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27 本日、曇天。ラジオ日和

 次の週、月曜の放課後。地学教師の話が終わると同時に席を立った長江恭平は、地学教室のある理科棟から本棟の教室へとぷらぷらと歩いていた。


 頭の中には、あれやこれや。こんな風にしたらリスナーも楽しいかも、とか、こう言うトークが尾張さんの得意分野じゃないかな、とか。


 そんな事を考えながら、後続に七馬身差を付けて突入した誰もいない教室。机の中に入れっぱなしだった教科書群から選抜したいくつかを『テストだしな』と自分に言い聞かせて鞄に詰める。テンションを振り切ったラジオの後はどうせあまり眠れないのだから、明日のテスト勉強でもしようかと。


『なんか野球部強えらしいな』『つーか、これ優勝したら甲子園なん?』などと廊下から聞こえてきたクラスメイトの声をきっかけにして自席を立つ。ようやく顔と名前が一致しきった彼らとすれ違う事無く、後ろ側の扉から放課後に華やぐ廊下へ抜け出した。


 向かう先は、いつものスタジオ。今はもう閉鎖した、伝説と伝統のある小劇場の客席後方。


 先週の水曜、一人の少年がチアガール衣装という十字架を背負って上った嘆きの丘。


 あの惨劇を思い出してちょちょぎれそうな涙を拭いながら昇降口へ向かう途中、談笑しながら階段を下りてきた女子――向かって左からべっぴんさん、超べっぴんさん、尾張さんと並んだ三人組とすれ違う。すれ違いざま、最も恭平に近い側を歩いていた細やかキューティクルのおかっぱ娘と目が合った。


『先に行ってる』

『……すぐに行く』


 言外の意味も含めて視線で会話を遂げた相方に背を向けまた歩く。薄暗い下駄箱を抜けて外に出る。脱出、と言うと大げさだけど。放課後になるとホッとするのもまた事実。


 と。


「……江くん」


 小さく呼ばれた気がして振り返る。

 すると、昇降口のガラス戸の影に何故か探偵の様に身をひそめた御園さんがいて。


「あのね。私、今日、ラジオ聞くね、生放送」


「……あ、うん。ありがとう」


 驚いた。


「うん。頑張って」


 それだけを告げて、鋭い視線を辺りに飛ばした御園さんがスパイの様にささっと校舎の中へと消えていくのを見送りながら、恭平はしばし瞬きを忘れ、苦笑する。他の二人――というか尾張さんに何て言って追いかけて来たんだよとか。


 そんな事を思いながら、自転車に跨り、地面を蹴る。


 辺りは夕方、夏の匂いと蝉の声、空はどよんと重たく曇り、蒸し暑くて息苦しく、何もかもがかったるい、絶好のラジオ日和だった。




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