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God Buddy  作者: 燎 空綺羅
第四話 運命への、叛逆
10/70

4-〈1〉

 日曜日。

 オーエンは介護施設のプールの清掃アルバイトに行った。

「綺麗な靴だね。とても、君に似合うよ。」

 デッキブラシで擦りながら、オーエンはあの日ドナ=ジョーに言い出せなかった言葉を思った。

「靴?あぁ、この靴みたいなサンダルね……ありがとう。でも、ごめんなさい。ややこしいわよね。」

 きっと、ドナ=ジョーはそう言う。

 サンダルか靴かは、メンズのオーエンには難しい解釈で。

 だから、言わなかった。

 プールを洗いながら、過ぎった。

 ドナ=ジョーのお葬式は、家族内のこじんまりとしたものだったが、オーエンは招待されたのだ。

 おかげで、棺の中にいる綺麗なドナ=ジョーに、最期にまた会えた。

「主よ、慈悲深き天の父よ。この若くして失われた魂を、どうか貴方様の身元へ導いてください。」

 神父様の祈祷が、長々と続き、やがて男手で穴を掘り、棺を埋めた。

 さようなら、ドナ=ジョー。

 僕の愛した君。

 ドナ=ジョーの家族に食事に招かれた。

 ドナ=ジョーの家族は、寡黙なお父さんと、涙ながらのお母さん、真顔のイカついお兄さんと、泣かないマイペースな妹さん達だ。

 食卓で、オーエンは尋ねた。

「本日は、大事な友達であるドナジョーとの別れに、招待していただいて。ありがとうございました。」

「あんたを呼ばなきゃ、ドナに叱られちまうからな。」

 スキンヘッドの兄、セオドアさんが告げた。

 お母さんは、涙ながらに肉料理を切り分けてオーエンに渡した。

「ドナ=ジョーは貴方に夢中だったわ。いつも、わたしを支えてくれた優しい子。でも、頭の回転の遅い子で、未提出の課題が増えてく一方。あの子は、賢いオーエン君に恥ずかしくないように、少しでも課題を減らしてから近づきたいって……でもオーエン君が具合が悪い日は、さすがに話しかけたみたいね。もっと積極的な子だったら……私は賛成だったの。もっと頻繁に夕食会をして、家族と同様にオーエン君にお肉を切り分けて……ああ、悲しいけれど最期に叶ったわ。ほ、本当なら、ドナがお手伝いした、マヨネーズのサラダが……並ぶはずだった……」

 オーエンは涙腺が持ち堪えられず、涙ながらに肉料理を頬張った。

 最後だけど、本当はとても身近だった人達。

「そうなっていたら、僕はきっと有頂天でした。僕は、遠くからドナ=ジョーを見ていただけの……彼女は高嶺の花で、だけど、優しくて……」

 ドナ=ジョーがいないプール清掃は、時間も二倍かかった。

 ホースで水を流す時、オーエンは異変に気づいた。

 水の溜まる排水溝に、大量の髪の毛が絡まる。

 髪の毛なんて、短髪のオーエンでもないし、掃除中落ちていた訳でも無かった。

 介護員からおじさんがやって来た。

 空は、暗がり初め、降り始めた雨足は強くなり、雷が鳴っていた。

「なぁ、アルバイト君や!街にまた怪奇現象だぞ!悪霊が出たから!仕事どころじゃない、君も、タイムカードを切っておくから、早く逃げなさい!」

 排水溝から、髪の毛が伸びて、おじさんに向かった。

「ああ!!」

「危ない!」

 オーエンはデッキブラシで髪の毛を縛り上げ、抑え込む。

「先に逃げててください!」

「すまない!我々は近くの教会に行くから!いいか?街には行っちゃいかんぞ!」


 オーエンは街に向かおうとし、思い直した。

 イライジャを呼ぶべきだ。

 それに、ミカエルやラジーにも、一般人をお願いしたい。

 皆思うことはひとつだったのか、スマホを使うまでもなく、オーエン宅前の交差点で、オーエン、ミカエル、ラジーは鉢合わせた。

「街に行くよ。力を貸して、皆。」

 オーエンに、ラジーが頷いた。

「僕も街に行くよオーエン。騒ぎで仕事は早上がりだし、カリオストロの糸で市民の幾らかは助かるでしょうよ。」

 ミカエルはオーエンに告げた。

「オーエン……あんた、イライジャのことは?」

「ドナ=ジョーのことを、吹っ切れた訳じゃないけど……約束だから。イライジャを呼びに行く。一緒に戦わないと。」

「……なら、急がないとね。」

「ミカエル?」

「オーエン。街に現れたのは善神群アムシャ・スプンタと悪神群ダエーワ。彼らの標的ーーーたった一人で戦っているのは、イライジャよ。仲間もみんな敵に回して。あたし達サイドの仲間が、善神群を抑えようとしてるみたいだけど、数が数だわ。」

