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God Buddy  作者: 燎 空綺羅
第五話 金剛八連撃
24/70

5-〈11〉

 キングとマッマは、教会の帰り道、パン屋さんの美味しいパンをたくさん買った。

 パッパは仕事でいないが、マッマにキング、それに、カマンガー兄貴にコリンもいるのだ。

 二人でパンの大きな包みを抱えてパン屋さんから出ると、パッパが待っていた。

「見つけた!」

「親父」

「すまない、ワイアット。仕事が休めなくて……上司と同僚に頼んで、抜け出して来たよ。だいたい一時間くらいで戻らなくちゃあならないが……約束を果たそうか。」

「……おう。……お袋、先に帰っててくれ。パンは持てるか?先に朝昼にしてていいぞ。」

 マッマは頷いた。キングの持っていたパンの包みを受け取る。

「……わかったわ。パンは軽いし、大丈夫よ。」

「すまないねジル。ワイアットを借りるよ。」

「貴方は、ちゃんとワイアットを送りなさいよ?」

「勿論だ。行こうか、ワイアット。」

 パッパはキングを連れて、言った。

「立ち話も何だし、近くの公園に行こう。ベンチが空いていたよ。」

「構わねぇぜ。」

 公園に行ってみると、ベンチの近くに、ホームレスの汚い頭のおじいちゃんが、ダンボールハウスを組み立てていた。

 おじいちゃんは、頭や身体を洗えないから臭いし、ハエがたくさん集っていた。

「oh......my God……シャワーを!洗ってあげなければ……」

 おじいちゃん、振り向いた。

「え?わし、そんなに汚い?」

 パッパを、キングが正した。

「見た目で判断するんじゃあねぇ。本人が気にするようなこと言うなよ。おい、爺さん。このベンチは座って大丈夫か?あんた、ダンボールで寝るより、ベンチの方が楽なんじゃねぇのか?」

 ホームレスのおじいちゃんは、柔らかに答えた。

「大丈夫だよ。本当に暑い日なら、ベンチは楽だけれど、ダンボールは意外と暖かいんだ。でも、今日はダンボールハウスを向こうにしようかねぇ。坊ちゃんのお父さん、何やら大事な話をしたいんだろう?毛布や荷物をしまうから、ちょい待ちー。」

 キングは尋ねた。

「教会は、配給をしてくれるか?食い物は足りてんのか?」

「昔は、教会の配給があったらしいけどねぇ……このご時世だから、今は教会も配給のゆとりは無いんだよ。遠くの川辺では、ロシア移民のユーリ・ナザーロフという方が、自ら働いたお金で、配給をなさってくださる。でも、この歳で、徐々に歩けなくなってねぇ。けど心配いらないよ。新しく来たソンて若者が、チョコレートを配ってくれてる。高カロリーだから、元気になったよ。」

 キングは鞄からプロテインバーを2本出して、渡した。

「なら、良かったな。これも食いな。それから、次にソンが来たら、荷物を運んでもらえ。ナザーロフの来る川辺に引っ越せば、飯は安泰なんだろ?水浴びも出来るしな。」

「確かに、そりゃあそうだ。助言と食べ物、ありがとうな、坊や。じゃ、移動するからね。じっくり話しなよ。」

 ホームレスのおじいちゃんが去って行き、パッパとキングはベンチに座った。

「ワイアットが成長し過ぎて、パパ眩しいよ。聖書の一場面を見た気分だ。」

「そりゃあ、聖書には貧しい人に施しや助言をするように、書いてあんだ。……俺は読破してねぇぞ。これは、神父様がミサの時に、言ってたぜ。」

 パッパは感心した。

「ワイアット。多くの信者は、自分の救いの為に教会に通うんだ。宗教は人々の心の支えであり、自らを救う為に寄付をする。だから、本当に聖書の教えを実行することは、実はとても難しいことなんだよ。」

「……イエス様に倣えと、教わるのにか?」

 パッパは真摯に答えた。

「イエス様に倣える人は、聖人と呼ばれる人達なんだ。お前は、暴力や怒鳴り癖を乗り越えて、まずママを変えた。ママは、助けられたんだ、お前にね。ワイアットはこの先、色んな人達を、助けるのかもしれないよ。」

