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God Buddy  作者: 燎 空綺羅
第六話 黎明の騎士
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6-〈11〉

 アシャがアパートに着いて、鍵を開けて入ると、寝室にドナ=ジョーがいないことに気づいた。

「起きてるのか?ドナ=ジョー?」

 洗面所に行くと、洗濯機の上に、異様に綺麗に服がたたまれていた。

 靴が並び、手紙がある。

 まるで、この世とのお別れのように。

 アシャは悪寒が駆け抜けて、バスルームを開けた。

「やめろ、ドナ=ジョー!!」

 ドナ=ジョーは、浴室でリストカットを繰り返し、下着が血まみれになっていた。

 アシャが来ても、一心不乱にリストカットを繰り返している。

「ドナ=ジョー!!これはダメだ、使わせないぞ!!」

 アシャがカミソリを取り上げると、ドナ=ジョーは絶望の表情でアシャを見た。

「アシャ……わたし、いくら切っても、死ねないの……再生しちゃう。悪神群だから、なの……?」

 アシャは、自殺について尋ねた。

「どうしたんだ、ドナ=ジョー。服までたたんで、遺書なんか遺して……!」

 ドナ=ジョーは、目を伏せた。

「アシャがくれた服を、汚したくないし……浴室なら、血が流せるし、洗えるかと思って」

 アシャはドナ=ジョーの肩を掴んだ。

「そうじゃない!!何があったんだ、君に!!アジ・ダハーカの仕業なのか!?」

「違う。違うのよ、アシャ。わたしが、悪いの……」

 アシャは医療箱からガーゼと包帯を出し、ドナ=ジョーの手首を応急手当すると、バスタオルをとって、ドナ=ジョーに巻き付けた。

「ドナ=ジョー。リビングにおいで。この場所じゃまた君が、繰り返しそうで……。」

 アシャに支えられて歩き、リビングで、ドナ=ジョーは座ると、叱られることを知っている子供のように、俯いて黙り込んだ。

「ドナ=ジョー。話さなきゃ、伝わらないよ。俺は、信頼には値しないかい?」

 ドナ=ジョーは、首を振り、恐る恐る、アシャに口を開いた。

「わたしだった。……家族を殺したのは、アジ・ダハーカじゃなくて、わたしだったの。わたしはいい子ぶって生きてきただけで、中身は真っ黒だった。アジ・ダハーカは、わたしの悪性を、解放しただけ。わたしの味方だった。わたしは……我慢を解かれただけで、まるでバーサーカーだわ。わたしの中の本当の気持ち。妬みや憎しみが、家族を殺したの。わたしは、アシャに守ってもらえるような人間なんかじゃ、なかった。」

 アシャは、父テオドールから度々聞いた事を思い出した。人間は、善も悪も持っているんだと。自身もその理解に努めなければ。

 人間に寄り添わぬ正義では、人を救えはしないのだから。

「ドナ=ジョー。人には善意も悪意も、両方あることは、わかるかい?君はアジ・ダハーカに君の理性を無くされた。俺は、少ししか君を知らないけど……妹さん達の話は、内面に妬みや恨みを抱いていても、おかしいことじゃない。それでも君は姉として、適切な対応をしてきた。アジ・ダハーカが悪を解放したなら、それは君だけが悪いのでは無い。誰だって、理性を失ったら、憎い相手に牙を剥くだろう。」

 ドナ=ジョーは首を振る。

「違う!わたしは特別真っ黒だから、アジ・ダハーカを惹き付けたのよ!アシャは、善神群だから悩めるわたしを慰めてるだけ!貴方は正義の人だから、わたしを助けようとする!でも、もう戻れない!わたしは、わたしを知ってしまったわ!」

「だが、君には善意が残っているよ。」

「どうして?何故そんな根拠のないことを言うの?わたしは、殺人鬼なのよ?」

 アシャは告げた。

「君の行動だ、ドナ=ジョー。自分を責めて、苦しんでいること。自殺行為だって。俺は決して許さないが、君は死んだ家族に会いたかったのかもしれない。または、自分を責める余り、自分を殺したかったのかもしれない。ドナ=ジョー。君が自分を責めるもの。それは、君の良心だよ。」

 ドナ=ジョーは、アシャの話が、スっと腑に落ちたのか、反抗をやめた。

「……そう、なのね。これが、わたしに残された、良心だったのね……。なんで。わたしは、アシャの正道に反する存在よ。正義の味方は悪を裁く役目だわ。なんで、アシャは優しくしてくれるの?」

 アシャは答えた。

「君に良心がある限り、俺は君を……いや。オーエンと、キングと、俺達が……君を助けてみせるから。善の投票を繰り返すことで、アジ・ダハーカの支配は弱まるはずだ。救える可能性を、わざわざ断ち切ったり、しないよ。」

