001目覚め
俺の名前は、九十九神楽宵明。
今は西暦2000年代……現代の日本。
この世界には、『霊力』と言う、目に見えない特異な神秘の力がある。
霊力が集まれば、霊力の集合体である怪異が生まれる。
魔物、怪物、精霊…さらに、妖怪。
呼び名は様々だが、どれも人の生活を脅かす存在。
それらを祓うのが、陰陽師の役目。
現代より1000年以上前の昔から存在する陰陽師は、霊力を持って怪異と戦うのだ。
そして、陰陽師の名家であり、【御三家】の一角に連なるのが、俺の実家である九十九神楽家だ。
江戸時代の始まりと、ほぼ同時期に創設された九十九神楽家は現代に至るまで約400年の歴史を誇る。
そして…現在、その九十九神楽の本家の血筋であり、父の第6子に当たるのが俺だ。
俺は今日、18歳の誕生日を迎えた。
そして、俺が18歳になった時、すでに九十九神楽家は…失墜していた。
度重なる不運の連続。
敵対勢力からの攻撃。
俺以外の兄弟姉妹の悲劇の死。
これらが重なり、九十九神楽家は家を”家”として保てなくなった。
そして、俺が誕生日を迎えた、その日の内に。
俺は……………殺された
ある一人の少女に。
「……………………………………っ?!」
突如、目覚める。
感じるのは、言い難い解放感。
まるで、長い長い悪夢から目覚めたような気分。
俺は急いで起き上がる。
毛布と敷布団が足元にあった。
どうやら、今まで布団で寝ていたようだ。
俺…どうしたんだ?
頭を働かせ、必死に記憶を呼び起こす。
思い出すのは、暗い森の中と冷えた空気。
やるせない自身への後悔と、家族の誰も救えなかったことに対する罪悪感。
そんな俺の目の前に現れたのは………”雷”を纏い、長い白髪を携えた少女。
何の感情も思考も無いかのような無表情の彼女は、持っている刀の先を俺に向ける。
そして、胸の奥に走る鋭い痛み。
「うっ?!」
俺は無意識に胸を押さえた。
そうだ!俺は”彼女に”心臓を突かれたのだ。
抵抗する間もなく、刀で一突き。
俺は咄嗟に自身の胸を見る。
「…………あれ?」
だけど、そこに穴は無く、血も出ていなかった。
全くの無傷。
傷の代わりに、自分の心臓だけが狂ったように脈動している。
どうなってる?
あれは夢だったのか?!
自分が殺される光景…出来れば夢と思いたい。
けれど、あの生々しい感覚と心臓部分に残る強烈な違和感は、到底夢とは思えない。
困惑した俺は、視線を部屋中に彷徨わせる。
板目の床と白い障子。
木製の箪笥と藁で出来たの畳。
飾り気の無い襖と大きめのちゃぶ台
ここは和室だ。
んん?
俺は首を傾げる。
この和室は、何処かで見たことがある。
畳の独特の匂いが、俺の鼻へ入り込む。
それだけでなく、古い木材と、乾いた障子の香り。
湿り気を含んだ静けさと、気分を落ち着かせる雰囲気。
これらが混ざり合って、俺の胸の奥底から猛烈なほどの“懐かしい”という感情を呼び起こす。
無意識に…いつまでも、ここにいたい。
そう思っていたが、何か………可笑しい。
俺は上を見る。
天井が遠い。
18歳の俺にしては、かなり天井が上にあるように見えるのだ。
でも、すぐに気が付く。
遠いのは天井じゃない。
俺の視界が、妙に低いのだ。
そして、俺の体。
視界に移る腕や指は、不自然に短く、小さいのだ。
まるで、俺自身の身体が縮んだように。
「………おれぇのこえも」
可笑しいと言えば、俺の声だ。
喉に手を当て、何度か声を出す。
こちらも18歳の俺には似つかわしくない、小さい子供のように高く、幼い声。
ふと…視界の片隅に、大きな鏡である姿見が入り込む。
俺は布団から這い出て、姿見まで走る。
体が恐ろしく軽い。しかも、上手く走れない。
一体、そうしたんだ…俺の体は。
ふらつきながらも、俺は姿見の前に立ち、恐る恐る自分を覗き込む。
そこに映っていたのは……、
「なっ?!」
俺は驚愕する。
目に映ったものが、現実なのかどうか…心の中で何十回も思考する。
だけど、現実は変わらない。
姿見の中には、一人の少年がいた。
鉄に近い艶のある黒髪。
金色が少しだけ混じった眼球。
どれも、俺の姿に該当する要素。
でも、一つだけ違うことがある。
「おれぇ、ちぃっちゃい!!!」
俺は叫ぶ。
姿見には、18歳の俺の姿では無く、遥かに縮んだ体があった。
およそ”3歳”の姿となった俺が写っていたのだ。




