6-〈13〉
オーエンは自宅に戻って喪服に着替えた。
「?喪服が、前よりキツイ。ピチピチする……」
ミカエルがヌッと顔を出した。
「パトロールの成果でしょ。オーエン、貴方、筋肉が更に増してるわよ?」
オーエンは慌てて身を守った。
「着替えを見ないで、ミカエル!!」
「まぁいいじゃないの〜。若い子の素肌を眺めるのは、同居の役得みたいなもんよ。それよりオーエン、時間が無いわよ?」
「……走れば間に合う!」
セオドアさんと約束の四時、オーエンは走って聖ジョージ教会墓地にやって来た。
セオドアさんは、神父様と口論になっていた。
「勝手に遺体を焼くなど、なんということをなさるのですか!?最後の審判で甦る為の肉体なのですよ!?貴方は、神を否定なされるおつもりですか!?」
「うるせぇ!アンタ、今の街の状況がわからねぇのか?家族の遺体を悪魔に利用されたかねぇ。だいたい、アジア布教では、火葬しても最後の審判では甦る、で通してる癖によ。」
「それはイエズス会の解釈です、わたしは違います。こんなコンビーフ缶に遺灰を詰めるとは……主よ、セオドア・オリンズの罪をお赦しください。」
「あぁ?腐った死体に固執しやがって、これだからペストが大流行すんだよ。」
オーエンはそっとセオドアさんに近づいた。
「火葬なさったんですか?」
セオドアさんは頷いた。
「あぁ。お前ならわかるだろ、オーエン?ドナが利用されたぐらいだからな。」
オーエンは頷いた。
「お気持ちお察しします。神父様、セオドアさんは妹さんが悪魔つきみたいになってる状況下なんです。すでに、遺体を利用されている。火葬を認めてあげてください。」
神父様は反応した。
「ドナ=ジョーの遺体が、悪魔つきに?墓荒らしが確かにありましたが……家族を殺したのは悪魔?……ならば、火葬はやむを得ませんが。腕のいいエクソシストを紹介しましょうか?」
オーエンは慌てて話題を変えた。
「今はセオドアさんの御家族の弔いを。墓場に埋めるのを手伝います。神父様はお祈りをお願いします。」
神父様は、まだ悪魔つきが許せず、眉をしかめてボヤいていた。
「あんなに優しい子が、悪魔つきになるなんて……あんなに下の子達を世話して、お母さんを支えて……わたしにも、協力出来ることはありませんか?ドナ=ジョーを助けてあげたい。」
セオドアはいきなりの好意に驚き、オーエンが神父様に答えた。
「僕達がドナ=ジョーを助けます。でも、万が一、彼女が悪魔に負けてしまった時は、力を貸してください。」
「……信じて、待ちます。わたし達の出番が来ないことを、祈りながら。」
埋葬や弔いの祈りが終わると、セオドアさんが愛車のシボレーエルカミーノに、オーエンを乗せてくれた。
「お前は、聖人君子か?」
「え?」
「いいや。俺は善意でも衝突するし、すぐ口論だからな。オーエン、お前は俺の善意も神父の善意も、まとめやがった。なんでドナが、お前に惚れてたのか、徐々にだがわかるぜ。うちの親父は賢いが、冷徹だったよ。俺も、ミニカーを失くした時、引っぱたかれたからな。お前は賢くもあり、善意の人間だ。」
セオドアの意見にオーエンは照れながら、その気持ちを汲んだ。
「僕はそんな大層な人間じゃないけど……あの寡黙なお父さんは、セオドアさんやドナ=ジョーに、そんな辛辣な仕打ちをしていたんですね……。」
セオドアは遠い目をして、オーエンに告げた。
「救助活動は七時からだったか。家族がいんだろ?電話して夕飯はよそで食べると連絡しとけ。ドナが、小さい頃から大好きだった個人レストランがある。葬式の手伝いの礼だ、おごってやる。」
オーエンは目が潤んだ。
ドナ=ジョーの葬式の日から、キツめでぶっきらぼうなお兄さんだったセオドアさんが、歩み寄って来てくれたのだ。
「セオドアさん……ありがとう。」
「泣くな、こんなことで。まぁ、ドナを愛してるんだから、ここは泣いていいのか?オーエン。お前は、ドナに不幸が無かったならば、俺の義弟になってたんだ。俺もまた、寂しいのかもな。ドナの愛したレストランで、時間が許す限りだが、あいつが好きだったメニューを食って、ドナの昔話をしようや。」
「はい……はい!!」
セオドアさんの向かった個人経営のレストランは、メープル・ガーデンという、こじんまりとした、だが可愛らしい童話のようなお店だ。
