を眺めていると、甘ったるいほどのピンク色が、遠くの建物の前に現れた。商店街の一角にある二階建ての建物の出入り口付近に、煙のようにほのかに残っていた。ついさっき数字の持ち主がいたんだろう。少しずつ消えていく。


 信号の色が変わり、車が発進した。私は意図せず左を向くと、月緋さんは私の方にある窓の外を見ていた。声をかけられなかったのは、月緋さんの顔。


 これほどまで殺意や恨み、やるせなさを表情で感じたのは初めてだった。犯人はあの近くにいる。分かっているのに、周囲の人を納得できる証拠は何一つない。


 私は、月緋さんの表情を見なかったことにする以外、今は何もできなかった。

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