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第2章
どのくらいの間、沈黙が続いていたのだろうか。
不意に、融が「あのさぁ」と言って、話を切り出した。
私はできる限り素っ気なく、なに、と返す。
「ユズは、覚えてるか?」
「覚えてるって、何を?」
「昔、俺がユズに、ここで言ったこと」
昔、というのは、おそらく三年前のことだ。
その時に融が、私にここで、何か言った?
彼とはたくさん話をしたから、一体そのうちのどれのことを言っているのか、私には分からなかった。
それに、いくら好きだったからとはいえ、交わした会話すべてを記憶しているわけではない。
それでも、たった一つだけ、鮮明に憶えている彼の言葉があった。
それは、彼が小さな男の子にかけた言葉。
それは、彼が私に手を重ねて、言ってくれた言葉。
それは、彼の破った、少年との約束。
――俺は、いつでも、ここにおるから。
その言葉は、この三年間、一時も忘れたことがなかった。
言うなれば、それは私の心の支えみたいなものだったから。
私は彼の問いに、小さく頷いた。
根拠なんて、何一つない。
けれど、彼はきっと、このことを言っているのだ、と私は確信していた。
どうしてかは分からない。
ただ、そんな気がしたのだ。
融はそんな私を一瞬だけ見て、またすぐに視線を外した。
そして私と目を合わせないまま、彼は切り出した。
「俺、もっかい嘘つきにならなあかんかもしれへん」