 キングは眉を寄せた。

「御託はいらねぇ。……話せよ。今までなんで、愛人の家から帰らなかったのか、を。アンタが帰って来て、一年……まだ、一年なんだ。」

 パッパは肘をつき、指を組んだ。

「まず、俺の心の在処を、知っていて欲しい。俺とジルは……知っているだろうけど、マッマはメンタルの不安定な人でね。毒親から殴られて、愛されたことも無く、大人になっても、友人間のトラブルの度リスカして、病院に運ばれてきては、厄介患者扱いされて泣いている人だったんだ。……看護師だった俺は、ジルに事情を尋ねてね。良く話すようになった。ジルは、理解者が欲しくて、話したいけれど、話すたびに苦痛を思い出してしまって、いつも泣いていたよ。そんなジルから目が離せなくてね。俺は、アリーってドラマの、優しいヒーロー、ジョン・ケイジに憧れて育ってね。ナイチンゲールとは違うタイプの、優しく人を助ける看護師が、自分の夢だと思って生きてきたんだけど、実際は違うと気づいた。ジルのような、環境悪で苦しんでいる人達を、助ける力になりたくて。本物の夢に気づいたんだ。気づいたら精神医学を学んでいて、障害者介護の資格を取っていた。一からのスタートだから、収入は激減したけれど。……病院を辞めても、ジルとは連絡を取ってたんだ。違反なんだけどね。介護士になってから、初任給でジルに婚約指輪を。ジルは、愛されることに戸惑いながらも、嬉しそうに泣いたんだ。俺には、初めて見たマッマの悲しくない涙だったから、今も昨日のことのように覚えているよ。」

 パッパの話に、言い訳染みたものは無かった。

(パッパは、嘘をついてはいませんよ、ワイアット。少しスキャンしましたが、パッパには本当に鮮明なお母さんの笑い泣きが、記憶に存在しています。)

(天使様……そうだな。親父を、信じてみるぜ。)

 キングは、頷いてから、尋ねた。

「アンタのお袋への愛情は、信じることにすんぜ。だが……それだけの愛情がありながら、何故お袋を……俺を、裏切った……?俺は、アンタに愛されていたのを、自覚していた。だからこそだ。アンタが愛人の子に気移りした事が、まだ納得いかねぇし、気持ちを理解出来ねぇ。」

 パッパは、深く頷いてから、話し出した。

「マッマとワイアットを愛しているよ。心からだ。問題の、浮気疑惑なんだが……幼いワイアットの大事な時期に、傍に居なくて、本当にすまなかったよ。当時、俺はまだ介護士だったけど、マッマも働いてくれていて、ワイアットに不自由をさせないようお金を集めながら、夜は家でマッマとワイアットと過ごして、幸せだった。何一つ不満が無かった。ワイアットのお風呂遊びや、寝る前の冒険物語の読み聞かせ。ワイアットの趣味のミニチュア機関車が部屋中を走り回りながら、ワイアットが眠ること。俺の幸せが、そこには詰まっていたんだ。」

「知ってんだよ、それはよ。アンタは俺が無茶ぶりしても、喜んでたしよ。だからこそ、わからねえんだよ。アンタに、何があった?」

 ローレンスこと、パッパは、遠い目をした。

「介護の、仕事先で……不幸にあった女性がいてね……アニーという人だよ。DV彼氏がヤク中で、長年に渡って暴行されてきて。ある日、ついにラリった彼氏が拳銃を持ち出した。アニーは撃たれて、ようやく警察沙汰になって、アニーは彼氏と別れることが出来た。でも、撃たれたアニーは、その時から下半身不随になって。それで、介護士の俺が、アニーの担当になって、働いていたんだよ。掃除したり、オムツを替えたり。周りより早い時間に、アニーの夕飯を作って、食べさせてから、上がる。俺たち介護士にも、家族がいて、夜は帰宅するからさ。アニーとは長い仕事関係で、絆も信頼も芽生えていたと思う。」

 キングはこの時点で、なんとなく察した。

「アニーに、何があった?また不幸が?」

「……アニーは、可哀想な運命を辿ったよ。何度目かの、下半身に神経を通す為の手術に挑んだ。手術はまた失敗で、アニーは傷口が治るまで個室で入院していた。その時に、あろうことか汚職看護師が、アニーをレイプしたんだ。」

「……裁判は?」

「俺もアニー側の証言台に立ったが、被害者であるアニーが精神的に不安定で、相手の弁護士にも歯が立たなくて。結果、汚職看護師は無罪放免、アニーは賠償請求を受けた。」

「腐った法廷だぜ。」

「その後、俺はアニーから頼み事を話された。アニーは妊娠し、お腹が張るまでの間に考えぬいたという。最終的に、赤ちゃんには罪は無いと、アニーは考えた。赤ちゃんを殺したくない、生まれてくる命を、大事にしなければならない、と。」

「……下半身不随だろ。育てられないのに、どうやって命に責任を果たす気だ?そりゃあ、腹ん中の子供に罪はねぇよ。だが、不幸にする為に生むのなら、子供は、生まれてきたく無かった、と思うだろうぜ。」

