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ルーイックの休日

信仰世界トゥールリア戦争儀式第二儀式場。

対戦カード:ランヘル王国VSミギュア共和国


「召喚:合成獣」

「召喚:人形兵」

「召喚:狂戦車」

「召喚:誘導弾」

「召喚:殺戮雲」


無慈悲なまでに、圧倒的な戦力だった。

阿鼻叫喚の悲鳴を前にルーイックは一人茶をすすった。


「綺麗どころは出さなくてよいのか? カメラ回っておるぞ?」

「んー、まあ、ランヘル側が出してからでよいでしょうな。我輩仮にも王者ですし」

「りょーかいりょーかい」


戦争儀式。

第三九期文明の中核。

罪人を集め戦わせ、それを再び生き返らせて戦わせる。

悪夢のような儀式である。


信仰増幅。

それがトゥールリア人の種族特性だ。


信仰が神に力を与えるのは周知の事実。

そしてその力が極端に大きいというのが「信仰増幅」である。


神からしたらとてつもなく都合のいい種族特性。

それが流行らないのには理由がある。


単純に飽和する。その一点につきる。

神々の持つ神秘の力――エルードで神力と言われてるアレである――があっという間に飽和に達し世界そのものが破裂してしまうのだ。


事実、トゥールリアでは世界が破裂したことこそないが、文明崩壊程度ならちょくちょく起こっている。

トゥールリア人の寿命は80年程度だが、生まれてから死ぬまでに文明崩壊を経験しない方がまれだといえばわかりやすいか。

中には二度も三度も文明崩壊を経験するアンラッキーな者も存在するとか。ご愁傷様としか言いようがない。


故に、トゥールリアの文明は神々の神秘の力――現地語ではリーシャという――を消費する方向に進化した。

なにせほぼ無制限にわき出てくるリソースである。

あげく消費したところでゴミも出ない。

それを基盤に文明を作ろうするのは自然である。


だが、このリーシャ。実に扱いが難しい。

強力であり無尽蔵であり、もはや神々としても持て余してるが故に、単純に願いを叶えようとすると「叶いすぎる」のである。

富を願えば貨幣経済が崩壊し、若返りを望めば親はおろか祖父母まで消失するレベルで若返る。


そして、現在分かっている一番安全な消費方法が――生き返りである。


 * * * 


「あー、向こうさんも動きましたなあ……」

「綺麗どころ行くか?」

「行きましょうか」


戦争儀式は生き返りによるリーシャの効率的な消費を目的ととした儀式。

殺し合った罪人を生き返らせてまた殺し合わせる。

その凄惨な儀式がカメラ中継されている理由が――これ。


「召還:聖女姫」

「ハイライサ、参上つかまつりました」


優雅に礼をするは第18期文明の華、聖女姫ハイライサ。

麗しの聖女姫は杖を掲げる。


「――生還」


聖女の嘆願は敵国、ランヘル側の罪人のみを的確に生き返らせる。

戦争儀式はのべ数にして規定の人数が死ぬまで終わらない。

これでランヘル側は早急にミギュア側を生き返らせる必要が出てきたわけだ。


「――解呪」

「――解呪」

「――解呪」

「――解呪」

「――解呪」

「――かい……すみません、失敗しました」

「お気になさらず。五回妨害出来たのなら十分です。――ガルギデス殿」

「ほいさ」


機械で出来た竜に騎乗した騎士が白い歯を光らせて飛翔する。

第7期文明の機竜騎士ガルギデス。

機械文明と騎士道文化の交錯するかの文明の最大戦力である。


絢爛にして豪華。

華やかにして英雄的。


そんな「使い魔」を召還する著述魔術。

その出現により戦争儀式はその有り様を根本から変えた。

今や、世界最大のエンターテイメントが戦争儀式だ。


「あー、気持ち悪い……」

「ハイライサ、回復してやれ!」

「了解しました! マスター今治します!」


そしてその最古にして最強の使い手、ルーイック・トゥータは吐き気に襲われていた。

いや、精神的なものではなく純粋に肉体的な。

純粋な魔法使い適正の低さだけはいかんともしがたい。


正直、第39期文明終了後どうやって生きていこうか盛大に困っている。

新たに発明された神聖魔法が文明を超えて存続した例は稀だ。

おそらく、著述魔術が使えるのは第39期文明中のみ。


摂理であれ、真理であれ、技術であれ、なんであれ。

人が作りしものはその文明中にしか通じない。

それがトゥールリアの絶対法則だ。


そんなことを――眼前の戦場を見ながらルーイックは考える。

阿鼻叫喚。

そんな言葉がふさわしい戦場を見ながらつらつらと考える。


一歩間違えば――自分とて向こう側だったのに。

この差はなんだろうか。


ルーイック・トゥータ。

意味は「63番目の」。

被検体番号63番。それそのままの筆名だ。

たまたま実験が成功し、著述魔術が発動しただけの――63番目。


そうなる前のレーバイエ・ガーターに絢爛な武勇などありはしない。

ただうつろな目で空想を遊んでいた無宿人。


「いやはやまったく……」


確かにこんなヒエラルキーなどなくなって当然だ。

自嘲気味に笑って、ついと顔をなでる。

そこでふと思い出す。


揺るぎなきヒエラルキーと自身の劣性を信じていた皿洗いのことを。

結局聞かなかった問いの答えを。


いったいなにが――彼を生かしているのか。


その答えが聞きたいと強烈に思った。


太陽はまだ頂点に届かない。

阿鼻叫喚の戦争儀式のただ中で――そんなことを思った。

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