第1章
すると不意に、ころころと、どこからかボールが転がってきた。
それが、私の足元で止まる。
私はそれを拾い上げ、ボールを追っておぼつかない足取りで走ってきた男の子に渡した。
お姉ちゃん、ありがとう。
その子は、たどたどしい口調でそう言って、にっこりと微笑んだ。
それから、私と三上さんとの顔をじっくりと、交互に見つめた。
どうしたのだろうと思いながら、私も三上さんも、黙ってその様子を見ていた。
「ねえ。お姉ちゃんたちって、カップルなの?」
「え?まさか――」
「おー、そうか、カップルに見えるんか。嬉しいなぁ」
「え、じゃあ、ちがうの?」
「さぁ、どうやろな。このお姉ちゃんは、俺のこと、好きなんやて」
「えー、ほんとに?ほんとなの?」
「そうや、ほんまやで。あ、おまえ、名前は?」
「ヒロト!ぼく、カキモト ヒロト。お兄ちゃんは?」
「俺はなー、三上融ゆうねん。変な字書くねんで、融って」
「トール?どんな字?」
「言うても、分からんと思うけど。ヒロトが大人になったら、また訊きに来い」
「えー、また会えるかな?トールと」
「会えるに決まってるやろ。俺は、いつでも、ここにおるから」
「ほんとに?じゃあ、待っててね!」
「おう、待っとく待っとく。ほら、早よみんなのとこ戻らな。ボール、おまえが持ってるやろ」
「あっ、そうだった!じゃあね、トールと…」
「柚紀、や。この姉ちゃんの名前」
「…またね!トール、ユズキ!」
ヒロト君はそう言って、私たちに大きく手を振った。
三上さんも私も、それに手を振り返す。
手を振りながら、私は三上さんの横顔をそっと盗み見る。
満面の笑み。
…ほら、こういうところとか。
時折見せる、彼の「無邪気」。