 パッパは苦笑いした。

「辛辣だが、正しい意見だよ、ワイアット。親の責任を果たせない奴らはたくさんいて、だから俺たちのような、苦しむ人達を支える仕事があるのだから。……アニーは、少し違った。俺に、赤ちゃんを本当に幸せに出来る、人格者の里親探しを、まず、頼んだんだ。そして、それまでの期間に、子供と過ごす為に、力を貸して欲しいと。」

 キングは、頭の中で、父親の謎の全てのピースがハマった。

「俺は7歳になっていたからな……五体満足なお袋も、ついていた。浮気だ、愛人だ、と、荒れたがな……」

 パッパは言い訳はしなかった。

「マッマに反論出来る立場じゃあないよ、俺は。事実、アニーの頼みを引き受け、会社にアニー宅の契約内容を増やしてもらって、お前達にお給金こそ送り続けたものの……ずっとアニーと、生まれてきた赤ちゃんの世話をしてきた。赤ちゃんは、名付け親を頼まれて。ジオットと名付けたよ。ジオットは、ワイアットと同じ、戦争に勇敢という意味の古い英語名だ。俺は里親サークルに出入りし、里親達の内面を探りながら、アニーとジオットの家に帰る。ベビーシッターには、アニーの世話は出来ないし。アニーは下半身不随の障害を抱えながらも、ジオットに言葉を教えたし、俺とアニーは話し合って、ジオットに夢を与える為に、アニーの車椅子とジオットの抱っこ紐で、映画館や遊園地に行った。ジオットは歩けるまでに育つと、映画DVDのジュラシックパークを、何度も借りてきては、アニーと俺と観た。余りにも借りて来るから、最終的にはジュラシックパークのシリーズDVDをアニーが買ったよ。ジオットは、恐竜に夢を馳せたんだ。」

 アールマティは、全ての判断をキングに委ねた。

 キングは、はっきりと告げた。

「愛人でも浮気でもねぇ。アンタは……親父は、人助けに生きた。何が後ろめたい事がある?そんな話なら、何故俺に話さなかった?」

「ジルには度々電話して説明したが……ワイアットが幼いうちに話してたら、複雑だったろう。いきなり、ワイアットの弟のような子だよ、と、ジオットを紹介したって、訳が分からない話だよ。それに、愛人では無くたって、俺にもアニーとジオットには、家族愛が芽生えていたのは事実なんだ。仕事と割り切っている介護士もいたけど、それは利用者が感じてしまう敏感な問題だし……真の愛での福祉が、俺のポリシーだったからね。俺は、二つの家族を持ち、非難されるのは、当たり前のことだ。……ジオットが8歳になると、俺はようやく里親サークルの腹の中の探り合いに、叶う人達と出会った。アニーの願った里親を見つけられた。父親が考古学者で、化石にも知識がある。中流家庭並の収入、両親共に内面も人格者で、母親が子宮の病気で子宮を失っているから、後から実の子とジオットへの格差が生まれる心配は無い。失礼な話だけど重要な話でね。ジオットの話を伝え、改めて会った日に、彼らがジオットの為に作った子供部屋を見せてもらった。まるで恐竜博物館だ。図鑑もおもちゃも、立派なものだった。それを見て安堵し、決意したよ。俺は、アニーとジオットの別れを、見届けたよ。ジオットはもう8歳で、アニーの世話をするから、アニーと引き離さないでくれと、泣いたよ。だが、アニーは、ジオットに幸せになれる家に行くように、話して聞かせた。ジオットが大人になったら、またここに会いに来ることが出来ることも。ジオットが立ち去る時は、ドナドナに歌われる、売られる子牛のようだった。胸が痛んだし、その後のアニーとジオットが、幸せかどうかは、わからない。俺は昇進の階段を登って行き、現場の介護士では無くなって、もっとたくさんの人達を支援する、上の立場になっていたからね。」

 キングはベンチから立ち上がった。

 照れ隠しの癖は母親譲りで、そっぽを向いて話した。

「一年だ。うちにアンタが帰ってきて、たった一年。だが、8歳だったジオットや、下半身不随のアニーには、長い期間だろ。たまに様子を見に行くべきだ。お袋は……まだ、信じることが出来ねぇんだろうよ。だが俺はアンタを許す。大型二輪だって……本当は、嬉しかったぜ……仲間に自慢しに行ったしよ……。」

 パッパは息子にハグして、キングはハグを煙たがって引き離した。

「おい!ハグはよせ!」

「ワイアットの大好きだったチャイナタウンのレストランに行こう。甘酢の肉団子やグリンピースの乗ったシウマイが、好きだったろう?次の休みに必ず連れていくよ。あ……マッマと休みのシフトを合わせながら、調整する。三人揃って食べに行こう。」

 キングは無骨で、ぶっきらぼうだが、不器用に微笑んだ。

「……あいよ。」

Copyright(C)2026 燎 空綺羅

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