暇つぶしの材料にするのやめてください5
アンニン・ヨウカンはハッとした。彼女の手の器械が振動し、彼女の目はそれに釘付けになった。器械の画面では小さな点が点滅していた。それはちょうど、発信機がその位置を知らせているような感じだった。
アンニンの脳内に「白子市」という単語が浮かんだ。その地に彼女は行ったことがない。点滅する光が示していたのは、白子市の、空き地と雑木林ばかりで周りにほとんど建物がないような場所だった。
アンニンの変化をいち早く察知したのは、彼女の真後ろを歩いていたブレッドだった。アンニンは感情をほとんど全く表に出さないが、ブレッドは他人の感情を読み取るのに優れたタイプの人間だった。しかし、そんなブレッドでもアンニンの感情を読み取るなど不可能で、彼はアンニンの様子がちょっと変ったくらいにしか思わなかった。
「どうしたヨウカン。黙ってんのはいつもの事だけど」
ブレッドがそう問いかけたのと同時に、アンニンは足を止めた。ブレッドはギリギリそれに対応したが、ブレッドの後ろを歩いていたスフレは、そのちょこんとした鼻を見事に彼の背中にぶつけた。
「うわ、なになに?急に立ち止まってビックリシンフォニーしちゃったよ」
スフレが鼻を押さえて言う。メガネはずれたが、幸いに鼻血は出ていない。
しかしアンニンは、スフレの言葉も無視して、今度は突然走りだした。もちろん驚く興味津々組。彼らの内ほとんどのメンバーがアンニンの走る姿を見たのは初めてだった。
「あっ、ヨウカン!?」
「アンニンちゃん!?」
アンニンのすぐ後ろを歩いていたブレッドとスフレはただただ呆気にとられる。
後ろを歩いていたはずの博士がいつの間にか前に来ていて、大きく腕を振った。
「追えっ、追え━━!」
博士の掛け声に、皆反射的に足を動かす。先ほどはアンニンの研究内容を隠したりと、何やらアンニンを庇うような言動を見せた博士だったが、今はノリノリで積極的に指揮をとっている。博士は自分が楽しい状況が好きだったし、それを楽しむのが大好きだった。
アンニンを追ってドタバタと走る彼らに、かったるそうに着いていく二つの姿があった。
「追え、追えー……って、博士……」
キプツェルの気だるげな呟きを、シフォンだけが聞いていた。なぜならシフォンもそう思ったからである。
やる気のないキプツェルとシフォンのだらだらとした走りは前の集団とどんどん離れてゆくが、二人はあまり気にしていなかった。彼らはただただ早く帰りたいと考えていた。




