表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】「もう遅い」のその前に~失わせ屋へようこそ~  作者: こじまき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/24

24 親の心配、子どもの心配(2)

店に戻ると、町の治安維持や犯罪捜査などを担当している子爵家の騎士が、いかにも不良少年っぽい不良少年を連れてやってきた。


少年は十五歳くらいだろうか。


「彼に未来を見せてやってほしいんです」

「なんでまた」

「こいつは夜な夜な町をうろついて喧嘩騒ぎなんかを起こしては、私たちに補導されているんです」


「そうでしょうね。そんな顔してますもん」という言葉を、何とかひっこめる。


「家に連絡すると、そのたびに母上が血相を変えて迎えに来てくれて、私たちに何度も何度も頭を下げて謝るんです。なのにこいつは母上に謝りもしなければ感謝もしないで」

「けっ…なにが母上だよ。あんなクソババア」


騎士は少年の頭をはたいた。


「実は私も昔、素行が悪かったんです。親には苦労ばかりかけて…」

「なるほど」

「『親孝行、したいときには親はなし』とはよく言ったもので、親孝行はおろか、親に謝ることすらもできなかった。この子には、そうなる前に気づいてほしくて」

「そういうことですね。じゃあこちらの免責事項にご記入を」


不良少年は「ふん」と鼻で笑い、椅子を後ろに倒してテーブルに足を乗せる。


おい、不良少年よ。それがかっこいいとでも思ってるのかな?


「汚れるし、倒れたら危ないからやめてもらえる?」と言いながら、私は彼に術をかけた。



騎士の詰め所。


いつものように夜遊びで補導されて、いつものように母親が迎えに来るのを待っている。


いつもならどのダチの親より早く来るのに…


夜が明けそうになっても、母親は来なかった。


「ちっ…クソババア!帰れねえじゃねえかよ…っ!」


「様子を見に行ってくる」と出ていった騎士が、慌てて戻ってくる。


「マック、すぐ家に帰れ!」

「お、出してくれんの?」

「ああ、送ってやるから帰るぞ!すぐ出ろ」

「なに、俺って偉いさん?」

「冗談を言ってる場合じゃない!お前の母上が倒れたんだ。医者を呼んだが…どうなるか」

「は…?」


倒れたなんて。大袈裟なんだよ。


どうせ風邪みたいなもんに決まってる。


だけど家に帰ったら、ベッドでぐったりしてる母親の顔は腐った土みたいな色で、医者は難しい顔でため息ばっかりついてる。


「心臓が弱ってるな」

「死ぬのか…?」

「これ以上無理をすれば。とにかく安静に」


騎士に「お前が母上の食事を作って、洗濯するんだ。できるか」と聞かれても、できるわけなんてない。


「できないのか」

「仕方ねえだろ!全部ババアがやってたんだから」


頭をはたかれる。


「『やってくれていた』と言うんだ!教えてやるから、自分でやってみろ。どれほど大変かわかるはずだ」

「ちっ…」


簡単なスープの作り方と洗濯の方法を駆け足で教えて、騎士は「また様子を見に来る」と言って詰め所に戻っていった。


「くそ…っ」


飯を作って食器洗って、服も洗って干して取り込んで…毎日なんて、できるわけがない。


だって、包丁で切ってしまった指に、石鹸を溶かした冷たい水が沁みて痛すぎる。ズボンの裾についた泥は、擦ってもなかなか落ちねえし。


と、玄関のドアが叩かれた。窓から覗くと、大家のジジイだ。大家が来たってことは、家賃の集金だ。


「なんだ、金なんてねえぞ」

「まだ集金日じゃないさ。ナンシーの体調はどうだ」

「俺に聞くなよ。医者じゃねえんだし」


ため息とともに「ほれ」と手渡されたのは、ほわりと温かい紙袋。


匂いが漂っているから、中は見なくてもわかる。


「なんでパンなんか」

「ナンシーからいつも頼まれてたのさ。『自分に何かあったら、マックを助けてやってください』ってな。母一人子一人で、自分は体も大して強くないのに働きづめ。不安だったんだろう」

「ちっ…」

「ナンシーはうちの掃除や草抜きなんかを手伝ってくれてね。風邪を引いたときには粥の差し入れもしてくれたよ。世話になった人の頼みを無視できるほど、わしも薄情じゃないからな」


唇を噛むことしか、できない。


「マック、お前さんはずっと母さんに守られてたんだ。今もな」

「…」

「わかったなら、母さんを大事にしなさい」

「…うるせえ」


何とかそう絞り出してジジイを帰らせ、乱暴にパンをくわえる。


「うま」


なのに、のどに詰まる。


――このパンも、クソババア…母さんのおかげ。


母さんは、ずっと俺を守ってくれていた。


無理して働きながら、周囲に頭を下げながら。


そして俺は、守られているだけだった。


強がっても本当は弱くて、結局は母さんがいなければ生きていくことすらできないから…


どうしてか、足が母さんの部屋に向く。


母さん、こんなに痩せてたっけ。


息をしているか心配で、耳を口に近づける。


すーすーと音が聞こえて、心底安心して。


だけどもしこのまま、母さんが死んでしまったら…



「母さん、死なないで…ごめん、俺…」


少年はそう泣きながら、現実に戻ってきた。


はっと我に返り、気まずそうに私を見て、騎士を見て、唇を噛む。


騎士は基本料金を支払い、「…帰ろうか」と立ち上がった。



一週間後、あの騎士が嬉しそうに報告に来てくれた。


「マックが働き始めたんです。もっと給料のいい仕事に就くために、仕事のあとには夜間学校にも行って…家事も手伝っているそうで」

「よかったですね」

「ティナさんのおかげです」

「私というより、あなたのおかげかと」


「自分に似た境遇の少年」に手を差し伸べる、お節介な騎士さん。そんな人がいないと、救われる人も救われない。一人では抜け出せないことも、きっとたくさんあるから。


「またああいう子がいたら、連れてきていいですか」

「…いいけど、テーブルに足を乗せるのはなしで。ちゃんと言い聞かせてから連れてきてくださいよ」


そう言いながら彼を見送るためにドアを開けると、目の前にローウェンさん。


今日は約束していた食事の日だった。


「ティナ殿、迎えに来ました」

「あ、どうも」


騎士さんが目をぱちくりとする。


「ローウェン殿…?とティナさんって、え、そういう…?」

「一緒に食事に行く()()です」


事実を述べただけなのに、なぜだかちょっと悲しそうな顔をしたローウェンさんに、私は「行きましょう」と声をかけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
親子の話は良いなぁ。 そして初デートなのに3件も依頼が。 でもデートの日に限って何故か次々と仕事が入ってくるのは社会人アルアル。
騎士さんがお節介で、後悔してほしくないとの思いが泣けました。少年も同じような境遇の子に声をかけて、また失わせ屋に来そうですね。 ローウェンさん、何を捨てられた犬みたいにシュンってしてんだよ……!まだ立…
 ( •̀ᾥ•́)(多少塩なコト言われたからって)止まるんじゃねぇぞ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