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33 ちゃんと、ちゃんと

『♯5 最終回のお報せをしよう』



「……キョーヘー、どうだったー、期末?」


 爽やか色のシャツの裾をパタパタやりながら気だるげにユリカが聞いたのは、祝日となった月曜日の午後五時位、古臭さと煙草の匂いが染みついたクソ暑いプレハブ小屋。来週の最終回でメールを使った企画をやりたがった恭平が、スタッフ陣と行っていた打ち合わせの最中だった。


「う~ん、生でメールを受け付ける、か。まあ、プリンターは家のを使うとして……やっぱり下読みさせろって言われるかな……うん、まあ、一回金曜にウチらで試してみようか」


 安っぽい長机の斜め横で周囲を見回した村田ディレクターに、恭平は「お願いします」と頷いて。


「確か、中間と同じくらい。数学だけちょっと良く無かった」


 言いながら相方がだらけているソファを見ると、この管理小屋に住みついた真ん丸な白猫をおざなりに撫でていた彼女が、『ふ~ん』と気の無い返事した。


「でさ、尾張さんはどう思う? 『雑ヶ谷を紹介します』のコーナー」


「う~ん? どうだろな、来週一回だけじゃなー。実際どんなリスナーが聞いてるのかわかんないし……。普通に住民からお勧めスポットが来てもな~」


「いや、そこは『かんざしさん』が例としてボケた奴作ってくれれば――」


 じろり、と職人の瞳が動く。右目に『面』、左目に『倒』の文字を宿して。

 そして、溜息。猫はごろんと丸くなった。


「店の紹介なんかでボケたら、お店の人が怒るんじゃないか?」


「まあ、そうなんだけど。取りあえず今回は『万遍マンデー』の紹介を作ってもらうってことで。ほら、ちょうどウチラだけ写真もないしさ。想像しやすいじゃん?」


 そう言えばここ数週間例の番組で名前を聞かなくなった名うての職人は、むすっと唇を尖らせて。


「……そもそも私には無理してコーナーをやる必要がわからない。いつもと同じに、ウチらで雑ヶ谷のニュースをいじるんじゃ駄目なのか?」


 じっとこちらを見つめた相方に、恭平は頷いて。


「まあ、尾張さんが残りをこのままやりたいってんなら、別にそれでいいけどさ。でも、俺はやっぱりラジオがやりたいんだよね。ほら、番組にメール送るとドキドキするじゃんか。あの感じを、ちゃんとやってみたいんだ。ラジオの向こうで喋ってる人とか、他にも今この瞬間どっかでこれを聞いてる人がいるんだなって思えるような」


 言葉の間中、蝉がジージーとうるさく鳴いて、猫はにゃーんと女子高生の太腿から逃げ出した。 


「そういう、俺達が楽しくて、リスナーも楽しくて、そんでやっぱり藤井さん――プロデューサーにもきちんと納得してもらえる番組にしたいんだよね。アホなトークしか出来ないんなら、それなりに。下らない事ばっかりのパーソナリティと、それを聞いてくれてるリスナーと、バカはバカなりにこんくらいは出来るんだぞって言うのをさ、最後にちゃんと見せつけて終わりにしたい」


 そんな馬鹿みたいで夢みたいな事を持ち前のおふざけフェイスで口にしているというのに、小屋の中の阿呆な仲間達は誰も笑ってはくれなくて。


「だから、来週の最終回にはメールが欲しい。例えたった一人だったとしても、これだけの人が雑ヶ谷を知って、ただ聞いてるだけじゃ無く、そこに参加してくれましたっていう結果を出したいんだ。ていうか、出さなきゃ。そもそもそういう趣旨でお金貰ってやってるんだし、俺達は」


 本番中だったら『長いっ!』と言われそうな位に言葉を連ねた恭平の正面、改めてぱちくりと瞬きをした相方はやがてむすっと脹れっ面に成り。


「……~~~」


 何やら口の中でぶつぶつと言いながら、脇の鞄をごそごそと。


「あれ? えっと? え? もしかして尾張さん、お帰りで?」


 すわ御機嫌を損ねたかと焦って尋ねた恭平に。


「うるさい。今からネタを書くから集中するの。だからお前はさっさとお題を考えろ。キョーヘーはいっつも話が長いんだ、バーカ」


 と言い捨てて。それからウガーッと両手を振り上げると。


「おらーっ! 今からそこもたばこ禁止っ! お前らもメールを書け! ディレクターもだ! 逃げるなアスカ、こらっ!」


 入り口の扉に半身になってニヤケていた不真面目二人を追いかけて、まだまだ明るい夏の夕方へと駆け出した。


 折しも二十年ぶりの快進撃を続けていた雑ヶ谷高校野球部の夏が、ベスト16で散った日の事である。




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