「そんな……イライジャ……どうして?悪神群はイライジャに従うはずだろ。」

「それは、自明の理よねオーエン?悪神群が従うのは悪神のイライジャであって、貴方を助けるイライジャじゃあないのよ。」

 アジ・ダハーカだ。イライジャは仲間を殺している。

 それに、あの日の戦いは、イライジャはオーエンを殺そうとは、しなかったじゃないか。

 やられっぱなしだったイライジャは、相応しくないと思われてしまったんだろうか。

「オーエン、貴方が行けば善神群だけでも止められる。さぁ、あたしのバイクに」

「間に合え……ッ」

 オーエンは走り出した。斜面も屋根上も。

 ミカエルは腕を組んだ。

「そぉよね。ラジー、乗ってく?」

「よろしくね〜。」


 コロンビアの繁華街。

 ビル群は善神群と悪神群の乱戦状態にあった。

「いやぁぁぁッ!!」

 イライジャは善神群のアシャ・ワヒシュタの一撃をすり抜けて腕の刃で反撃するが、そこを背後から悪神群のアエーシェマにステッキで叩きのめされ落下し、叩き込む女悪魔ジャヒーの鞭に縛られ、引きずられ、何とか腕の肉ごと鞭を切り裂き、猫背の姿勢で距離を取った。

「悪神群が仲間割れしているうちに、俺たちでトドメを!!アールマティ、支援してくれ!」

 善神群アムシャ・スプンタは、こちらでも意見の対立があった。

 突撃する銀の全身鎧に金髪の青年に対し、浅黒い肌にゴリラのような筋肉質、首に金のチェーンを提げ、黒いタンクトップの男が、彼のイライジャへの攻撃を棒術と空を移動する雲で阻むのだ。

何故(なにゆえ)阻むのだ、ウォフ・マナフよ!!」

「おい。やめろよ。善神のダチだろ、こいつは。」

 動物界の統治者ウォフ・マナフを宿せし、孫悟空である。

 聖なる火の守護神アシャ・ワヒシュタは、悟空に剣で打ちかかった。

「善神様の友人であろうが!彼は善神様の育て親を殺害し、愛する人を殺しているんだッ!!世界の秩序を守るため、排他すべき悪である!」

 大地の守護神スプンタ・アールマティは英雄アーラシュを率いて、自身は様子を伺っている。

「女神よ。善神様は悪神との対立を望んでいない……と。」

「ええ、そうです。悪神側も、善神様への刺客を殺した……悪神の実子、アジ・ダハーカを殺害しています。」

「友情で乗り越えるのでしょうか。……地獄と天国。両者必要ならば、俺が国境を作りましょうか?」

「いざとなれば……そうなるやも、しれませんが。」

 金属・鉱物の守護神クシャスラは、逸る善神群の戦士アシャと、ウォフ・マナフの激突に肝を抜かしながら、書類の束を抱えて駆け回る。

「アフラ=マズダ様の王国の見直し!?わたしはもう完成させていたのに!!」

 アフラ=マズダ王国の建築図案やその後の悪神群の処遇の書類を抜き出し、バタバタと新しい制度を書き込みながら、慌てて手を止めた。

「せいてはいかん!まだ、アフラ=マズダ様のご意見が無いのだ!」

 天の王権を象徴する。アフラ=マズダによる善の王国建設に尽力するのがクシャスラの役割だ。

 マスコミは天候に負けじとカメラを回した。

「音声!彼らの発言を拾えるか?」

「この豪雨ではとても!」

 水の守護神ハルワタートと、植物の守護神アムルタートは、力を合わせて地上に降雨をもたらし、人々を遠ざけていた。


 イライジャを襲うのはアシャ・ワヒシュタだけではない。

 悪神群ダエーワだ。

「やはり、やはりだッ!オーエン・テイラーを始末するとだけ挑発した程度で、悪神様がわざわざ街までおいでになられるとはッ!!」

 アエーシュマ、怒りと欲望を司る悪魔だ。ここでは19世紀の紳士の姿をし、イギリス訛りで語っている。彼らは霊的な存在であり、人間の依代により、姿形は変わるのだ。

「まぁ、おいたわしいお姿ですわ、アンリ・マユ様」

「お前も仲間割れしに来たくせにか?」

 美しいガーターとボンテージの女がイライジャをからかった。

「まぁ、悪神様。お戯れはお辞めになって。あたしたちは腑抜けた貴方様に、善神との決着を覚悟していただく為に、あえて牙を剥きますのよ。」

 ジャヒー。

 女悪魔、売春婦の支配者。女性に月経の苦しみを与えたとされる。

 ビル群の側面を走り、跳躍しながら、徐々にイライジャは追い詰められていく。

 ジャヒーの鞭が特に厄介だ。

 その時、イライジャを護衛する側の悟空が本能的に悟った。

「下がるな!罠だ!」

「え」

 イライジャは飛び込んでしまった。

 そこで、液状のボールに閉じ込められた。

 アエーシェマとジャヒーの作ったトリックに陥ったのだ。

 仕掛けられた小型魔法陣がイライジャを探知した途端拡大し、イライジャを液状のボールに閉じ込めてしまった、と言える。

 脱出しようと、内側からボールを叩くが、ボールは割れない。

「クソ!!」

「わたしがメソポタミア文明から学んだ、エンキドゥ救助派の研究ッ!!神にしか効かない技術が、まさか本当に使用する日が来ようとは……これは、我々がアンリ・マユ様の為に介入したと考えていただきたいッ!!」

「計算通りなら、悪神様はもう、エネルギーが切れるわ。このトリックは、最大出力にでもなられない限り、破れっこないはずよ。」

「元から俺を閉じ込める気で……おい!何をする気だ!?」

 アエーシェマとジャヒーは薄く笑った。

「味方は悪神様の大事な人間に入れますわ。決戦までに、また殺されては、困りますもの。」

 二人は立ち去り、イライジャは勘づいた。

「陽動か!まだ、悪魔がいる……アミナ!アルブレヒト!!」

Copyright(C)2026 燎 空綺羅

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