「オーエンに……話してきてくれたのね。あ……アシャ?その、鎧の継ぎ目、血がついてる……」

 アシャは腕を回して見せた。

「大丈夫だ、もう治癒したし、解毒剤も効いて」

「毒!?解毒剤って、わたしよりアシャが大変だったのに……わたしって本当に自分のことばかりね……。」

 アシャは口が滑ったせいでドナ=ジョーを落ち込ませてしまい、慌てて冷蔵庫から、コーヒーと烏龍茶と苺のジュースを持って来た。

「気にするな!気にならなくなるおまじないだ、見ててくれ!!」

「え」

 アシャは大きいカップひとつに、コーヒー、烏龍茶、苺のジュースをなみなみと注いで、スプーンでかき混ぜた。

「アシャ!それは」

 アシャはカップを一気飲みした。

 涙を流し、吹き出しかけて、咳き込んで、鼻から特性ドリンクが出た。

「ガハッゴホッゴホッ……やばいぞこれ。コーヒーと苺はギリ大丈夫だが、烏龍茶がとにかくやばい。」

「あ、当たり前よ!そんな無茶したら、ダメじゃない!……鼻から出てるし。」

 ドナ=ジョーがくすくすと、笑い出した。

 アシャは安心して、笑顔になる。

「さて。口直しに、君が作ってくれたサンドイッチを、一緒に食べようか。マヨネーズのな。」

 ドナ=ジョーは笑い泣きの涙をこすりながら、答えた。

「あぁ、タマゴサラダサンドイッチね。あれは、ポテトサラダよりマヨ多めだから、アシャが好きになれるかも。」

 いざ、冷蔵庫から出して、コーヒーと共に朝ごはんタイムだ。

 アシャはドデカい声で言った。

「美味いッ!!美味いッ!!美味いッ!!」

 声がデカすぎてグラスが振動している。

「ハッハッハッハッハッハ」

 ドナ=ジョーは笑いこけて、食べるどころじゃ無かった。

 近所のおじさんが、アシャの部屋の窓に向かって叫んだ。

「おーい!何食ってるか知らんがな、テレビが聞こえねーんだわ!静かにしてくれー!!」

 アシャはタマゴサラダサンドイッチを持ち歩いたまま、イヤホンを取り出してベランダで対応。

「タマゴサラダサンドイッチだ!美味いぞッ!!悪いがおじさん、このイヤホンでしばし耐えてくれ!!」

 おじさんは投げられたイヤホンを受け取り、声を返した。

「後でポストに返すからな!アンタ、深夜には飯食うなよ!?」

「心得えた!ありがとうおじさん!美味いッ!!」

 おじさんも、なんだか、お昼はタマゴサラダサンドイッチにしようかな?と思い始めた。


 アシャは椅子で仮眠して、ドナ=ジョーはベッドでぐっすりと眠った。

 アシャは一時間で目を覚まし、今日の役割の為に、鎧では無くザシャの私服に着替えた。

 改めて、ドナ=ジョーがベッドを汚さない為に脱いだ、血まみれのブラジャーとショーツを、チラ見する。

「今日はハードルが高いぞ……。」

 アシャは鏡を見て、自分のブロンドをかきあげ、顔をチェックする。

 ザシャは童顔で目も大きい。美形なほうだ。

「いけるか……?いや、行こう!!」

 アシャはアパートを出ると、まず走ってブティックに入った。

 店員は美人のオネェだ。

「いらっしゃいませ。メンズのコーナーはこちらです。」

 アシャは鬼気迫る顔で告げた。

「大きいサイズのレディース服をください。」

「……お母さん用?それとも、貴方用?」

 アシャは苦渋の答えだ。

「俺が……着ます……!」

 店員は好印象を受けて協力的だ。

「デビューってことですね。では、サイズをお測りしましょう。最近は多いですからね、わたしも含めて。仕事は制服ですが、美しい服は大好きなので、自宅のクローゼットはもう二個目ですよ。そこそこ、差別の無い時代になりましたよね。」

 アメリカではそうだが、アシャ=ザシャの住んでいたドイツでは、まだそういった多様性があんまり進んではいない。

「はい……」

 サイズを測り、アシャが紹介された服は様々だ。

「今後胸とお尻にシリコン注入するなら、大きいサイズにコルセットがいいですね。肩幅的には大丈夫です、肥満体型のレディース服もあるくらいですからね。貴方ならレディースの3L、トールサイズくらい。お好みは、セクシー系?可愛い系?」

 アシャの頭の中で、譲れないプライドが過ぎった。

「長袖でロングスカートの、筋肉を隠せる物にしてください。あと、地味めな色で。」

「……まぁ、デビューだから無難にしたいのはわかります。でも我が国的には、地味な色でも露出が多いし……韓国ファッションなら、叶うかもしれない。取ってきます。」

 店員の取ってきたチョイスを、アシャは試着。

「肩がデカイ……!!顔だけじゃダメなんだな……!!」

 グレーの長袖でロングスカートのワンピース。至る所に、小さい黒いリボンが縫い付けられていて、白襟はセーラーカラーだ。

「大丈夫ですよ。無改造ならランク高いです。肩なんて、働いてるうちに手術費が貯まって、小さくできますから。ただ、これだけで街を歩くのはやばいです。靴はギリギリOK、韓国ファッションはスニーカーが通用します。ただ、ノーメイクと髪はダメ。ちょっといじらないと。」

 アシャは不安げに言った。

「化粧がわからないです!」

 店員は私物のコスメポーチを出し、アシャに近づいた。

「アフターサービスです。10代でしょ?肌はつやつや、メイクはリップグロスだけで充分。」

 リップグロスの後で、店員はアシャのサイドの髪を編み込んだ。

「三つ編みに黒いリボンで……うん、顎は隠せないけど、もう大丈夫です。リボンはあげるから。」

 アシャは深々と頭を下げた。

「ありがとうございます!ご親切に!どうしたら恩義を返せますか?」

 店員はびっくりして、そして微笑んだ。

「貴方が成功して、幸せになれば、わたしは満足よ。」

 アシャもびっくりして、また深々とお辞儀。

「貴方はなんて人だ。価値観が変わりました。お会計をお願いします。」

Copyright(C)2026 燎 空綺羅

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