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超能力JKと探偵専門学生  作者: 紫雪


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33.共有

 顔合わせを終え、私達は来た道を戻っていた。先ほどドアの前で狸坂家の人達とは別れ、土田さんが部屋へ案内してくれている。


「俺あの人苦手だ、ふきさん」


 むすっとしながら月緋さんが大股で歩いている。土田さんが「本音で話しておきたかったのでしょう。ふき様は大変満足されていますよ」と月緋さんに笑いかける。


「でもああ言ったってことはそうは思ってるってことでしょ?」


 先行する太陽さんが振り向いて言った。たしかに、私は囮、月緋さんは囮の万が一を防ぐ護衛、のような考え方をしているんだと腹は立った。けど。


「見方を変えれば、危険があることを伝えてくれたことになりますよね」


「そんなん知ってっから」


 危険を知ってる上で私を連れてきた、ということだろう。松さんは「まあまあ」となだめ、葉賀さんは「本人の前では態度に気をつけてください」と忠告してくる。


 歩いている途中で自販機を見つけ、私はみんなには先に言っているように伝えた。土田さんは案内が終わったらお別れということなので先にお礼を言っておく。


「迷子にならないでねー」


 太陽さんをはじめ、警察二人も軽く手を振り、部屋の方へ戻ってしまった。振り返す側には私と月緋さんがいる。


「なんでいるんですか?」


()()()()()()、らしいからね」


 根に持ってる。そう言いつつも月緋さんはスマホで炭酸飲料を買った。ちゃんと自販機に用はあるらしい。ただ、顔はむすっとしたままだ。


「あと、狸坂深由で確認したいことがあって」


「せめてさんでも付けてくださいよ」


 無言で目を合わせたまま動かない。何を思いついたのか、人差し指を口に当ててにやっと笑った。月緋さんの頭上にいるのだろう苦手な人を指さした。


「……くそばばあ」


「だまって」


 誰か聞いてたらどうすんだ。「誰のこととか言ってないしー」とふざけて言うが無視して話を戻そうと月緋さんを促す。


 顔合わせ前みたいに私の部屋で話をすると都合が悪いんだろう。もちろん、私にとっても。葉賀さん辺りが何も無くても厳しく言ってきそうだ。逆も然り。私は周囲に人がいないのを確認して、黄色い炭酸飲料を飲む月緋さんを見る。


「私は青く見えましたよ。2日後、私たちが帰る前日に誰かが、もしかしたら深由さん自身がつらい思いをすることになります」


 深由さんの願いだから深由さん自身、というのはありえないけど。色を聞き、不思議そうに眉を上げる月緋さんはペットボトルのキャップを閉めて答えた。もうむすっとはしていない。


「時間は同じ。……グレー」


「グレー??」


 そんな判断しがたいみたいなことあるか。疑いの目を向けると、月緋さんは「本当なんだって」と説明する。


「たまにしか見ないけど、俺的に複雑な状況だってあるし、それなら白黒つけがたいこともあるじゃん」


「それでも、色が混ざる、みたいなことありますか?」


 私も青だけが見えたわけじゃない。うっすら確認できた紫を、どう言うべきか。「まああの人の願いは良くないってことだよなー」という声を後ろで聴きながら私は冷たい緑茶を買う。知らない地域のものは自販機すら新鮮だ。ガコンッと出てきたお茶は何となく美味しそうに見える。よく降ってからお飲みください、とキャップに書いてあるもんだからペットボトルを逆さまにして軽く振る。底から見て、中の流れをじっくり眺める。


 まさか。


「……ピンク?」


「え」


 つぶやく私に驚く月緋さん。緑茶を見ればありえないセリフだ。私が言ったのはそれじゃない。


「深由さんの数字、実は少し紫色のモヤも見えたんです。月緋さんの話に則れば、赤とかピンクが混ざっているともいえます」


 ピンクは大まかに言って喜びを表す。そして、喜びを感じるのは、それを願う本人、深由さんだ。


「深由さんは誰かを悲しませたくて、それが叶えば深由さんは喜ぶ」


 だんだん狸坂家の闇が深くなってきた。1番まともそうだったのに。しかも、叶う日付がおかしい。深由さんの誕生日会の翌日であり、私たちが帰る前日である。


 その日に一体何があるんだろうか。月緋さんはエレベーターの方を見ると、「話変わっちゃうんだけど」と声を潜める。


「太陽のこと、どう思った?」


「どう思ったって」


 初対面の月緋さんよりチャラチャラしている、とかそういうことだろうか。月緋さんは薊くんの件あたりでまともさがだんだん見えてきたけど、今日の落ち着きようは少し違和感がある。


「人の幼なじみに対しては失礼ですけど、徳積んでさなそう、って感じですかね」


 もちろん、時間の話だ。


「……そ」


 やっぱり。なんか変。


「月緋さん、なんか困ってます?」


 まあ新幹線でのこともあれば仕方がないのだけど、京都に着いてからは特にテンションが低い気がする。「べつにー」と聞こえるけど、全然あります、と言われた方が嘘を信じられる。


「戻ろっか」


 月緋さんが言う。ここで並の推理力など披露できるはずもないので部屋に戻ることにした。


「そういえばありがとうございました」


 エレベーターに乗り、ドアが閉まる。


「何が?」


「ふきさんに対して怒ってくれて」


 あれは被っている猫を剥がすためとはいえ、演技力が高いのかなかなか不快だった。移動中も似た話をしたのもあると思う。


「別に。泉璃こそ、自分の時は何も言わないくせに、俺の事だと怒ったよな」


 そうだったっけ。「バディって感じ。ありがと」と月緋さんは開いたドアから出ていった。私も後から降りて隣に並んで歩く。


「月緋さんが怒ったときはびびりましたよ。ずっと敬語使ってたのに」


 私がふきさんの茶番劇の時の月緋さんを振り返る。月緋さんは「人質に取られてる気がして」と遠い目をして笑う。


「何がですか?」


「旅代が」


 それはつまり、茶番の前の重丸さんの言葉を聞いて安心し、あんな態度になったわけだ。


「現金なやつですね」


「言質取った!って思ったあの時」


 嫌味を言ったはずなのにあまり効いていない。ちゃっかり、といった感じが通常運転で安心する。それはそれとして、だ。


「まさかですけど、あそこまで強く出たのは宿泊費が保証されたからですか?」


 私が睨んでかかると、月緋さんは「あー」とわざとらしくドアを指さし、声を上げる。


「俺の部屋だーじゃーまたーご飯の時にぃー」


 スムーズにロックを開けてするっと入っていく月緋さんを、私はただ口を開けて見ていた。


 やっぱ何も困ってないのかも。


 気のせい気のせい、と私も部屋に戻ることにした。

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