第2章
今年のお正月に、融から届いた手紙。
私はそれを、一日に何度も読み返していた。
彼が日本を発つ少し前から、私たちは付き合い始めた。
私の呼び名は「柚紀ちゃん」から「ユズ」へと変わり、彼の呼び名は「三上さん」から「融」になった。
「今年の夏に一度、日本に帰る」。
その言葉通り、彼は今日、ここへ戻ってくる。
私は今、それをじっと待っているのだ。
時刻は、午前10時になったところだった。
もうすぐ、彼の乗った飛行機が、ここ、成田の地に降り立つはずだ。
10時02分。
予定時刻ぴったりに、飛行機は無事、着陸した。
飛行機を降りた人たちの波に、私は危うくのまれそうになる。
そんな私の耳に、ふと、懐かしい声が届いた。
「ユズ!」
「あっ、おかえりなさい!」
「おう、ただいま。帰ってきたで」
「うん。ね、お土産は?」
「あるある。そない心配せんでも、ようけ持ってきてあるから。なぁ、彩」
そう言って、融は隣に立っていた香月先輩のほうを見た。
彼女は相変わらず右の頬だけにエクボを作って、相槌を打った。
融が日本を発った、その当日。
私は、融と一緒に香月先輩もアメリカへ留学に行くのだということを、初めて聞かされた。
正直、私はそれが少し悔しかった。
これからは私ではなく、香月先輩が、彼の傍で過ごすのだと思うと。
「あのね、柚紀。融ってば、ずっと柚紀のこと話してたんだよ」
「え、私のことですか?」
「うん。ユズ元気かなとか、ユズは今何してるかなとか、そんなことばっか」
「融、それ本当なの?」
「まあ、な。つーか彩、いらんこと言わんでエエねん」
「えー、だってさあ」
そう言いながら、香月先輩は笑っていた。
今の話が本当なら、すごく嬉しいことなんだけど。
それでも、どこか釈然としないのは、二人の距離が、明らかに縮まっているから。
もちろん香月先輩には、私が融と付き合っていることは伝えてある。
でも、だからといって香月先輩の想いが消えるとは限らない。
だって、あれから三年が経った今でも、私の気持ちは少しも色褪せることなく、今も、ここにあるのだから。




