52話 嵐が来る前の静けさは
「ミューム、か。異星人には一度会った事があらァ、まあ、一発で仕留められたがな」
同じく仕事をする事になった眷属餓鬼、騙。
彼はワザトより少し年上のヤンチャそうな見た目をしている。安寧人たちからは問題児ほどではないが、呆れられていた。
なんでも生前の記憶を消去できない謎個体だそうだ。感染時に抗体があったため、脳は破損しなかった。――そんなことがありうるのかはさて置いて、二人はまだ感染者が少ない街を歩く。
「随分都会な街だ」
「渋谷だよ。お前は歩いたことないの」
「記憶がない。もしかしたら生前歩いていたのかもしれないけど」
ワザトはマスクやらで感染しないよう身を守る人混みを見る。
「異星人はさ、こういう時間軸には現れないんだよ。文明崩壊直前とか、物事が急変する頃合いにやってくる」
「へえ、何が目的なんだろう」
「さあ。異星人の考えなんて理解したくないね。安楽国の連中もな」
彼は日本人としての感性を色濃く残していて、異星のスカーヴァティー(または安楽国)を感染者や毛嫌っている。まあ、ワザトにはあまり関係ない話だった。
「お昼のニュースの時間です。新型ウイルスはヒトからヒトへの感染が拡大しており――」
でかいモニターにはアナウンサーとやらが映っていて、海外や日本での映像が映されている。
「……呑気なもんだよなー。この後大変になるのによ」
「――ワクチン開発が急がれていて――」
笑い会話する若者たち、何か薄い板をガン見する人、スーツを着て疲れ果てた顔のビジネスマン。
ワザトは未知の世界だったが、彼は懐かしむように眺めている。
カタル曰く地球上WHOが初めて感染が確認したのは2020年前期、それから1年間真面目にワクチンを作ろうと奮闘するが中々上手くいかない。
そんな中、当時勢いを増していたインドと中華人民共和国が競い合うように異星を機密裏に調査していたらしい。
アメリカはワクチン製造に専念すると公表。
これから起こりうる事実。
「じゃあ今は2020年か……」
「そうなるな。異星人は現れないからそんなキョロキョロすんな。逆に怪しまれんぞ」
「いや、あの薄い板が気になって」
「おいおい、観光に来たわけじゃねーだろーが」
たしなめられながらもワザトは歩き出す。やはり甘いものもたくさんあるのだろうか。




