42 ケータ
俺がクリーガーの戦いに参加することを止めなかったのは、記憶を取り戻すことによって何かが変わることがわかっていたからだろう。
最初は何を失っていて、何のために戦っていたのかわからなかったけど。記憶を失っていることに気付いて、それを取り戻したいと思った。お兄ちゃんのようになるためには、取り戻さないといけないと思った。
そう思わせたのは。
「イチロー!」
ケータの声に思わず振り向いた。
何故ここにいるんだ。優ちゃんが元気になったんだから、傍にいないといけないだろ。医者は家族に話があるんじゃなかったのか。それを抜けてまで追いかけてくるなんて。
何故。どうして。もう俺と一緒にいる理由なんてないのに。
「……ケータ」
「自己完結するな。言っただろ、俺はお前が記憶を取り戻しても友達だと思ってるって」
「……どうして」
「お前は事故のことを忘れたのが罪のように思っているみたいだけど、違うからな。俺はお前が忘れていてホッとしたんだ。助けようとして助けられなかったなんて後悔しかないからな。自分を責めてほしくなかった」
「……最初から俺のことを知っていたのか」
「いや、気付いたのは声をかけた後だ。見たことあるな、とは思ったけど、気付いたのは彼女が俺を凝視していたからだ。彼女はすぐに気付いたみたいだけど」
汐里は最初からケータが事故に遭った少女の兄だということに気付いていたのか。だから、率先して会話しようとしたのか。俺が思い出すかもしれないから。忘れてやっと前に進めたところだったから。
その汐里の行動が、ケータに俺のことを思い出させた。ケータは思い出しても、俺に協力関係を申し出た。それにすぐに応じた俺はどんな風に見えたんだろう。偽善者か、それともただのお人好しか。危機感の無い奴だと思われたかもしれない。
俺が助けられなかった優ちゃんを、俺が協力して元気な優ちゃんを取り戻せたのは。
「ありがとう。お前がいたから優が元気になったんだ」
「ケータ自身が努力したからだ」
「お前の協力があったからだろ。順との戦いでケルンを任せたのも、友希の戦いで説得できたのも、陽介との幼馴染み関係があったからケルンを貰えたのも。自己評価が低いみたいだけど、事実は受け止めろ。優を助けられなかったことも事実だ。でも、お前が悪いんじゃない。助けようとしてくれたお前に負の感情を持ったことなんてない」
ケータが一歩ずつ近づいてくる。足は動かなかった。ヨースケは隣で見ている。前みたいに拘束されているわけじゃないのに、動けなかった。
あの時我慢した涙が溢れてくる。ケータの前で泣くのは2度目だ。お兄ちゃんがいなくなった時に泣いてから記憶を取り戻すまで泣いたことはなかったのに。短期間でまた泣くことになるとは。
ケータが手を差し出した。
「一郎、お前はお兄ちゃんになれているよ」
協力関係が始まった時と同じように、手を強く握り締めた。




