表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】「もう遅い」のその前に~失わせ屋へようこそ~  作者: こじまき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/24

9 歪んだ妹たち(1)

今日のお客さんは、とある貴族令嬢姉妹の乳母だったという女性。


「妹のエルザ様は、優秀な姉のクララ様を慕っておられました。けれどそれがいつからか嫉妬に、そして強欲さに変わってしまったのです」


妹はお菓子みたいな小さなものからドレスや宝石まで、姉のものをすべて欲しがるようになった。


「優しいクララ様は、亡くなった奥様の『姉妹で仲良くね』という遺言を守られ、常にエルザ様に譲ってこられました。妹を大切にすることで、姉妹仲良くいられるのだとおっしゃって」


けれどいくら優しくても、いくら妹が大切でも、自分のものを奪われ続けてノーダメージでいられるわけはない。


いつか限界は来る。


「最近ではクララ様の婚約者に、エルザ様がすり寄り始めて…!」


乳母はぎゅっとハンカチを握る。


「もちろんエルザ様には止めるようお伝えしたのですが、『だって、お姉様は優しいから怒らないもの。私が欲しいって言えば、何でもくれるわ』とおっしゃって」

「我が儘と甘えが度を越していますね」

「ええ。このままではお二人の仲は修復不可能になりかねません。私がお二人ともこの腕に抱いてお育て申し上げたからこそ、責任を感じて…」


どうにか妹には「当たり前は当たり前じゃない」と学ばせ、姉には妹のクレクレから解き放たれて幸せになってほしいと。


「母親は亡くなっているとして、乳母がこれだけ心を痛めているのに、父親は何をしているのか」と疑問には思うが、貴族の家はそんなものなのかもしれない。


「…わかりました。行きましょうか」


移動魔法で屋敷へ飛び、「本物の魔導士様に会うのは初めて!ローブは着ていないの?」とあくまで無邪気な妹に毒気を抜かれながら、術をかけた。



私はお姉様の婚約者に近づいた。


いつもお姉様に優しい彼。二人は「品行方正で仲睦まじい、理想のカップル」として憧れの的。


彼を手に入れたら、私はお姉様みたいに「みんなの憧れの的」になれるはず。


「ウィル様、エルザは…私はあなた様のことをお慕いしております」


ウィル様は困ったような顔を私に向けた。


「気持ちは嬉しいよ。けれど僕はクララの婚約者だ」


わかってるわ。


だからこそ、私もあなたを好きなのだから。


「君の気持ちに応えられないことはわかってくれるね」

「いいえ、大丈夫ですわ。お姉様はなんでも私に譲ってくださいますもの。きっと私が頼めば、ウィル様のことも譲ってくださいますわ」


ウィル様は目を丸くする。


「そんなことは…!親同士が決めた婚約だけれど、僕とクララは愛し合っているんだ。冗談でも、そんなことは言うものではないよ」


「そうよ、エルザ」という声がして、振り返る。


「ウィル様まで奪おうとするなんて、もう我慢できないわ」


お姉様の声とは思えないくらい、低くて冷たい声。


「『優しい姉』であろうとしたし、『可愛い妹』だと思おうとしたけど、もう我慢の限界だわ」

「お、お姉さま…?」


お姉様は今まで見せたことがないような鋭さで、私を睨みつけていた。


「我慢しないと優しくできないなんておかしいわ。我慢し続けて、優しさをどんどん奪われて、ようやくわかったの」

「我慢って、なんのこと…」

「とぼけないで!小さいころから一緒だったぬいぐるみのラビも、お気に入りのドレスも、お母様が『クララに』と遺した宝石も…大切なものを次から次にあなたに奪われて、私が何も感じなかったと思うの!?」


だって…


お姉様は勉強もできて、美人で、いつもお父様とマルタに褒められて、みんなに好かれていて、なんでも持っている。


お母様と過ごした時間だって、お姉様のほうが長い。


お姉様は恵まれているんだから、私が少しくらいもらっても平気。


それにいつも優しくて、いつも私のことを第一に考えてくれる人だから、「譲ってくれること」が当然だと思っていた。


なのに…今目の前にあるのは、剥き出しの敵意。


初めて見るお姉様の怒りと、拒絶。


「お姉様…違うの、私は…私はただ…」


お姉様の手を取ろうとしたら、すっと払われた。


どうして。


いつだって「エルザ」と笑って、手をつないでくれたのに。


「あなたは妹じゃないわ。私からすべてを奪っていく、強欲な泥棒よ」


怖い。


お姉様に拒絶されて捨てられることが…


優しい「いつものお姉様」を失ってしまうことが、何よりも…



「ひっ…!」


妹は悲鳴を上げて跳び起きた。


無邪気に「杖を見せて」と言っていた笑顔は、どこにもない。


震えながら、まだ辛うじて味方でいてくれる乳母に縋りつく。


「マルタ!お姉さまは?お姉さまはどこ!?」

「クララお嬢様はお部屋にいらっしゃいます」


妹はごくりと唾を飲んだ。


「お姉さまは今まで、全部、我慢してたの?」

「…」

「喜んで私に譲ってくれたんじゃなかったの?私のこと、怒ってるの…?」


乳母の目が「そうだ」と告げると、妹は震える足で立ち上がって、走り出す。姉に謝りに行くのだろう。


「お姉さま、お姉様ごめんなさい…っ!」と泣いて叫びながら。


乳母は私に礼をして、彼女の後を追う。


後日、乳母からは「妹は姉に、返せるものはすべて返した。それで姉が妹を本当に許したかどうかはわからないけれど、これ以上悪くなることはないだろう」と手紙が届いた。


すでに壊れてしまった信頼や心が、きれいに元に戻ることはないだろう。


それでも、完全に壊れる前に防げたというのなら…


「…まあ、よかったのかな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