ドナ=ジョーが大好きだったという、マッケンチーズ、フィラデルフィアロール、ロブスターカクテル。
色とりどりのカップケーキ。
セオドアさんの昔話からは、オーエンの想像以上に、ドナ=ジョーが苦労してきたことや、バレリーナに夢を抱いて来たことが、伺い知れた。
「……僕がドナ=ジョーを取り戻します。彼女が、またこの店で、セオドアさんと幸せな時間を過ごせるように。」
セオドアは、なにかを決意していた。
「あぁ。俺もまた、兄貴としての役割を、果たさなくっちゃあな……。」
アシャが夕飯作りを初めていると、ドナ=ジョーがバスタオルを巻いて、ひょっこり顔をだした。血まみれの下着では、アシャにもらった服が汚れるからだ。
「おはよう、アシャ。もう、夜ね?寝過ぎちゃった。」
「徹夜明けだ、仕方ないよ。ドナ=ジョー。テーブルの上の紙袋を。女性天使のアールマティに、サイズを教わって……」
ドナ=ジョーは紙袋から下着を取り出した。
「あ、綺麗な色……五つも買ってくれたの?わたし、居候なのに。」
アシャは何でも無いように答えた。
「下着って毎日取り替えるものだろう?今までが鈍感で、悪いな。」
「全然!わたしがお金かかっちゃって、アシャの暮らしは大丈夫?」
アシャは考えてから、答えた。
「俺があんまり趣味に金がかからないからな……鎧でマラソンしたり剣の重量慣れの為に素振りをしたり。食費は節約してるし、アフラ=マズダ様の目覚めまでは、バイトしてたから。父さんの仕送りは貯金してるし、心配いらないよ。」
ドナ=ジョーは安堵して、それから聞いた。
「良かった。ところで、アシャ。この下着、アシャが買ってきたのよね?どうやって?」
「聞かないでくれ。さぁ、君はシャワーを浴びてきて、着替えておいで。煮込みは時間がかかるからな。」
アシャの気苦労を察したドナ=ジョーは、深追いせず、ドタバタとバスタオルと着替えの支度をした。
「すぐ出てきて、お手伝いするわね!」
「あぁ、君は早いからな。期待してる。」
アシャが煮込んでいるのは、グラーシュだ。牛すじと野菜の煮込みで、トマト味である。
「さて、今のうちに……」
アシャはもう一つの鍋でスパゲティを茹でながら、サラダ野菜を細切りにして行く。
スパゲティが茹で上がったら、ザルで湯切りしておく。
ツナ缶とスイートコーン缶を出して、後はドナ=ジョーにお任せだ。
アシャは鍋を洗い、今度は頼まれたロブスターを茹でる。ロブスターは、ドナ=ジョーが寝る前に、頼んだ物だ。
ドナ=ジョーは髪の毛をタオルで拭きながら、早くも着替えて出てきた。
「あ、それはスパゲティのマヨネーズサラダね?すぐ作っちゃう、任せて。」
「頼もしいな。マヨネーズを使うサラダを調べたんだが、アメリカではパスタをサラダに使うのかい?」
「うん。サラダにもするし、主食にもするわよ。ただ、アシャの買ってきたマヨネーズが輸入マヨネーズだから、もしかしたら、アメリカの瓶入りマヨネーズは口に合わないかも。ちょっと酸っぱめなの。」
「輸入だったのか……」
ドナ=ジョーはテキパキとスパゲティサラダを混ぜ、アシャはグラーシュの味をみてから、今日買って来たパンを分ける。ドナ=ジョーに頼まれたホットドッグ用のパンと、夕飯にする硬いドイツパン、ライ麦のロッゲンブロートを薄く切った。
ロッゲンブロートに挟むチーズもだ。
ドナ=ジョーが尋ねた。
「スパゲティサラダが出来たわ。アシャ、ロブスターとホットドッグ用のパンは、買ってきた?」
「あぁ。茹で上がるよ。ロブスターは何に使うんだい?パンも、余ったサラダ野菜も欲しいって言われたな。はい、余ったサラダ野菜だ。」
ドナ=ジョーが笑った。
「わたしのとっておきの、ロブスターロールよ。サラダ野菜と一緒にほぐしたロブスターをマヨネーズ和えして、ホットドッグ用のパンに挟むの。マヨネーズが最高に美味しいのはこの料理だわ。粗熱が冷めたら作っちゃって、冷蔵庫に入れとくから。明日の朝ごはんね。」
アシャは驚き、喜んで、手を差し伸べた。
「俺へのサプライズか。感謝するよ、ドナ=ジョー。明日の朝も、近所のおじさん、イヤホンが必要だな。」
ドナ=ジョーは半笑いで、握手を返した。
「アシャ、明日の朝もアレやるの?美味いッ!美味いッ!て、ハッハッハ」
Copyright(C)2026 燎 空綺羅




